寄稿・インタビュー

ワシントン・ポスト紙(米国)による河野外務大臣インタビュー

(2019年4月25日付)

「トランプ大統領版の北朝鮮に対する"戦略的忍耐"へようこそ」

平成31年4月26日

  • 本インタビューは,河野外務大臣訪米中の4月19日に,同紙ジョシュ・ロギン・コラムニストによって実施された。

 2か月前にハノイで開催された米朝首脳会談が失敗に終わってから,金正恩の次の一手に注目が集まっている。トランプ政権は,平壌との重要な取引で全か無か(all or nothing)という姿勢を貫いている。今は,金正恩に正しい決断を下す最後のチャンスを与えるために,戦略的忍耐を貫くことが賢明(smart play)だ。

 「戦略的忍耐」(strategic patience)は,トランプ政権の政策チームが,オバマ前政権の対北朝鮮政策を嘲ける時に頻繁に使われる用語だ。オバマ前大統領は任期の終わりに,この政策(戦略的忍耐)をほぼ断念し,金正恩の度重なる核ミサイル実験に対し制裁措置を重ねた。しかし,トランプ大統領はオバマの戦略的忍耐は北朝鮮問題を悪化させたと批判した。

 トランプ政権が北朝鮮との外交交渉を開始してから約1年が経ち,以前と形は違うが,「戦略的忍耐」の政策が戻ってきた。ハノイでトランプ大統領は,経済の正常化と引き換えに完全な非核化を求める「ビッグ・ディール」の概要を示した紙を金正恩に渡した。金正恩は,広範な制裁解除と象徴的・限定的な非核化を引き換えにする「スモール・ディール」を求めた。トランプ大統領は,(交渉の場から)立ち去り,今我々は膠着状態に陥っている。

 日本の河野外務大臣は,ポンペオ国務長官及びシャナハン国防長官代行との会合のため先週ワシントンを訪れた。同大臣はインタビューの中で,自分(ロギン)に対し,たとえ韓国政府がスモール・ディールを後押ししているとしても,トランプ大統領とポンペオ国務長官にはそれで決着をつける考えがないことが改めて確認されたと述べた。

 同大臣は「金正恩が承諾しようがしまいが,選択肢は大きなディールか何もないかだと思う」「ボールは金正恩側にある。だから我々は彼が正しい決断をするのを待つしかない」と述べた。これは,安倍総理が26日にワシントンを訪れる際,トランプ大統領に伝えると思われるメッセージである。日本にとって,ハノイの首脳会談から立ち去った大統領の意思は安心させられるものだった。小さなディールは,短距離ミサイルや未だに北朝鮮で行方不明になっている拉致被害者の運命といった日本政府の懸念を解消するものにはならない。

 河野大臣は,米国やその同盟国は交渉に前のめりになるべきでなく,北朝鮮が同盟国間にくさびを打ち込むことを許してはならないと述べた。また,同大臣は,金正恩が制裁緩和を一心不乱に求めていることは,対北朝鮮制裁がきいていることを意味しており,我々は強い圧力を維持しなければならない,と述べた。

 河野大臣は「我々が団結し続けることを期待している」とし,もし金正恩が北朝鮮の経済状況を改善したいと思っているのであれば,最終的には金正恩は意見を変えなければならなくなると付け加えた。自分(ロギン)が同大臣に,金正恩がその選択をするのに我々はどれくらい待つべきか尋ねると,同大臣は「必要な限り」と述べた。

 今月はじめ,ポンペオ国務長官は,上院外交委員会でのヒアリングにおいて,河野大臣がインタビューにおいて示した見解と概ね同じ見解を示したが,仮に北朝鮮が実質的な進展を見せた場合には小さなインセンティブを供与するわずかな余地を残したいと述べた。24日,ポンペオ国務長官はCBSのインタビューで,金正恩は重大な決断を迫られていると強調し,同人に対し非核化を決断したことを示すよう求めた。

 一方,現在,米朝二国間で対話はなされておらず予定もされていない。ポンペオ国務長官は,「真剣な対話の機会が今後さらに複数回あることを望む」と述べた。

 金正恩がこれを検討しているいくつかの兆候がある。今週,金正恩はプーチン大統領と協議し,自身に対するさらなる国際的支援を獲得するため,ロシアのウラジオストクを訪問した。これまで北朝鮮の交渉団長だった強硬派の金英哲は説明なく今次外遊から外された。同氏は解任されたのかもしれない。米国政府高官は私(ロギン)に対し,金正恩が崔善姫を外務次官に起用したことは,金正恩が新たな助言を求めている,もしくは戦略を再検討しようとしていることを示す前向きな兆候かもしれないと述べた。北朝鮮当局は,ポンペオ国務長官やジョン・ボルトン国家安全保障問題担当補佐官を含むトランプ政権のアドバイザーへの非難を続けている。

 北朝鮮関係者が,トランプ大統領のアドバイザーを頭越しにトランプ大統領に直接訴えかけることができると考えているなら,彼らはハノイの教訓を生かせていない。もしロシアが,六か国協議のような外交政策の可能性を検討しているのであれば,彼らはトランプ大統領を理解していない。

 河野大臣は,皆が国連安保理によって設定された決議を遵守すれば,北朝鮮が核ミサイル計画を完全に諦めるまで,大きな制裁緩和はないと述べた。同大臣は「6カ国協議の過ちを犯したくはなく,そのため我々は少しずつ何かを与えることはしない」とした。ある意味では,トランプ大統領版の戦略的忍耐はオバマ前大統領のものより優れている。核やミサイルの実験は行われておらず,少なくとも戻ることができる外交プロセスがある。しかし,もし金正恩が核ミサイル計画を永遠に諦めることはないと決断したことが明らかになった場合,我々は忍耐を捨て,抑止,牽制及び圧力を強めるよう方針転換しなければならない。トランプ大統領の北朝鮮に対する戦略的忍耐は,いつか尽きるだろう。


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