寄稿・インタビュー

(11月5日付,2面・3面)

「パワーバランスの急激な変化」

平成27年11月13日

 ASEM各国の外務大臣は,本日,ルクセンブルクに集まる。本紙は,日本の外交政策のリーダーである岸田文雄外務大臣にインタビューを行う機会を得た。岸田大臣は,日本とルクセンブルクとの関係,また,その他の国際的に重要な複数のテーマについて語った。

(問)日ルクセンブルク関係の現状如何。両国関係の深化を希望する特定の分野は何か。

(岸田外務大臣)今日,外務大臣として初めてルクセンブルクを訪問できることを嬉しく思います。日ルクセンブルク関係は,両国間の緊密な人的交流を背景に,強固で親密です。特に,皇室と大公家は親密な御関係を有しています。アンリ大公殿下は繰り返し御訪日されており,つい最近も昨年10月にギヨーム皇太子同妃両殿下が御訪日されました。政治レベルでも往来が続いています。昨年のシュナイダー副首相兼経済大臣に続き,本年7月にEU議長国就任早々ベッテル首相が訪日されましたことは心強いことです。グラメーニャ財務大臣も何度も来日されています。私も,昨年2月に引き続き,アセルボーン外務大臣に再会できることを楽しみにしています。
 ベッテル首相訪日の際,両国は,経済関係を一層強化することで一致しました。昨年のギヨーム皇太子同妃両殿下の御訪日には経済ミッションが同行し,また,先月は日本の経団連がルクセンブルクを訪問する等,経済面での相互交流も活発化しています。ルクセンブルクは金融業で発展し,最近はITや物流などの分野で産業多角化を推進しています。今回の訪問で,こうした先進的な取組を目の当たりにすることを楽しみにしています。
 日本は経済成長を取り戻しました。両国間には,貿易投資を更に増加させる潜在力があります。また,両国とも観光客の誘致に力を入れていることもあり,人の交流も盛んになりつつあります。今年は山口県で開催された世界スカウトジャンボリーに参加するため,200名を超える若者がルクセンブルクから訪日しました。更に文化交流に関して言えば,和食やマンガなども含め,両国間の文化交流が更に深化することを期待します。

(問)日本と欧州は,外交政策及び安全保障政策の面で協力関係にある。日本は中東や北アフリカの危機,テロリズム,核の不拡散に向けた努力といった諸問題について,欧州とどのような協力を行うことが可能か。

(岸田外務大臣)日本と欧州は基本的価値と原則を共有し,お互いを信頼し合う強固なパートナーです。今次外相会合では,国際社会が抱える様々な課題に関してアジアと欧州各国の外相と忌憚ない意見交換し,協力をより深化させたいと思います。
 その中でも,欧州に隣接する中東・北アフリカ地域の安定は,日本にとっても重大な関心事です。日本は今年,約8.1億ドルのシリア・イラクの難民・国内避難民に向けた支援を実施します。また,中東アフリカでの平和構築のために7.5億ドルの支援も準備しています。こうした支援が,中東の安定,そして欧州への難民流入問題への解決につながることを期待します。
 また,テロや暴力的過激主義は国際社会全体に対する脅威です。今年始めの仏やベルギーで起きたテロ襲撃事件,さらにはシリア,チュニジアやエジプトでのテロを断固として非難します。日本もISILをはじめとするテロ組織の脅威に対して,欧州諸国と緊密に連携し,テロの温床となる根本原因の解決といった中長期的課題から,対テロ制裁や出入国管理といった水際対策において,テロ対策協力を推進していきます。
 さらに,日本と欧州は「核兵器のない世界」に向けた思いを共有しています。イラン核合意は国際不拡散体制の強化に資するものであり,歓迎するとともに,EUを含む交渉当事者の努力を高く評価します。私自身,先のイラン訪問の際,ローハニ大統領とザリーフ外相に核合意の着実な履行を働きかけました。日本は,着実な履行を支援します。

(問)経済に関して,EUと日本の経済連携協定は,もし無事締結されれば,世界の貿易額の40%近くを占める幅広い自由貿易協定となる。この計画についての現在の進捗状況如何。

(岸田外務大臣)日本の成長戦略の柱の一つである日EU・EPAは,EU経済にとっても更なる発展の推進力です。ユンカー委員長のリーダーシップの下,欧州委員会が先月発表した「新貿易戦略」でも,日EU・EPAは重要課題とされています。また,日EU・EPA,環太平洋パートナーシップ(TPP)協定及びEU米FTA(TTIP)の実現により,日米欧三極が,経済関係の深化を同時並行的に達成することができれば,基本的価値を共有するパートナーである日EU双方にとって戦略的に極めて重要です。
 本年5月,日EUの首脳間で,スピードと質の両方を重視して包括的かつ高いレベルのEPAを本年中に大筋合意することを目指すことを確認しました。これを受け,これまで精力的に交渉が続けられてきており,今この瞬間も,ブリュッセルにおいて双方の交渉官がともに作業しています。日EU関係の更なる発展と双方の繁栄という成果を皆さんと一緒に分かち合う日に向け引き続き努力していきたいと思います。

(問)尖閣諸島をめぐる問題や北朝鮮の脅威について,日本は欧州に何を期待するか。尖閣諸島に関しては中国との関係において,この問題が暴走したり,エスカレートするリスクはあるか。

(岸田外務大臣)アジア太平洋地域の安全保障環境は厳しさを増しています。中国は,東シナ海において,日本の領土である尖閣諸島周辺海域への領海侵入を繰り返しているほか,南シナ海においても一方的な現状変更の試みを続けています。北朝鮮は,安保理決議に明白に違反して核・ミサイル開発を継続しています。
 法の支配・領土の一体性への挑戦等による一方的な現状変更の試みや,安保理決議の違反,拉致を始めとする人道上の問題等に対しては,国際社会が一つの声で対処していく必要があります。特に日本と欧州が共有する基本的価値と原則に基づき,連携して対応していくことが重要だと考えています。
 なお,尖閣諸島は,歴史的にも国際法上も我が国固有の領土であり,現に我が国はこれを有効に支配しております。その上で,日本側から事態をエスカレートさせることはなく,毅然かつ冷静に対応してきています。

(問)日本は最近,「平和安全法制」の制定というパラダイムシフトを行った。なぜこのような変更を行ったのか。日本はどの程度,国際的な軍事行動に参加する用意があるのか。

(岸田外務大臣)パワーバランスの急激な変化,テロやサイバーといった新たな脅威の出現など,日本を取り巻く安全保障環境は一層厳しさを増しています。「平和安全法制」はその中で,国民の命と平和な暮らしを守っていくため,あらゆる事態を想定し,切れ目のない対応を行うために必要不可欠なものです。
 また,「平和安全法制」は,国際協調主義に基づく「積極的平和主義」の立場から,世界の平和と繁栄のために国際社会の一員としての責務を果たすことにもつながるものです。我が国は,新たな平和安全法制の下で,国連PKOや後方支援等を通じ,国際社会の平和と安全に一層の貢献を行っていきます。
 一方で,「平和安全法制」の内容は,憲法の制約の下,諸外国と比べて,極めて抑制的なものです。専守防衛に徹することをはじめとする我が国の平和国家としての歩みは,いささかも揺らぐものではありません。日本は,今後も平和国家としての歩みを堅持しつつ,関係国と緊密に連携して,「積極的平和主義」を実践していきます。


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