寄稿・インタビュー
岸田外務大臣による「カザフスタンスカヤ・プラヴダ」紙(カザフスタン)への寄稿
(2014年7月16日付)
シルクロードで世界に知られる中央アジアは,二千年以上の昔から,諸国の民と物産,そして文化が往来する「ユーラシアの交差点」であった。日本と中央アジアの間には長い距離が横たわるが,歴史的なつながりは古い。
8世紀の日本の古都奈良には,皇室の御物を収める正倉院という蔵がある。そこには,楽器,衣服,刀剣,食器など,遥か西方から中央アジアを通って伝来した様々な宝物が今も往時のままに保存されている。また,日本文化の基底をなす仏教も,インドから中央アジア,中国及び朝鮮半島を経由して伝来した。日本への仏教初伝は西暦538年とされている。シルクロードという言葉が日本人に与える印象が,何よりも,我々の文化の起源に対する憧れであるのは当然のことと言える。
1991年に中央アジア5か国がソ連から独立して以来,日本は,この「古くて新しい」友人たちの新しい国づくりを支えるべく,様々な分野で協力を行ってきた。日本の支援は,上下水道や空港の整備,火力発電所の近代化や鉄道の敷設といった大型のインフラ整備だけではなく,学校の改修,病院への医療機材供与,さらにはビジネス研修,農業研修といった技術協力など,国民生活の多岐にわたる分野に広がっている。
このような協力によって構築された互いの信頼を基礎として,2004年8月,日本と中央アジア5か国は「中央アジア+日本」対話を立ち上げた。中央アジアが世界に開かれた自立的な地域として更なる発展をとげるためには,域内諸国が地域共通の課題に一致協力して取り組んでいかなければならない。日本は,そのような地域協力を進めるために,中央アジア諸国と共に考え,共に歩んでいきたい。これが,本件対話創設の理念である。私は,この方向性の下これまでに積み重ねてきた取組みによって,中央アジア諸国の友人たちもこの理念を共有するようになったと確信している。
「中央アジア+日本」対話は立ち上げから10周年を迎えた。本日,キルギス議長国の下,ビシュケクで第5回外相会合が行われる。この会合において,私は,単に対話を行うのではなく,中央アジア諸国との実践的な協力について大きな方向性を打ち出したいと考えている。具体的に言えば,中央アジア地域の発展のカギを握る農業部門で,日本の技術や経験を活かし,広く地域の発展に資する協力を進めていきたい。このことについて,日本と中央アジア5か国は半年以上にわたって議論を重ね,協力の可能性を探ってきた。もちろん,日本と中央アジアの協力は農業だけに限定されるものではなく,本年以降重要な転機を迎えるアフガニスタン情勢を考慮し,中央アジアの麻薬対策や国境管理,中央アジアの持続的発展という観点からは防災や女性といったテーマも取り上げたい。各国の外務大臣と率直な意見交換を行えることを楽しみにしている。
中央アジアは今やダイナミックな発展をとげつつある。近年,カザフスタンとは,資源・エネルギーや自動車分野で日本企業が進出するなど,経済関係が飛躍的に高まっている。また,カザフスタンが2050年までに世界の先進30か国入りを目指していることも承知しており,日本が得意とする人材育成や高度技術などの面でも協力を強化していきたい。また,経済面のみならず,日本とカザフスタンは,核による悲劇的経験を共有する国同士として連携してきた軍縮・不拡散をはじめ,今後,国際的な課題においてもカザフスタンと協力する場面は増えていくであろう。日本は,これからも,中央アジアのニーズにきめ細かく応える支援を行うとともに,地域の安定と発展をめざして共に協力する中央アジアの仲間であり続けたい。これは,安倍政権が掲げる国際協調主義にもとづく「積極的平和主義」の実践でもある。
また,私は,日本とカザフスタンとのパートナーシップは,中央アジア地域に限定されることなく,核軍縮・不拡散や国連安保理改革などのグローバルな問題にも広がっていくものであると考えている。国際舞台におけるカザフスタンとの協力に大いに期待したい。この関連では,起草過程において日本も大いに協力した「中央アジア非核地帯条約」について,本年5月,5核兵器国が消極的安全保証に関する議定書に署名するという前進があったことを歓迎したい。私は唯一の戦争被爆国の外務大臣として,また,広島出身の政治家として,「核兵器のない世界」の実現を大きな目標に据えており,このような動きを心強く感じている。
日本と中央アジアの幅広い互恵的パートナーシップを目指し,本日の議論を通じて,次の10年に向けた展望を共有することができればと考えている。
最後になるが,「中央アジア+日本」対話の理念を体現する我々の新しい仲間を紹介したい。ここに描かれているキャラクターは,中央アジア5か国と日本のパートナーシップを表したものである。彼女たちの成長を共に見守ってほしい。