寄稿・インタビュー

フィナンシャル・タイムズ紙(英国)による安倍総理大臣インタビュー

(2018年10月8日付)

「安倍総理,英国はTPPに “両手を広げて” 歓迎される,と述べる」

平成30年10月11日

 安倍総理は,英国の合意なきEU離脱を回避するための妥協を求めると共に,日本は英国をTPPに「両手を広げて」歓迎すると述べた。東京の総理官邸で行われたインタビューで,安倍総理はEU離脱後に英国は欧州への玄関口としての役割は失うものの,引き続き「グローバルな力を持つ」と述べた。

 安倍総理の発言はEU以外の諸国との自由貿易に新たなチャンスを見出す英国内の離脱支持者を後押しするものであるが,同時に英国とEUの双方に迅速に合意を形成するよう圧力をかけるものでもある。

 TPPは,日本,ベトナム,マレーシア,カナダ,メキシコ,豪州等の11の環太平洋諸国による幅広い分野を網羅した貿易協定である。当初は米国も参加していたが,トランプ大統領が就任直後に脱退を表明した。

 TPPへの参加は,英国が世界経済の中で急速に成長している地域と新たな自由貿易の合意を行うための1つの方法である。しかし,それは英国がEUの関税同盟から脱退し,自国の関税を自ら設定する権利を得て初めて可能となる。

 「双方が知恵を出し合い,無秩序と言われる形での離脱は,少なくとも回避してもらいたい」と安倍総理は述べ,日本企業にとって移行期間が不可欠であると主張した。

 トヨタ,日産などの製造業者は,欧州における拠点として英国に進出し,1980年代の英国経済の復活を後押しした。しかし,彼らはEU離脱に関する透明性の欠如に不満を強めている。複数の銀行がすでに大陸に活動の重心を移行しており,パナソニックは英国からオランダに欧州本部を移転する理由にEU離脱を挙げた。「英国のEU離脱がもたらす日本企業を含む世界経済への悪影響が最小限に抑えられることを強く望む」と安倍総理は述べた。

トランプ大統領との関係
安倍総理は,新たな物品についての貿易協定の交渉を開始することが合意された12日前の日米首脳会談につき,「非常に充実した」会談だったと述べた。安倍総理は,米国が交渉中は日本の自動車への関税引き上げを行わないこと,及び農産品の市場アクセスについて過去の協定で約束した以上の内容を求めないことを約束したと述べた。しかし,日本が米国に対して相互的な関税引き下げを求めなかったことは,日本が米国に対して弱い立場にあることを示している。安倍総理は,これにつき,「既に日米間では多くの分野で過剰な関税はかけられていない」と述べた。TPPでは,米国は今後10年間で日本からの自動車の関税を2%から0%とし,今後30年間で日本からのトラックの関税を25%から0%にすることに合意していた。

 安倍総理がこれまでトランプ大統領と合計9回の首脳会談と26回の電話会談を行い関係構築に熱意を注いできたのは,日米同盟が日本の安全保障にとって決定的に重要であるからに他ならない。安倍総理は,北朝鮮による核の放棄のディールの一部として在韓米軍が朝鮮半島から撤退することには反対するとした。

 「米国側,そしてトランプ大統領にもそのような考えは無いと思う」,「在韓米軍の存在は,東アジアの平和と安定にとって非常に重要な要素である」と安倍総理は述べた。また,安倍総理は北朝鮮のリーダーと会談を行う意向があることを改めて表明した。安倍総理は,「私自身が金正恩委員長と向き合わなければならないと考えおり,互いに相互不信の殻を打ち破ることが求められている」と述べた。

日本経済を立て直す
 約6年間にわたり総理の職を務め,残り最大3年の任期となる中,安倍総理の関心は,その遺産づくりへと移行しつつある。もし安倍総理が2019年11月まで在任することとなれば,日本の民主主義の歴史上,在任期間が最長の総理大臣となる。

 この画期的な出来事は,連続した不祥事及び病により,安倍総理が2007年に一度目の総理の職を辞任したした際には考えられないものであった。二度目の安倍政権は,厳格なトップダウンがその特徴である。先月,安倍総理は,与党自民党の総裁として,さらに3年の任期を確実にした。

 これまでの任期中,安倍総理は多くの実績をあげたとされているが,恒久的な成果はあまり多くない。失業率は2.4%まで下がったが,デフレからは脱却できていない。韓国は,不可逆的に解決したはずである,第二次大戦中に売春を強いられた「慰安婦」に関する合意を覆そうとしている。多くの首脳会談が実施されたにも関わらず,ロシアとの間で4島の帰属の問題が解決する兆しは見えていない。安倍総理のトランプ大統領との友人関係も,まだ日本に明確な成果をもたらしたわけではない。

 今,安倍総理は,日本の最も根本的な課題に立ち向かうと言う。「出生率低下と高齢化社会を含め,日本経済の主要な構造問題に真正面から立ち向かうときであると考えている。そして,それを解決できると確信している」と安倍総理は述べた。安倍総理は,高齢者が仕事を続けることを支援すると共に,子供の教育無償化への投資を増やし,日本の社会保障制度を改革すると述べた。安倍総理は,「国民が引退をせず,生涯現役である社会を実現するため」雇用に関する法律を改正すると述べた。

 デフレから完全に脱却しない限り,その意義は小さい。生鮮食品とエネルギーを除く物価は8月時点で前年比0.4%増にとどまっているが,デフレ脱却を宣言する政治的誘惑は常に存在する。日本銀行の2%のインフレ目標は未だ遠く,安倍総理の継続的な景気刺激策へのコミットメントに疑念の目が向けられている。「私は(デフレ脱却につき)恣意的な判断を行うつもりはない」,「政府が適切な判断ができるよう,エコノミストによる客観的な分析を完全に信頼したい」と安倍総理は述べた。

平和主義の終焉?
 安倍総理の保守支持層を喜ばせる遺産は,日本の平和憲法の改正である。自民党は,長年の議論の結果,戦争放棄を謳う第9条に自衛隊の合憲性を明確にする条項のみを加えるという,控えめな提案に落ち着いた。

 それでも,それが認められるためのハードルは高い。安倍総理はまず,連立相手である公明党からの支持を得たうえで,国民投票により賛成を得なければならない。多くの懐疑派は,総理大臣の真の目標は憲法改正の前例をつくり,将来的な第9条の抜本的な改正への道筋をつけることであると考える。

 国民投票が否決されれば,ほぼ確実に,安倍総理は退任することになる。

 2016年以降,デービッド・キャメロンとマッテオ・レンツィという,二人のG7のリーダーの首相の退任に繋がった投票に言及し,「私は英国の例を知っている。イタリアの例も知っている」,「もちろん,政治には様々なリスクがある」と述べた。

 来年から再来年のどこかの時点で,安倍総理はそうしたリスクをとるか,あるいは長く総理を続けること自体が十分な遺産であると受け入れなければならない。

 安倍総理は,「世界の様々な国の様々な憲法の中で,日本の憲法は国民投票すら行われず,70年間改正が行われなかった」,「この議論に終始を打つということが,私個人の責任であり,私の世代の責任である」と述べた。

 安倍総理は64才であり,国民が引退しない社会を構築しようとしているが,それは誰にでも魅力的である訳ではない。自民党の安倍総理のライバルは,総理が退任することを待ち望んでいる。党則の変更というありそうにない事を除けば,安倍総理は2021年にはリーダーから身を引かねばならない。

 安倍総理は後継者を選ぶことを否定したが,職業人生において人は常に同じ職に留まる必要はないと指摘する。「(人々は)必ずしも同じ仕事を続ける必要はない。彼らは第二の人生を始めることができる」,「私は第二の人生を楽しもうと思っている」と述べた。


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