寄稿・インタビュー
林外務大臣による現地紙寄稿(フィリピン)
「マルコス大統領と築く日・フィリピン関係の未来」
マルコス第17代大統領の御就任に心からお祝い申し上げます。岸田文雄日本国内閣総理大臣の特使として大統領就任式に参列することを大変光栄に存じます。
昨年、日本とフィリピンは国交正常化65周年を迎えました。第二次大戦で戦火を交えた両国は、戦後未来志向で共に歩み、信頼関係を育んできました。この間、二国間協力は多方面で進展し、両国国民に不可欠なものとなっています。さらに、近年、両国はシーレーンを共有する隣り合う海洋国家として、地域の平和と繁栄を確保すべく、法の支配に基づく「自由で開かれたインド太平洋」の実現に取り組んでいます。最近の主な二国間関係の進展を、三点ほど御紹介します。
第一に、経済・開発分野です。フィリピンにとって日本は、最大の輸出相手国であり、開発協力資金(ODA Portfolio)の4割を占める最大のドナー国です。とりわけ、2017年1月に表明された5年で1兆円(約4760億ペソ)の支援は、予定より早く昨年に達成されました。日本は約束を守る国であることを強調します。日本は、例えば、マニラ首都圏地下鉄事業(Metro Manila Subway Project)、中部ルソン高速道路建設事業(Subic-Clark-Tarlac-Expressway Project)、ダバオ・バイパス(Davao City Bypass Construction Project)等のインフラ整備を支援し、フィリピン国民の生活向上に貢献しています。また、警察支援や防災・減災対策も進め、安全・安心な暮らしの実現を後押ししています。マルコス政権との間で、こうした取組を今後も拡大し、フィリピンの経済社会発展に貢献していく考えです。
第二に、人的交流です。日本在住のフィリピン人は、国籍別で第4位で27万人を超えており、2019年までの7年間でフィリピン人訪日者は7倍に増大しています。新型コロナで停滞した観光客の訪日は、今月からパッケージ・ツアーへの参加により可能となりました。是非、多くのフィリピン人の方に来日いただきたいと思います。
日本におけるフィリピン人の活躍は多岐にわたります。日本で働く在外フィリピン人労働者は介護・農業・製造業など様々な分野で、日本経済と日本国民の暮らしを支えています。また、フィリピンは日本人学生に人気の留学先であるだけでなく、日本の教育現場やオンライン講座において、フィリピン人教師が日本の英語教育を支えています。さらには、日本の国技である相撲で、フィリピン生まれでシニガンで育った御嶽海関が、本年、番付(ranking)で2番目の地位に昇進するまでになりました。こうした関係は、両国の人的・文化的交流が大きく進展した証左です。マルコス政権下で更に進むであろうポスト・コロナの経済回復に向けて、両国の人的往来がその基礎となることを期待します。
第三に、安全保障分野も忘れてはいけません。地域の厳しさを増す安全保障環境を踏まえ、今年4月、両国は外務・防衛閣僚会合(「2+2」)を立ち上げ、安全保障協力を強化していくことで一致しました。両国は、法の支配や民主主義と言った共通の価値や利益を有する戦略的パートナーです。これまで積み重ねてきた防衛装備協力、防衛交流・共同訓練などの安全保障協力が、マルコス政権との間でも着実に進展することを願って止みません。
さらに、日本は、巡視船建造を含むフィリピン沿岸警備隊の能力向上支援も実施しており、引き続き周辺海域の安全・安定に貢献していく考えです。
これまで、日本とフィリピンはお互いに手を取り合って、いくつもの困難を乗り越えてきました。2011年の東日本大震災の際には、フィリピンからの医療支援チームが支援してくれました。新型コロナの最中には、日本からフィリピンに300万回分のワクチンや1200億円の円借款を供与し、昨年12月の台風オデットの被災地域には、1300万米ドル規模の緊急人道支援を行いました。「困った時の友は真の友」。まさに両国の関係を表す言葉ではないでしょうか。
マルコス大統領の任期中、両国は国交正常化70周年と戦略的パートナーシップ15周年を迎えます。これまで我々の先人たちが築き上げてきた助け合いの精神を更なる高みに押し上げるべく、マルコス大統領率いる新政権と緊密に協力していく決意をここに表明させていただきます。