寄稿・インタビュー
中立トルクメニスタン紙(トルクメニスタン)への岸田外務大臣寄稿
(2017年4月29日付)
「信頼と相互関心の基盤の上に」
本年,日本と中央アジア各国は外交関係樹立25周年という記念すべき年を迎えた。その間,日本は常にその国ごとの新しい国づくりの歩みを後押ししてきた。
独立後,新しい国家としてのスタートを切った各国の置かれた状況や必要な支援は様々だったが,日本が各国の発展を後押しする際にずっと大切にしてきた一つの理念がある。国づくりの要は「人づくり」だということ。これは戦後の荒れ果てた荒野から特別な資源もない日本が大きな成長を遂げられたのは,教育に心血を注ぎ込んで「人づくり」を行ってきた賜物であるという自負と経験に裏付けられている。私の出身地である広島も原爆投下という悲劇により市内は壊滅状態となったが,残された人々の弛まぬ努力により,今では緑豊かな国際文化都市に大きく生まれ変わり,平和の重要性を再認識するための重要な場所になっている。
国づくりを支えるための人づくりに貢献できる,そんな国でありたいという想いを胸に,日本は中央アジア各国において例えば道路や発電所を作るに際しても,ただインフラを作るだけで終わるのではなく,その整備・維持の方法を習得してもらえるよう研修員の受け入れや専門家の派遣を丁寧に行い,現地に専門家を養成するためのトレーニングセンターの開設なども行ってきた。この25年間,日本が中央アジア各国から受け入れた経済分野の研修員と日本が派遣した専門家は,それぞれ9668人,2587人に及んでいる。日本の支援により日本の大学院で学んだ留学生は今や大臣・次官を含め各国政府の要職やビジネス界のリーダーとしてそれぞれの国づくりを担っている。
日本が「人づくり」の重要性とともに訴え続けてきたのが,地域協力である。2004年,日本は世界各国に先駆けて「中央アジア+日本」対話を立ち上げた。中央アジア5か国が,地域共通の課題に共に取り組むことは,地域を強くし,安定させ,地域内の国々が自立的な発展を遂げ,国際社会における役割を引き上げるための大きな手助けとなる。日本はそう信じ,そのための地域協力を促す努力してきた。
5月1日に行われる外相会合は第6回目を迎える。対話を重ねるにつれ,今では実践的な協力を行うための具体的な議論が行われるまでになった。今回の外相会合では,地域の協力がそれぞれの国の安定と繁栄に直結する,運輸・物流分野に焦点を当て,実践的な協力を深化させていきたい。
このような日本の姿勢は日本への信頼を生み,今日の友好関係の基礎になっているものと自負している。そして現在,力強く発展を続ける中央アジア各国との関係は,経済支援,政治対話,地域協力の推進とともに,国際場裏での協力,ビジネス,文化交流など多層的にその可能性を開花させつつある。それを象徴するのが,2015年10月の日本の総理大臣として初めての安倍総理による中央アジア5か国歴訪である。この歴訪には50もの経済団体が同行し,ビジネスフォーラムが開かれ,その後のフォローアップとしても日本と中央アジア諸国との関係を国民レベルで更に深め発展させていくための交流事業を考察するための文化ミッションが各国に派遣されることになるなど,文字通り,二国間関係を更なる高みに引き上げる歴史的な訪問となった。
カザフスタンとの関係では,昨年11月に行われたナザルバエフ大統領の訪日は二国間関係を抜本的に強化した重要な訪問であった。訪問中,ナザルバエフ大統領は中央アジア諸国首脳として初めて国会で演説を行うとともに,第6回日本カザフスタン経済官民合同協議会,広島訪問など重要なイベントが行われた。核兵器による悲劇的な経験を共有し,ともに国連安全保障理事会非常任理事国を務め,CTBT発効促進共同調整国を務める日本とカザフスタンは,国際場裡においても,軍縮・不拡散分野,北朝鮮問題等でしっかりと連携できていることを非常に心強く思っている。6月から開催されるアスタナ万博を契機に経済関係でも日・カザフ関係の更なる深化が期待される。
キルギスとの関係では,民主主義の発展を国の大きな目標の一つとしている同国の努力を日本として支援し続けてきた。日本はキルギスの公正な選挙実施のために,投票者本人確認手続自動化や国家統一住民登録支援などを行ってきており,それによりキルギスの民主化が一層促進されていることは大変喜ばしい。3月にアブディルダエフ外相が訪日した際には,日本が大きな知見を有する災害対策で貢献すべく,キルギスにおける幹線道路「ビシュケク-オシュ」の雪崩対策を実施することを決定した。こうした日本の協力が,キルギスの運輸・物流分野における連結性の強化や,民主化を支える経済基盤の強化にも資するものと信じている。
タジキスタンとの間では,2週間前に,2015年の安倍総理による訪問時に設立が合意された「日・タジキスタン経済・技術・科学協力政府間委員会」の第一回会合が実施され,両国関係が新たな段階に入ることができた。この委員会での議論などを通じ,タジキスタンとの経済関係を発展させたい。
トルクメニスタンは2014年から「中央アジア+日本」対話の議長国であり,同国の尽力により,今回外相会合が開催できる運びになったことを高く評価するとともに感謝している。天然資源大国トルクメニスタンとの関係では,重要な経済プロジェクトも数多く,また,日本型工学教育をベースとした人材育成支援等も試みられている。これら重要案件の完全な実現まで,日本としても引き続き協力していきたい。
ウズベキスタンは,日本人にとって一度は訪れてみたいユネスコ世界文化遺産の町サマルカンドを始めとする遺産が多くある憧れの地でもある。今年,日本各地とウズベキスタンを結ぶチャーター便が10便も運行されることは,日本におけるウズベキスタンの人気の高さを物語っている。政治・経済・文化などあらゆる分野で進展する日・ウズベキスタン関係が,ミルジヨーエフ新大統領政権との間で更なる発展を成し遂げることを期待したい。
国同士の付き合いは25年だが,我々の間には古くから続く歴史的・文化的な結びつきがある。中央アジアと聞くとシルクロードへの憧れを連想する日本人は多いが,日本文化の礎となっている仏教も,日本の文化を豊かにした西方からの文明や文化も,シルクロードを通って伝来した。日本と中央アジア各国の人々の間に息づく敬意や関心を基盤に,日本と各国との交流,特に人と人との交流がさらに活発になり,手を携えてこれからも共に歩んでいけるよう,私としても尽力していきたいと考えている。