寄稿・インタビュー
ワシントン・ポスト紙(米国)による河野外務大臣インタビュー
(2018年5月31日付)
「日本の安全保障は,トランプ大統領の手に委ねられている」(ジョシュ・ロギン・コラムニスト)
日本は,最も親密な同盟国が最悪の敵国との歴史的な取引を追求しているのを注視しているが,日本政府には,米国と北朝鮮との間の外交の開始を支持する以外に選択の余地はほとんどない。しかし,現在,日本の安全保障は大部分がトランプ大統領の手に委ねられており,日本政府の使命は,トランプ大統領との緊密な関係を維持し,金正恩との起こり得る会談に備えてトランプ大統領が用意している厳しい条件を維持させ続けることである。
公には,トランプ政権と安倍晋三総理の下の日本政府との間に(意見の)隔たりはない。河野太郎外務大臣は,自分とのインタビューで,トランプ政権の高官から,米国が北朝鮮との交渉で強硬路線を維持することについて確約を得ていると語った。金体制に制裁緩和やその他の経済支援を与える前に,北朝鮮の核兵器及びあらゆる弾道ミサイルの完全な,検証可能な,かつ不可逆的な方法での廃棄(CVID)をトランプ大統領が要求すると河野大臣は信じている。
「国際社会の意思は,北朝鮮はCVIDを完了しなければ得られるものは何もないということだと考えている」と,河野大臣は述べた。「どうして完全で,検証可能で不可逆的な廃棄が部分的なものになり得るというのか。」
もしこうした発言が,4月にボルトン国家安全保障補佐官が物議を醸しながら「リビア方式」として言及した内容に似ていると感じたなら,それは正しい。トランプ大統領と金正恩がともに「リビア方式」について(リビア核開発放棄の)後に続いたムアンマル・カダフィの打倒と結びつけて以降,河野大臣もボルトン補佐官も(「リビア方式」の)引用は現在使用していない。しかし,勘違いしてはいけない。日本もボルトン補佐官もともに,北朝鮮がはじめに北朝鮮側の取引の内容を完全に履行するべきだと主張し続けているのだ。
北朝鮮,中国,ロシアは,それぞれ異なる条件を提示しつつ,一歩ずつ妥協していくことを求めている。しかし,河野大臣は,6月12日にシンガポールでトランプ大統領が金正恩と会うことになった場合,トランプ大統領が強硬路線を維持することになると自信を示した。
「トランプ政権が方針変更を認めるとは考えていない。米国政府がCVIDについて言及するとき,彼らは全ての核兵器,核施設に加えて全ての射程距離のミサイルについて話している」と,河野大臣は述べた。「日本政府と米国政府の間に認識の違いがあるとは考えていない」。
内々には,日米両政府の高官の中には(上記のように)確信していない者もいる。先週,マイク・ポンペオ国務長官は,下院外交委員会で,北朝鮮が「信用できるだけの歩み(credible steps)」もしくは「不可逆的な一連の行動(an irreversible set of actions)」を実施した後であれば,経済支援が行われ得ると述べたが,完全な廃棄を全面的に求めるまでには至らなかった。水曜日(5月30日),国務省高官は,非核化のみが目的であり,ポンペオ国務長官は交渉の余地を残したいと考えていると述べた。
その他の米国政府関係者は,米国に到達可能な北朝鮮のミサイルは除去するが,日本や周辺地域にとって脅威となり得るミサイルは平壌に残すという取引を想定することができると自分に語った。
それでも,日本の世論は,妥協せず最大限の要求をとることである(maximalist)。北朝鮮は全ての核・ミサイル開発の廃棄だけでなく,トランプ大統領が安倍総理に(米朝首脳会談の)議題に加えると約束した,北朝鮮で行方不明となっている12名の日本人拉致被害者の問題を解決しなければならないという立場である。
日本で拉致問題を担当する加藤勝信大臣は,自分とのインタビューで,北朝鮮が上記を全て実行すれば,日本は国交を正常化し,経済協力を行うと述べた。しかし「拉致問題を解決しない限り,北朝鮮はいかなる明るい未来も描くことはできない立場にある」と語った。
この日本政府のメッセージは,国内の人々とトランプ政権に向けられたものだ。しかし,トランプ大統領の考えは日々変わるため,日本政府は(米朝首脳会談の)部屋の中でトランプ大統領が何を語り何を行うかということについて確証を得ることができない。(米朝)首脳会談に先立ってトランプ大統領に影響を与えるために,安倍総理のトランプ大統領との個人的な繋がりが鍵となっている。
昨年のトランプ大統領当選の後,安倍総理はトランプタワーに一番に駆けつけた。マーラ・ラゴやその他の場所で,安倍総理とトランプ大統領は12時間以上の時間を一対一で過ごしている。双方の側近の話によると,二人は互いに心から好意を持っており,トランプ大統領は安倍総理の意見を尊重し,助言を求めている。
安倍総理と緊密な関係を維持することについて,トランプ大統領には実際に動機がある。米朝首脳会談が失敗もしくは実現しなければ,トランプ政権は,おそらく中国と韓国からの完全な支持が得られないまま,最大限の圧力を再びかけようと試みるだろう。このような条件下で,北朝鮮が日本の経済支援と引き替えに拉致問題を解決すると提案すれば,安倍総理は政治的に困難な決断を下さなければならない。現在,日本と米国の間に公になっている隔たりは何もないが,それは変わり得る。
トランプ大統領は,金正恩との会談の持つ地域の戦略的なインプリケーションを考慮しているのだろうか。トランプ大統領は,(北朝鮮との)交渉のテーブルに座るかもしれないと準備を進める中で,冷静に詳細を把握し,同盟国の利害の順列や因数分解の全てを認識しているのだろうか。日本にとって,トランプ大統領の個人的な予測不能性は,全体の方程式において,最大で最も危険な不確定要素(unknown)である。この点において,我々全員は同じ境遇にある。
来週ケベック州で開催されるG7サミットの間に二人が会う時,安倍総理はトランプ大統領に釘をさす機会がある。全ての人のために,北朝鮮との適切な取引とは実際はどのようなものか,安倍総理がトランプ大統領の心に刻み込むことができると期待しよう。