寄稿・インタビュー

「菅総理、日本は五輪開催にとって安全と述べる」

令和3年8月12日

 菅義偉首相は、新型コロナウイルスの世界的流行の最中に東京五輪を開催するという自身の決定を擁護し、欧米諸国に比べて日本の感染者数はわずかであり、感染防止のための規律意識も高いと述べた。
 東京五輪は日本及び世界にとって危険であるという批判がある中、今月初めに無観客の開催を自ら決定した開会式を3日後に控えた20日、菅氏はウォール・ストリート・ジャーナル紙のインタビューに応じた。
 菅氏は、毎日何万人もの新規感染者が出ているにもかかわらず、英国で最近行われたテニスのウィンブルドンやサッカーの試合が、マスクをしていない観客で満員の競技場で開催された例を挙げた。
 「全体を見て、感染者数がご承知のとおり海外と比べると一桁以上と言っていいくらい少ない。ワクチンも進んでおり、感染対策も厳しくしている。そういう中で今、申し上げたように環境は揃っている、準備はできている」。
 日本では公共の場ではほぼ全員がマスクを着用しているが、これは五輪で選手を含む5万人以上の人々が訪れる中で、日本を守るために重要なことだと菅氏は述べる。「私はマスクを外して話すことがやはり一番広がりやすいと思うが、このような対策を日本は徹底してやっている」。
 菅氏は、周囲の人々からも、大会を中止したほうがいいと何度も助言を受けたという。「やめることは一番簡単なことで楽なことである。(困難に)挑戦するのが政府の役割だ」。
 東京では6月下旬から感染者が増え始め、菅氏は7月12日から五輪閉幕までの期間、東京都で緊急事態宣言を発令した。他国のロックダウンとは異なり、日本ではほぼ通常通りの日常生活が営まれており、今回の措置の主な内容は、レストランやバーの時短営業と酒類の提供を控えるよう求めるものだ。
 要請に反して営業を続けているバーもあるが、菅氏は「日本人は政府がそういう方向を示すと多くの人が協力してくれる」と述べた。
 日本の1日あたりの新規感染者数は、20日には約4000人で、人口に占める感染者数の割合は米国の約4分の1となっている。コロナ感染者数を追跡しているウェブサイト「ワン・ワールド・イン・データ」によると、日本では高齢者の5人に3人、人口の22%がワクチン接種を終了していることから、死者数は急速に減少し、死者数の人口比は米国の約7分の1となっている。
 菅氏は、「日本の状況というものはやはり数字に表れているので、世界に発信すべきだと思っている」と述べた。
 東京が大会開催権を獲得した2013年、菅氏は当時の安倍総理に次ぐ政府の事実上のナンバー2だった。昨年9月、安倍総理が大腸の病気を理由に辞任した後、72歳の菅氏が総理に就任した。
 菅氏は、自身が、日本との契約上、大会を中止する唯一の権利を有するIOCの人質になっているという説を否定した。「そこはまったくない。日本が手を挙げて、日本でオリンピックをやりたいといって招致をしてきた」。IOCについては、「押し付けられるようなことだったら跳ね返す」と述べた。
 雪深い東北のイチゴ農家の息子である菅氏は、1970年代半ばから政治家として徐々に出世していく中で、その粘り強さで評判になった。
 菅氏の経歴は「日本政界のトップレベルでは非常に珍しい」と、自身のシンクタンクを運営する政治学者の三浦 瑠麗氏は述べる。菅氏の経歴は、コロナ時代に世界中が注目する五輪を成功させるなど、ありえないことをやり遂げる自信をもたらしているという。
 「菅氏の本能はリスクを冒すことだ。何度もリスクを冒してきたからこそ、今の菅氏がある」と三浦氏は語る。
 しかし、今のところ、菅氏は政治的に深刻な状況に陥っている。週末に行われた毎日新聞の世論調査では、菅内閣を支持しないと回答したのは62%で、1か月前に比べて7ポイント上昇している。菅内閣を支持すると回答したのはわずか30%で、これは最近の他の世論調査と同様の結果であり、日本人の約3分の2が五輪を楽しめないだろうと答えている。
 菅氏は、ひとたびテレビで五輪を見れば、人々は開催を受け入れるだろうという自信を示した。ほとんどの競技は無観客で開催されるため、大学時代にやっていた空手をテレビで見たいと述べた。
 菅氏は、1964年の東京五輪を見たときのことを思い出し、日本の選手がメダルを獲得するのを見たときの「素晴らしさ、興奮して見た感動といったものは、未だにこの胸の中に焼き付いている」と述べた。
 「オリンピックというのは世界で約40億人がテレビ等で観戦すると言われている。そういう意味で、無観客でもやる価値というのはものすごく大きいと思う」。
 2017年から2019年まで駐日米国大使を務めたビル・ハガティ上院議員(共和党、テネシー州選出)は、中国が2022年に北京で冬季五輪を開催するため、東京大会の結果は重要だと述べた。中国共産党は大会を利用して自国の成果を誇示し、コロナ対策に成功したことを誇る習近平国家主席の正当性を高めると見られている。
 「日本は五輪を通じて、強力な民主主義社会がいかに五輪を成功させることができるのか、真の基礎を構築する真の機会を得ている」とハガティ氏はインタビューで述べている。「それは北京五輪で起こるかもしれないこととは対照的になると思う」。


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