寄稿・インタビュー
フランクフルターアルゲマイネ紙(中根猛駐独大使寄稿)
2014年1月21日付
Shi Mingde中国大使の14日付け寄稿文は,日本の戦後の歩み及び現在の日本のあり方を歪曲し,根本的に否定しようとする,世界中の中国大使館が現在行っている組織化されたキャンペーンの一環を成すものであり,失望を持って受け止めた。
とりわけ,Shi大使の寄稿文が「軍国主義の復活」等の言辞を用いて,日本に対して事実に反するレッテルを貼ろうとしていることは残念でならない。このような中国側の批判は,2008年の胡錦涛国家主席の訪日時に公表された「『戦略的互恵関係』の包括的推進に関する日中共同声明」において,中国自身が「日本が,戦後60年余り,平和国家としての歩みを堅持し,平和的手段により世界の平和と安定に貢献してきていることを積極的に評価した」こととも矛盾するものである。
日本は,戦後一貫して,自由,民主主義,法の支配を擁護し,アジアを含む世界の平和と繁栄に実際に貢献してきた。右は中国に対するものについても同様であり,日中国交正常化後の70年代以降,3兆6,000億円(1979年以降の累計)を超える同国に対する経済支援を通じて,インフラ整備等に貢献してきた。また,中国のWTO参加を最も早い段階から支持してきたのも日本である。
このように,我が国が,平和国家として世界の繁栄のために貢献していくとの考えは,戦後しっかりと日本国民に根付いている。加えて,日本は,歴史の事実を謙虚に受け止め,改めて痛切な反省とお詫びの気持ちを繰り返し表明し安倍内閣も,こうした歴代内閣の立場を明確に引き継いでいることを明らかにしておきたい。
そもそも靖国神社には第二次世界大戦のみならず,1853年以降,国内の戦争や,日清・日露戦争,第一次世界大戦などで国のために戦い尊い命を落とした約246万名の戦没者が身分や男女の別なく祀られている。安倍総理は,このような戦没者に哀悼の意を示すと共に,過去への痛切な反省の上に立って,「二度と人々が戦争の惨禍に苦しむことが無い時代をつくる」との決意を込めて,不戦の誓いを行った。もちろん,極東軍事裁判で判決を受けたA級戦犯を崇拝し正当化するためのものでは毛頭ない。また,安倍総理は,今回,戦争で亡くなられた靖国神社に合祀されていない日本人及び外国人を祀る鎮霊社も参拝された。このような安倍総理の考えは,参拝直後に発出した「恒久平和への誓い」と題する談話でも明確にされている。
我が国は,第二次大戦後の結果と戦後の国際秩序に疑問を呈したことはなく,サンフランシスコ平和条約を誠実に遵守してきている。一方,中国が今や周辺国の大きな懸念となっている不透明かつ急激な軍事費増大,並びに南シナ海や東シナ海における「力」を用いた第二次大戦後の現状維持への挑戦を止め,海と空の航行の自由をはじめ国際法の遵守を通じて平和の維持発展に貢献していくことが望まれる。
自分は,事態をエスカレートさせるために反論投稿するのではない。むしろ広く欧州に住む人々に,アジアの状況に対して正しい理解とより一層の関心を抱いて頂きたいと考える。ドイツの近隣諸国はドイツに対して和解の手をさしのべた。そして両者は,欧州連合という偉大なプロジェクトに共に取り組んできた。残念ながら,日本をとりまく地域はそのような状況にない。安倍総理が常に「対話のドアはオープン」と近隣諸国に述べているとおり,このような状況であるからこそ,中国側が我が国との対話に応じることを願う。
なぜなら,平和とは,軍備拡大や政治的キャンペーンによってではなく,自由と民主主義,国際ルールの遵守,そして対話を通じた相互理解によって達成されるものだからである。
在ドイツ連邦共和国特命全権大使
中根 猛