国際問題プレゼンテーション・コンテスト
「国際問題プレゼンテーション・コンテスト」開催の概要報告

外務省は,9月22日(土曜日),日本橋社会教育会館にて「国際問題プレゼンテーション・コンテスト」を開催しました。今年のテーマは,「私の提言 日本の広報文化外交:日本をよりよく知ってもらうために」でした。全国各地から応募があった事前審査論文の選考を経て本選出場権を得た5名による様々な観点からのプレゼンテーションが披露されました。その結果,聖心女子大学文学部の福井春菜さんが外務大臣賞を受賞しました。
受賞者の皆さん(優秀賞は,当日発表順となっています)

聖心女子大学文学部
外務大臣賞
優秀賞(当日発表順)

横浜市立大学国際総合科学部

早稲田大学国際教養学部

東京医科歯科大学歯学部

明治大学農学部
審査委員による講評
渡辺 靖(わたなべ やすし)慶應義塾大学環境情報学部教授
まずは,長時間に渡りお疲れさまでした。私が大学生だった頃というのはもう30年ぐらい前になりますが,30年前の自分に今日の5名の方がされたようなことができたかというと全くできなかったと思います。今回,40名の方が最初の書類にご応募いただきまして,審査の過程においては大学名・学年・氏名は一切知らされずに,あくまでその文章の中身だけで審査をさせていただきました。
気付いたことは,大まかにいうと食に関するものと,アニメ・マンガ等を含めた広い意味でのクリエイティブ・インダストリー,それから東京オリンピックとかに関するテーマが比較的多かったという印象を受けます。私が学生だった30年前と比べると隔世の感があります。日本食というのは海外に行くとやっぱりちょっと違和感があるもので,お寿司といっても,アメリカでさえお寿司というと少しエキセントリックなイメージが当時あったわけです。ましてや日本人といいますと,よく働いて,けれどよく働きすぎて,逆に面白くない,非常に個性がない。いわゆるサラリーマン社会というようなイメージがあったわけです。それが,今になってみると,まさにクリエイティブ・インダストリーズで,ここまで注目されるほど非常にイノベーティブな国民であるというようなイメージが広がったと。こういったところは,私が学生だった頃とは随分変わったのかなというふうに思っています。
そしてまた,何よりも変わったのは,私が学生だった頃はまだ日本を海外にアピールすることは,それほど積極的でもなかったし,まだどこかにためらいがあって,またいちいち言わなくてもどこかで分かってくれるだろうというようなインセプトがあったわけです。けれども,今まさにこのパブリック・ディプロマシーに対する関心事はここまで高まったというのも当時と随分違いますし,そしてまた,そこに『伝える』このプレゼンテーションの能力の高さというのも,若い世代を見ていますと強く感じるところです。多分今日の5名のプレゼンでも,十分窺えたのではないかというふうに思います。
テーマ的にはそういったテーマが多かったのですが,少し長く生きている分,やや既視感を覚えるテーマが多かったというのも事実です。ただ,その中でも,ユニークな視点や提言を組み込んでくださって,割と知っているはずのテーマでも聞いていて新鮮な印象を受けたのもまた事実です。
その一方で,質問の際にも述べさせていただきましたけれども,今日本を取り巻く外交状況,国際環境を考えますと,やはりかなりハードな課題というのがあります。そういった中で,ソフト・パワーとかパブリック・ディプロマシーというのが単に交流だとか,あるいは相互理解が進めばいいというだけで果たしていいんだろうかということに関して,私自身も日々格闘しているところがあります。そういった問いに関して,一番直接的にインディケーションの高い形で提示してくださったのが福井さんだったのではないかということで,今回外務大臣賞ということになりましたけれども,それ以外の方々もソフトなアプローチ,ソフトなテーマとハードな現実というのをどう結びつけるかということを今後意識して,さらにこの課題に取り組んでいってくださればと思います。どうもありがとうございました。
小川 忠(おがわ ただし) 跡見学園女子大学文学部教授
今日はどうもありがとうございました。私は,去年まで国際交流基金にいて,国際文化交流に志を抱いて入ってくる若い人たちと一緒に働いてきたのですが,今日出席された5名の方とはぜひ国際交流基金で一緒に働きたいと思える,そういう熱い志を感じました。
パブリック・ディプロマシーというと,日本からの『発信』がいつも意識され,強調されているように思います。実際に国際交流の現場にいた人間から発言させていただくと,『発信』と同時に『受信』,そして一緒に汗を流して働く『協働』,そういったプロセスが非常に重要なのです。一方的に情報,価値を相手に投げるだけではうまくいかない。さらに考えるべきは,対話する相手は誰なのか,ということです。相手は,実は非常に多様でダイナミックに変化する存在なのです。
与えられた時間が短いせいでしょうが,『外国』,『海外』,『世界』,と一括りに語ってしまうことが,今日もあったかと思うのです。しかし,実はその『世界』には,多様な人々・多様な価値観が存在していて,さらに彼らは常に変化しています。そういう状況の中で,相手に応じた,きめ細やかな対話の中で,日々パブリック・ディプロマシーが行われていることを,もう一度留意していただければと思います。
今日の5人のプレゼンテーションの中で,特にそういう意味で,福井さんのプレゼンテーションが非常にターゲット,対話をする相手が誰なのか,明確に意識して交流プログラムが作られているという点が,特に評価が高かったことに繋がるのかなと思います。
これからも日本と諸外国との理解,協働のために皆さんが益々ご活躍いただくことを祈念いたしまして,私の言葉とさせていただきます。ありがとうございました。
白原 由起子(しらはら ゆきこ) 根津美術館学芸部特別学芸員
本当に今日5人の方の勇気あるこのプレゼンテーションに再び感銘していることを,まず申し上げたいと思います。お疲れさまでした。本当に緊張されたのではないかと思います。日本人はプレゼンテーションが下手だというのがよく言われるところですけれども,皆さんの堂々としたお話。そしてあわよくばもう少しこう表情豊かに語っていただきたい。これから,もっともっともっと磨かれていただけたらと思います。
非常に厳正にさせていただいた審査の中で,僅差であり,また私が印象深く思いましたことを一言申し上げるとすれば,和食文化についてお二人の方がプレゼンされた内容でございます。私は長く美術館に,アメリカと日本におりまして,パブリック・ディプロマシーの一つの部門を担っているものの端にいる存在でございます。アメリカの美術館におりましたとき,先ほども申し上げましたように和菓子の講座を開いたりいたしました。それからある展覧会では,北大路魯山人の焼物の展示のときに,「そこにあなただったら何を盛って食べますか」という,和食の好みを皆さんに問うアンケートを取ったりしました。そういうようなことで食の文化と芸術,あるいは文化財と現在の生活との繋がりというものを見せられるか。特に海外で日本の伝統文化を文化財の形で示すときにその展覧会をどう立体化していけるかというのが,私たち学芸員の仕事であったということを,今回食に関するご発表の中でつくづくと感じました。
五人目の方の中小企業も支える,そういったことももちろん食に関することでございますが,特に精進料理は,先ほど小川先生がおっしゃられたように,外に発信するだけでなく,これから国内の人々のその色々な嗜好というものに対しても対応すべき問題であると思います。ただ日本人は全てがファッション化されてしまうようなところがあるので,そのあたりがどのように根付くだろうか,それがどのように発展していくだろうか,そういうところも,実は2020年・それ以降に向けて見守っていきたいところでありますので,非常に面白い視点をお見せいただいたのではないかと思っております。それをもって,私の講評の言葉にさせていただきたいと思います。どうも皆さまお疲れさまでした。ありがとうございました。