寄稿・インタビュー
ウォール・ストリート・ジャーナル紙(米国)への菅総理大臣寄稿 (令和3年4月14日付)
太平洋の成長と安定に向けた日本の道筋 我々は気候変動と人口減少がもたらした諸課題に取り組んでいる
日本は転換期にある。(新型コロナの)パンデミックの終息後には、日本経済を再び成長させ、世界経済をリードさせていくことが我々の課題となる。
高齢化・人口減少や、縦割りや既得権益で硬直した行政。こうした長く困難な課題に答えを出し、成長志向の改革を進めていくことが私の政権の成長戦略である。
日本経済、そして世界経済の新たな成長の原動力を、日本が率先して作り上げていかなければならない。私は、「グリーン」と「デジタル」がその鍵だと考えている。
気候変動問題は、待ったなしの地球規模の課題である。気候変動への対応はもはや経済への制約ではなく、日本経済を持続可能な形で力強く成長させる原動力になる。こうした思いで、私は昨年、2050年カーボンニュートラルを宣言した。
昨年末、洋上風力や水素などにおいて高い目標を掲げるグリーン成長戦略をとりまとめた。民間の大胆な投資とイノベーションを促すため、2兆円の基金や税制、規制改革、新技術を普及させるための標準化、国際連携などの施策を総動員していく。
パンデミックは、行政サービスのデジタル化の遅れを浮き彫りにした。民間もまだまだ遅れを取り戻していかなければならない。日本は、改革を大胆に加速し、最先端のデジタル国家を目指していく。そのために、改革の司令塔となる首相直轄の組織として、デジタル庁を設置することを発表し、この秋に始動させる。
また、デジタル改革により、すべての人をデジタル経済に参画させていく。少子高齢化の課題先進国でもある日本で、誰も取り残さない社会をつくるために、テクノロジーの力を最大活用していく。
さらに、ポスト5Gも視野に入れながら、デジタル分野での競争力強化のため日米で連携し、フロントランナーを目指したい。日本はWTO電子商取引交渉などを通じて、「信頼性のある自由なデータ流通」の実現にも着実に取り組んでいく。
世界で保護主義的な動きが見られる中、日本は、自由貿易の旗振り役を務めてきた。米国が離脱した後のTPPを残された11ヶ国で発効させ、日EU・EPA、日英EPA、RCEPなど取りまとめた。引き続き、自由で公正な経済圏の拡大や、WTO改革を含む、ルールに基づく多角的貿易体制の強化に取り組んでいく。地域、世界の繁栄を実現するためには、ルールに基づく自由で開かれた秩序の実現、海洋の安全の確保、連結性の向上も不可欠である。日本として、考え方を共有する国々と連携し、自由で開かれたインド太平洋の実現に向けた取組を戦略的に推進していく。
これら一連の取組を通じ、力強い日本経済・社会をつくり上げていくことは、私の政権の重要な目標であり、責務でもある。なぜならば、力強い日本こそ、機能する日米同盟の前提であり、インド太平洋地域の平和と繁栄の礎であると信じているからである。
私は今週米国ワシントンDCを訪問する。最初の外国首脳として、私の訪問受け入れを決断してくれたバイデン大統領に感謝したい。日本が1912年に寄贈したワシントンの桜は、アメリカ人の皆様の手により、大事に手入れが行われ、毎年春に美しい花を咲かせている。
パンデミックにより困難な状況にあるからこそ、私の訪米を、自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的価値で結ばれた同盟の絆をより確かなものとするとともに、地域、そして世界に平和と繁栄の恩恵をもたらす自由で開かれたインド太平洋に向け、日米のリーダーシップを世界に示す機会としたい。