寄稿・インタビュー
ウォール・ストリート・ジャーナル紙への小田原外務大臣政務官寄稿
(2017年1月30日付)
「慰安婦とアジアの安全保障」
2015年12月28日,我が国は,多くの女性達の尊厳や名誉に関する慰安婦問題につき,韓国側と歴史的な合意に達しました。この合意において,慰安婦問題は「最終的かつ不可逆的に解決され」,より良い日韓関係への障害を取り除くことができました。この成果は米国を含む多くの国が高く評価しています。
我が国はこの合意に基づく責務を果たしてきました。昨年8月,日本政府は,元慰安婦の方々の支援を目的として設立された財団に10億円を支出しました。
これを基に,同年10月,財団は事業を開始しました。合意の時点で生存していた元慰安婦46名のうち,34名が事業に賛成し,既に29名が医療や介護といった支援を受けています。
韓国側も当然合意通りに在韓日本大使館前の慰安婦像の問題の解決に向けて努力する事を我々は期待していました。昨年12月28日には韓国と共に合意一周年を祝福できると信じていました。
ところが,合意の大切な基礎を破壊しかねない事態が発生しました。12月30日,関係自治体が認める形で,韓国の活動家の団体により,在釜山日本国総領事館前に慰安婦像が新たに設置されました。
慰安婦問題が最終的かつ不可逆的に解決されることが合意されたにもかかわらず,かかる事態が発生したことは極めて遺憾であり,領事関係に関するウィーン条約に照らしても問題です。
この合意は,1965年に日韓間の財産及び請求権に関する問題が完全かつ最終的に解決されることを確認したことに続く,二度目の合意です。両国民が地域の平和と繁栄を懸念する中で,我々が築き上げた友好への期待と信頼を根底から崩す活動家の振る舞いは容認し難いものがあります。
1月6日,日本政府は,在韓国日本大使及び在釜山日本総領事の一時帰国を含む措置をとらざるをえませんでした。合意一周年を韓国と共に祝福するどころか,抗議するという事態になってしまったことは無念としか言いようがありません。
日本にとって韓国は,戦略的利益を共有する最も重要な隣国です。とりわけ北朝鮮が核実験や弾道ミサイル発射を繰り返している今,日韓は力を合わせて無謀な挑発を抑止するべきでしょう。米国本土をも脅かす新たな段階の脅威と認識せざるを得ません。こうした脅威に対しては,日本,韓国及び米国で連携することが不可欠です。
他にも日韓間で協力できる分野は多くあります。両国は,共にエネルギー輸入国であり,急激な少子高齢化等共通の課題に直面しています。これら共通課題について,日韓両国は過去には二国間でもグローバルでも緊密な協力をしてきていました。
合意の実施が日韓協力と信頼の基盤となっていることに鑑みれば,この合意の履行は日韓双方にとっての責務です。日本は引き続き,韓国と協力しながら,国際社会の平和と安全に貢献していく考えです。