寄稿・インタビュー
菅総理大臣インタビュー(2021年8月11日付、ニューズウィーク誌(米国)電子版)
「独占インタビュー 菅総理、中国の貿易脅威とオリンピックのハイライトについて述べる」
コロナ禍でのオリンピック開催に対する日本での広範な反対
オリンピック開催について色々問題になったが、大会が始まって以来、多くの国民が、スポーツの力とでも言おうか、アスリートのパフォーマンスに魅了されている。多くの国民がテレビの前で観戦して応援している。そういう中でこの開催を否定する声はあまり聞かれなくなったと思っている。
今後の日本の経済政策の優先順位
総理に就任して以来、規制改革は最優先の政策の一つ。既得権益や前例主義を打破し、規制改革を進めることで、次の成長の突破口を開くことができる。我が国経済が世界をリードしていくためには、「グリーン」と「デジタル」を車の両輪としなければならない。総理大臣に就任して、2050年のカーボンニュートラルを決断した。温暖化対策は経済の制約ではなく、むしろ、新たな投資やイノベーションを生み出すものであるという発想の転換を行った。「グリーン成長戦略」をとりまとめ、洋上風力や水素等14分野で目標を設定。2兆円の基金や、税制、規制改革、国際的なルール作り等、あらゆる施策を総動員し、革新的な技術を確立し、実用化を進めていく。2030年には約140兆円の経済効果を見込んでいる。
もう一つの決断は、「デジタル庁」の設置である。デジタル化の遅れは日本にとって長年の課題であり、今回の感染症においても様々な課題が浮き彫りになっている。デジタル化を思い切って進めなければ、日本を変えることはできない。そういう思いの中で、9月1日に改革の司令塔として「デジタル庁」を発足する。民間部門のデジタル化も進めていく。テレワークや遠隔医療を拡大し、オンライン診療を可能にする。そして、地方にいても都会にいても同じように働けるようにすることで、日本経済の活性化につなげていく。
中国のサイバー攻撃対策
経済大国となった中国が、国際社会のルールに則って、大国としての責任をしっかり果たしていくことが、日本経済、世界経済の更なる発展のためにも極めて重要だと思っている。サイバーセキュリティについては、米国を含む有志国と連携しながら対策を講じていく。これは、官民連携の取り組みとなる。米国との連携については、ハイレベルの機会を活用していきたい。中国とも意思疎通を続け、懸案を一つ一つ解決し、言うべき点はしっかり主張していきたいと思っている。
中国にルールを守らせるために日本ができること
(米中間では)通商問題や先端技術を巡る競争などの問題がある。こうした国際社会における懸念事項については意見の対立があり、我が国は信頼関係に基づいて米国と協力していく必要がある。このような懸念に対処しようとする場合、特にサイバー攻撃や安全保障分野について、同盟国・有志国が連携して、中国が関連する問題にあたっていくということが極めて大事だと思っている。
一部の日本企業に対して、サプライチェーンを中国から日本や東南アジアに移転させるための補助金を出す動き
安定的なサプライチェーンは、安全保障の観点からも極めて重要だと思っている。中国外しを目的とするのではなく、日本国内にサプライチェーンを移転するよう奨励している。そうした企業及び中国からASEAN諸国等への分散についても支援している。
台湾をめぐって米中が対立した場合の沖縄の潜在的な脆弱性
沖縄県民は日本の国民であり、国としてしっかり守っていくのは当然だと思っている。沖縄には米軍基地が多くあるが、日米同盟の中でしっかり守っていくというのは日本政府の極めて大事な役割だと思っている。
日本の防衛費
安全保障環境は、ますます厳しくなっており、国民の命と平和な暮らしを守り抜くことは政府の最大の使命だ。宇宙・サイバー・電磁波を含む全ての領域における能力を有機的に融合し、我が国自身の防衛力を強化していく。そのために必要な防衛関係予算は、厳しい財政状況の中ではあるがしっかり計上していく。なお、政府として、防衛関係予算をGDP1%以内に抑えるという考え方はとっていない。
オバマ前政権が当初提案していたTPPへの米国の復帰を望むか
残念ながら米国がTPPに入らなくなって、今日本はとりまとめ役として行っている。そこに今度英国も入りたいとか、色々な国に戦略的に自由貿易を広めていくことは極めて大事だと思っている。今年日本は議長なので、自由で公正な貿易というものを進めていくということで、米国に復帰してもらいたいというのは正直な思いだが、なかなか難しいということも承知している。
オリンピック開催を進めようと決意した理由と、これまでで気に入っている瞬間
世界がコロナ禍に直面する中にあって、世界が団結して人類の英知で困難を乗り越えていくということを世界に示していく、このことが極めて大事だと思った。
私自身、前回の東京オリンピック・パラリンピックの時は高校生だったが、当時の印象は未だに目に焼き付いているほど強烈なものである。そういう面で、子供や若者にもそうした夢や感動を与えてあげたいという思いだ。連帯・相互理解・人類の調和はオリンピック精神である。そうした理念に基づいたオリンピックを開催すると決意した。
気に入っている瞬間は、新しい種目のスケートボードにおいて(日本が)男性・女性とも金メダルを取ったことだ。スケートボードのようなものは日本ではなかなかマイナーだったが、これで一挙に広まっていくだろうと思う。女性の金メダリストは13歳。今大会で最年少の金メダリストだ。