寄稿・インタビュー
ル・フィガロ紙「日本は平和国家であり、そうあり続ける」(鈴木庸一駐仏大使寄稿)
2014年1月27日付
中国は日本で軍国主義が復活しているという現実とは異なるイメージを植え付ける国際的キャンペーンを展開しているようであるが残念である。一方で,中国は,ここ数年で軍事費を10倍以上に増やし,日本や他の近隣諸国に対して力による一方的かつ挑発的な行為(東シナ海における防空識別区の設定や中国公船による連日の領海侵入,南シナ海での漁業規制の一方的な導入等)を繰り返して,アジア地域における緊張の高まりの原因となっている。これに対し,日本は,防衛予算を過去10年間で6%減少させ,今年度は11年ぶりに増額させたが,それは0.8%に過ぎない。また,日本は,2013年1月の護衛艦への火器管制レーダーによる照射など中国側の戦争行為同然の危険な挑発行為にも最大限の抑制をきかせ,挑発を続ける中国側に,建設的な戦略的互恵関係を築くべく首脳を始め様々なレベルの対話を呼びかけている。中国から返事はまだない。
日本の平和国家としての姿勢は,これまでも,そしてこれからも一貫して不変である。
中国は靖国神社参拝を故意に軍国主義に結びつけている。靖国神社には,第二次世界大戦のみならず,1853年以降の明治維新,明治期の国内の動乱や日清・日露戦争,第一次世界大戦などで国のために戦い命を落とした約250万名が,身分や男女の別なく祀られている。安倍総理の参拝は,こうした戦争犠牲者の御英霊に対して哀悼の意を捧げ,尊崇の念を表し,「二度と人々が戦争の惨禍に苦しむことが無い時代をつくる」との決意を込めて,不戦の誓いを行うためのものであった。これは,安倍総理が参拝直後に発出した「恒久平和への誓い」と題する談話に明らかである。
国のために戦地に倒れた戦没者の冥福を祈り,手を合わせる,これは世界共通のリーダーの姿勢である。凱旋門の無名戦士の墓には花が絶えない。多くの遺族にとり今はなき愛する人に再会する場である靖国神社には,戦後,歴代総理が参拝しているが,中国が問題にし始めたのは最近のことである。
今回安倍総理は,靖国神社に合祀されない国内,および諸外国の人々を慰霊する鎮霊社にも参拝した。
今回の参拝は,平和への祈りそのものであり,安倍政権の歴史問題の対応や外交方針の変化を示すものではない。日本は戦後一貫して自由,民主主義,人権,法の支配を擁護し,カンボジアにおいてフランスとともにそうしたように,アジアの平和と繁栄に実際に貢献してきた。
平和,民主主義,人権などは日本国民のアイデンティティの一部となっており,戦後日本の平和国家としての歩みは今後も全く変わらない。この点は先般閣議決定した国家安全保障戦略でも強調されている。
今回の参拝は,安倍総理の談話にもあるとおり,A級戦犯を崇拝し,その行為を正当化しようというものではない。日本政府は,第二次大戦後の秩序を覆そうとなどしていない。日本政府は,サンフランシスコ平和条約により極東国際軍事裁判所の裁判を受諾している。安倍総理自身も,この立場を明確に確認しており,日本政府はこれまで一度たりともA級戦犯を正当化したことはない。
欧州とアジアとの比較については,読者に注目して頂きたいのは,欧州においては,フランスが,その叡智と戦略的先見性をもってドイツの和解を試み,欧州統合のプロセスを進めてきたことである。先の大戦について,日本政府は,過去の総理談話で幾度も明確に反省とおわびの意を表しており,安倍内閣として,こうした歴代内閣の立場を引き継いでいる。日本は,中国と対話を通じて未来に向けた関係を築きたいと願っている。にもかかわらず,いたずらにありもしない過去の姿を蒸し返そうとし,対話に応じない中国の姿勢は残念だ。