寄稿・インタビュー
ポリティケン紙(デンマーク)による河野外務大臣インタビュー
(2018年10月27日付)
「日本の外務大臣:我々は気候変動に苦しんでいる」
河野太郎は懸念を抱えている。55歳の日本の外務大臣は,ラスムセン・デンマーク首相の主催するP4G首脳会議に出席するため,先週末デンマークを訪れた。この首脳会議では,何百万もの人々を,地球に負担をかけない方法で貧困から救うための資金繰りに関する議論が行われる。同大臣は,「これは急を要する議題である」と考えている。国連の気候変動に関する政府間パネルが10月にレポートを発表する以前に,日本は状況が深刻であると理解していた。同大臣は,「気候変動は明らかな現実である。我々は温室効果ガスの排出を管理し,気候をコントロールしていかなければならない。すでに日本の自然災害は,頻度が増え,かつ大規模化している」と述べるとともに,「日本は関西地域が大規模な洪水被害に遭い,また,より頻繁に大規模な台風に見舞われるようになり,降水量は毎年増加している。今年はデンマークの夏も異常であったと聞いている」と付け加えた。
33歳にして自民党の国会議員となり,豊富な経験を有する政治家である河野大臣は,日本とデンマークをたまたま比較したわけではない。同大臣は,日・デンマーク友好議員連盟の会長でもあり,昨年はグリーンランド及びフェロー諸島にも訪れている。同大臣は,同大臣の宿舎で行われたこのインタビューを通じ,デンマークを含むEU諸国と日本は,気候変動,貿易及び西側世界の秩序について,仮に西側の大国,米国の協力が得られなかったとしても,より緊密に協力していくべきとの姿勢を繰り返し表明した。
河野大臣の二つ目の懸念は,2015年のパリ協定から米国が離脱し,さらに世界的経済機構であるWTOを,トランプ大統領がサボタージュしていることである。これらの国際協定は,トランプ大統領によれば,米国の利益に反するものであるからだ。河野大臣は,「これまで米国は,自由貿易と国際的な秩序のために多くの負担を負ってきたが,それに疲れを感じ,欧州と日本がもっと負担を負うべきだと考えている。それは自然なことである」と述べた。
河野大臣の最大の懸念は貿易だ。トランプ大統領はWTOの新たな上級委員会委員の指名に対して拒否権を発動し,来年,3人の委員のうち2人の任期が切れると,上級委員会は機能しなくなる。さらにトランプ大統領は中国に対して貿易戦争を仕掛けたが,これはひいては日本とEUにも影響が及ぶ。今週,EUと12のWTO加盟国の首脳達は,オタワにて米国抜きで会議を行う。そこでは,困難な現在の状況とトランプ氏の上級委員会委員再任妨害をやめるよう要求するための共同声明についての議論が行われる。河野大臣は,23年続くWTOは,デジタル化の進む経済により良く対応していくためにも改革が必要であると強調した。しかし,WTOは維持されなくてはならない。「WTOを現代化していく必要がある。しかし,国際貿易システムの中心であるこの組織は維持され,更に強固なものとしていく必要がある。WTOにおいて最も影響力を持つべき上級委員会委員の再任や指名が進んでいないことを憂慮している」と大臣は述べた。
今年7月,EUと日本は貿易協定を結んだ。河野大臣は,やはり米国が拒否したTPPとEUの間に連携が生まれることを望んでいる。同大臣は,「この協定が,願わくば米国に参加を促すほどの大きなものとなってくれれば望ましい」と述べた。
【問】米国が独自路線を歩む場合,貿易にはどの程度影響があるか。
【河野外務大臣】米国の農業就業者,そして産業界にとっては,影響があるだろう。TPPはこれらの業界にとっては参加した方が良いものであるし,それは彼らも知っている。だから政府にも圧力をかけている。その結果どうなるか,状況を注視していく。
【問】貴大臣は,米国の貿易政策の今後の見通しについて楽観的か。
【河野外務大臣】第二次世界大戦後,米国の経済は自由貿易のもとに発展してきており,自由貿易体制の重要性を理解していると考える。ゆえに楽観的に捉えている。
【問】貴大臣の言うとおり,米国民は自由貿易の重要性を理解しているが,そうではない大統領を選んでしまったようである。
【河野外務大臣】トランプ大統領は支持者への公約を守るべく実行している。しかし,思慮ある指導者は,望めば(世界の)情勢の動向を見通し,変革を起こすことができる。
右は気候変動問題にも当てはまることだ。インタビューに先立ち,河野大臣はP4G首脳会議においてスピーチを行った。この会議は,手短に言えばデンマーク政府の主導による,よりグリーンな改革に向けてのアプローチである。これは政府と産業界の協力でもあり,気候変動を緩和しつつ,同時に貧しい国々の発展も支援する試みだ。河野大臣もこの試みをリベラルで抜本的なアイデアだと称賛した。「政府だけでパリ協定の目標を達成することはできない。政府は,非政府機関とも連携する必要がある。国連のSDGsや気候変動に関して話し合う良いフォーラムだと思う」と大臣は述べた。
さらに,同大臣は保健,食品安全,教育と気候改善を含む,2030年に向けた17の持続可能な開発目標について話した。国連は,目標達成には年間16兆クローネという巨額の資金が必要であると推定している。これはフランスのGDPと同じ,またはデンマークのGDPの8倍である。この額は,デンマークをはじめ,開発援助を削減しているほとんどの国にとってはとても困難な数値である。
同大臣はスピーチの中で,革新的なアイデアに触れた。この額を外国為替市場から工面するというものだ。1972年,米国人経済学教授James Tobinが推奨した「トービン税」のように為替取引に課税するというものである。河野大臣は,「私の考えでは,グローバリゼーションから恩恵を受ける人々から徴収し,自然災害や紛争の被災者や難民への人道援助を目的とする国際機関へ給付される国際連帯税は,2030年目標達成に向けた実現可能な方法の一つである。この方法であれば,非常に低い税率でも,資金ニーズを容易に満たすことができる」と述べた。
インタビューの後,外務省のスポークスパーソンは,この提案は外務省の強い野心の一つであり,大臣自身も長年にわたりこの考えを支持する発言を行ってきた,と述べた。しかし,その実施は簡単なことではない。ゆえに河野大臣はP4Gサミットにおいて,国際協力の重要性を強調した。為替取引はグローバルなものであり,全ての国が参加しない限り,為替取引がただ単にこの税金の課されない国同士の取引へと移行するだけとなる可能性がある。
しかし,河野大臣は,現在の地球温暖化という,これからも大きくなっていくことが予想される問題を解決するためには,新しい考えが必要であることに変わりはないと続けた。地球の温度は,産業化が進む以前の1800年までに1度上昇したが,2100年までには少なくとも3度上昇すると見込まれている。この上昇は今後さらに激しい気候変動,海面上昇等の大きな変化へとつながると,国連気候変動パネルは10月初めに発表している。気候変動問題に関して,日本は懐疑主義者達にもあまり良い印象を与えてはいない。2050年に向け,CO2排出量を2013年比で80パーセント抑制すると発表したが,河野大臣は,さらなる抑制が必要であると認めた。
【河野外務大臣】我々は安倍総理の下,委員会を設置し,2050年に向けた新たな戦略を模索しているところである。国連気候変動パネルの最新報告書を踏まえ,これまでの戦略をさらに強化していく。
【問】いかなる方法が考えられるか。
【河野外務大臣】今まさに審議中である。しかし,再生可能エネルギーを最大限取り入れる必要があろうし,エネルギー源として水素の活用を検討している。日本の得意とする科学技術を使って,なすべき改革を実現することは可能だと思っている。
【問】貴大臣は,米国がパリ協定から離脱しようとしていることは残念だと仰ったが,ブラジルもその後に続く由。ブラジルが協定に留まる可能性はあると思うか。
【河野外務大臣】我々は米国やブラジルがパリ協定に留まるよう説得する必要がある。フロリダが激しいハリケーンによる被害に遭ったばかりで,南米でも同様の災害が生じている。それを気候変動と結びつけて考えることは難しいことではない。気象をコントロールすることは,どの国にとっても重要課題であり,我々は説得することが可能なはずである。
【問】もし米国が何らコミットしない場合も,EUと日本のみで互いに温室効果ガス排出削減目標を実行していくか。
【河野外務大臣】他国がどうするかということを考えていても仕方ない。我々皆ができることをしていかなくてはならない。他国が取り組まないからと言って,自国が取り組まない言い訳にはならない。
インタビュー記事は,ポリティケン紙のホームページから閲覧可能です。