寄稿・インタビュー

(2019年1月10放映)

平成31年1月16日

【インタビュアー】今回は,特別ゲストとして日本の河野外務大臣をお招きしている。河野大臣,ようこそ。

【河野外務大臣】番組に出演させていただき光栄。

【インタビュアー】インドへの訪問は今回が初めてか。

【河野外務大臣】大臣就任後は初めてとなる。一昨年デリーとムンバイを訪れており,インド政府のご厚意で夫妻でのご招待だった。それ以前にも,エネルギー政策に関する国際会議に出席するため訪印したことがある。

【インタビュアー】大臣は,インドとはかねてより接点があり,昨年3月スワラージ外務大臣を日本で迎えられ,昨年10月のモディ首相訪日時にも首脳会談に同席された。大臣という職位において,日印関係により深く関与されているが,貴大臣は日印関係にどのような印象をお持ちか。また,日印関係は今日どのような位置づけにあるとお考えか。

【河野外務大臣】インドは,成長する経済及び豊富な若年人口を擁し,巨大な潜在力をもつ大変魅力的な国であり,日本が友好関係を益々強化していく価値のあるパートナー。我が国は,インドと経済,防衛・安全保障の両面において協力を進めており,日印は自然な同盟国となり得ると感じている。今回大臣として訪印でき,誠に嬉しい。

【インタビュアー】日印関係は,「特別戦略的グローバル・パートナーシップ」と称されているが,この形容は現状に鑑み妥当であると考えるか。

【河野外務大臣】妥当である。インドは世界最大の民主主義国であり,日本とは民主主義,人権,法の支配等たくさんの共通の価値観を有し,更に互いの戦略的目標もうまく連携されている。この関係を将来に向けてより一層花開かせられるよう努めていきたい。

【インタビュアー】7日の日印外相間戦略対話及び貴大臣によるモディ首相表敬に関する日本国外務省の報道発表では,インドが「自由で開かれたインド太平洋を実現するための最重要パートナー国」と表現されている。その根拠を伺いたい。

【河野外務大臣】インドは我が国ODAの最大の受益国であり,我が国は第3位の対印投資国である。1,500社以上の日系企業が当地で活発に営業している。自由で開かれた海上交通路を確保することは,アジアのみならず,アフリカ~中東から太平洋を越え米国西海岸に至る巨大な経済圏の経済的繁栄を享受するのに不可欠。両国は,このような共通の価値観を携える仲間であり,インドはこの構想の実現において最も重要なパートナーである。両国は,経済的繁栄のために連結性の確保にしっかり取り組む必要があり,沿岸部の法執行能力向上においても協力していかなければいけない。日印関係はさらに強化されるべきであり,自由で開かれたインド太平洋を実現するための最重要パートナーと表現されることは,自然だと感じる。

【インタビュアー】経済面について,日系企業による重要な投資に言及があったが,二国間貿易の現状は150億ドル程度である。貿易関係を向上させるにはどのような方法があり得るか。

【河野外務大臣】我が国は,交渉中のRCEPの2019年末までの妥結を見込んでいる。また,既に発効したTPPについても,インドが加盟するなら歓迎したい。世界貿易において保護主義が台頭している中で,自由で開かれた貿易体制を確保する取組は重要で,日本,インドにとって利益があるものと考える。

【インタビュアー】防衛面については,今般閣僚級「2+2」対話の立ち上げに合意され,「マラバール」等複数の共同演習も実施されている。今後パートナーシップを,防衛面,貿易面,技術面等において進める上でどのような障害が存在しているか。二国間関係をどのように強化していくのか。

【河野外務大臣】昨年のモディ首相訪日時に閣僚級「2+2」プロセスの立ち上げが合意された。同時にサイバーや宇宙に関する対話枠組みも早期に開催したいと考えている。海上安全保障については,ご指摘のとおり,海上自衛隊が「マラバール」演習に正式に参画しているほか,陸軍種間及び空軍種間の共同訓練が実施されている等,両国軍種には既に多くの協力関係が存在している。同時に,今後防衛産業がどう活性化されうるか豊かな可能性があるだろう。こうした両国関係を強化する取組は,米国,オーストラリアも巻き込む形でインド太平洋に安定をもたらし,地域繁栄の礎石となるもの。日印が良好で安定的な関係を築くことは,協力を積み重ねていく土台となり大切なことであると考える。

【インタビュアー】インド太平洋では,(日米印)三か国間協力については,外相同士がニューヨークにて,またトランプ大統領を交えて首脳同士がG20の機会に,会合を開催してきた。三か国,あるいはオーストラリアを加えた四か国協力に,どのような潜在性を見いだしているのか。

【河野外務大臣】昨年末ブエノス・アイレスにてG20の際,で日米印首脳会合が開催された。本年のG20大阪サミットでも三か国首脳会合が開催されるだろう。更に強化される三か国間の枠組みを通じて,防衛・安全保障面と経済政策面で連携が益々強化されることを目指している。加えて,局長級の日米豪印協議も開催された。インド太平洋地域にとっては新たなメカニズムであるが,自由で開かれたインド太平洋を実現する優れた多国間協力の有用な手段と考える。

【インタビュアー】こうした新たな協力のアーキテクチャー形成の背景には,明らかに中国の経済的,軍事的,技術的台頭があるのではないか。南シナ海のみならず,東シナ海/尖閣諸島を巻き込む中国の強引な行動が問題を起こしている。日本としては,中国の台頭が呈する挑戦に対して世界がどう反応すべきとお考えか。

【河野外務大臣】我が国は,過去40年間,政府機関も企業も,中国の成長を後押ししてきた歴史がある。これには,中国の健全で着実な成長が,既存の国際秩序において地域の国々の経済的繁栄に資するとの考えがあっただろう。しかしながら,中国による知的財産権保護,産業補助金,強制的技術移転については,我が国は同意できない。中国が国際的なルール規範に則って経済活動を行うよう仕向けていくことが重要。中国が安定的成長に戻り共通のルールに準拠して活動すれば,地域にはたくさんの機会が創出される。一方で中国は東シナ海の我が国領海を侵犯している。南シナ海での行為についても,正さなければならない。原則にかかわることに関し,我が国として譲歩する意思は毛頭ない。
 インドや米国等と協働し,中国を国際的な自由経済秩序のルール規範の枠組の中で行動させることで,経済的機会がより多く創出されるのではないかと考えている。

【インタビュアー】中国の経済システムは,本質的に国有企業に依拠したもので,民間企業主導の経済活動に基づかない経済活動はWTOルールにそぐわないとの批判がある。この問題にどう対処していこうとお考えか。

【河野外務大臣】経済問題はWTOルールに基づいて解決されるべき。我が国は,米国やEU等の有志国と共に,特に電子商取引やITC技術といった分野における取組を通じてWTOの現代化に取り組んでいる。一方で,経済問題の解決のためには中国や米国等に対し,既存のWTOルールに依拠して行動するよう働きかけていく必要もある。

【インタビュアー】対米関係についてお聞きする。戦後以降,米国と重要な関係を築き,米国は日本にとって安全保障上の重要なパートナーであるが,米国からは,米国の同盟国やパートナー国への安全保障分野へのコミットメントに関し,挑戦や疑問の声が出てきている。米国がグローバルないしアジア太平洋の文脈において,どのように自らの変わりゆく役割を見ているとお考えか,またそのことに日本は懸念を抱いているか。

【河野外務大臣】日米同盟は,依然として日本の安全保障政策の礎石であり,トランプ政権によるアジア太平洋地域への安全保障上のコミットメントは,変わらず強固である。残念ながら,米国はTPPから離脱したが,我々は,米国がTPPに戻ってくることを願っている。一般論で言えば,米国は安全保障に関し同地域に非常にコミットしている。よって,我々はそこまで心配をしていない。例えば,北朝鮮問題に関し,日米韓三か国のコミットメントは非常に強固であり,我々は,北朝鮮が方針を変えるよう共に取り組んでいる。トランプ政権には多くの論点があるが,アジア太平洋及び日米関係については非常に安定しており,米国のコミットメントは本物だと考える。

【インタビュアー】北朝鮮の文脈で言えば,米国は先例のない手順や決断を行っているようであり,トランプ大統領は金委員長との首脳会談開催に合意した。両者は2回目の首脳会談について議論しはじめているが,日本はこれをどう受け止めているか。日本は北朝鮮を巡り,拉致問題や安全保障上の懸念から,高い関心を有していると理解。貴大臣は,米国の北朝鮮との関わり方や次のステップに関し,十分情報提供を受けているとお考えか。

【河野外務大臣】ポンペオ国務長官及び康外交部長官とは,定期的に意見交換を行っている。我々の関係は強固である。北朝鮮が正しい判断をするのであれば,同国には明るい未来があるだろう。つまり,多くのことが金委員長次第なのである。金委員長が国のために正しい判断を下せば,日本は北朝鮮と関係を正常化する用意がある。彼らがミサイル,核,そして拉致問題を解決すれば,我々が過去に韓国に対し行ったように,北朝鮮に対しても経済支援を行う用意がある。我々は皆,金委員長の判断を待っている。国際社会が国連安全保障理事会決議を支え,団結していることは喜ばしい。また,同問題に関し,トランプ大統領が非常に強いリーダーシップを発揮していると考える。我々は,第2回米朝首脳会談が大きな突破口となることを待っている。

【インタビュアー】欧州は日本にとってもう一つの重要な西側の同盟国だが,現在,欧州は挑戦を受けている。英国のEU離脱,長らく指導力を発揮し欧州をけん引し,規範をもたらしてきたメルケル独政権の弱体化,新しい世代の声として登場してきたマクロン仏大統領の国内影響力の低下,右翼及び欧州懐疑主義を含む影響力を増す欧州の声について,日本は懸念を抱いているか。この情勢変化に対する貴大臣のお考え如何。日本はいかにして,この挑戦に対処するのか。

【河野外務大臣】欧州とは,民主主義,法の支配,基本的人権等の共通の価値観を共有している。自分は,日本,欧州,インドは皆,運命を共にしている(in the same boat)と考えている。我々は,強く団結した欧州を歓迎している。英国のEU離脱に関しては,合意なき離脱に関し,懸念を有しているのは事実。諸問題がよく対処されることを願っている。また,日本,欧州,インド及びその他の民主主義国は,この自由な国際秩序を守るため,もう少々負担を共有する時だと考える。我々は,米国にばかり長い間頼りすぎていた。米国は今,我々に助けを求めている。自分は,今こそ我々がもう少し重荷を担ぐ時だと考える。EUと日本は,経済連携協定(EPA)と戦略パートナーシップ協定(SPA)を締結した。日EU・EPAは,我々が自由貿易のレジームを揺ぎなく支えていくことのシグナルであり,これを世界にしっかり発信していきたい。我々は欧州の強い団結や,バルカン諸国をとりこむEUの拡大を歓迎する。欧州は民主主義の長い歴史を有しており,諸問題にも対処し強く団結できると考える。

【インタビュアー】EU,NATO拡大は,ロシアにとっては当然懸念となる。ロシアはインドの政治及び防衛の重要なパートナーである。日本とロシアも,戦後領土問題を抱えながらも,重要な関係にあると理解。米露関係,欧州とロシアの関係を改善させるため,何ができるとお考えか。ロシアは,米国,欧州,日本やインドではなく,中国への依存を強めている。

【河野外務大臣】冷戦後,東アジアにとってロシアは脅威ではなくなった。ロシアは,天然ガス,電気等の様々なエネルギーを日本に供給するようになっており,日露両国は何らかの分野で自然なパートナーとなれるだろう。ロシアは長年インドの良き友人でもあり,この三か国で共に取り組めることが多くあると考えており,期待している。安倍総理は,プーチン大統領と平和条約締結に向けたプロセスの加速に合意している。戦後70年に亘り,日露は未だ平和条約を締結していない。自分は,来週モスクワを訪問し,平和条約交渉の新たなラウンドを始める。特にシベリア・極東地域では共に取り組めることが多くある。ロシアを我々の側に引き寄せる良い機会であり,自分は楽観している。

【インタビュアー】貴大臣の訪問及び交渉について,幸運をお祈りする。今回のインタビューは,日印間の価値観や関心の一致が確認できたと思う。両国間関係を前進させようと取り組まれる貴大臣のご尽力に感謝する。この度はご出演いただき,誠にありがとうございました。

【河野外務大臣】ありがとうございました。


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