外務省を知るためのイベント

概要報告

平成26年10月15日
 平成26年9月12日(金曜日),外務省において平成26年度第1回「外務省セミナー『学生と語る』」を開催いたしました。
 全体講演および分科会の内容について,アンケートにご協力をいただいた参加者の感想を引用しつつ,紹介します。

1.全体講演

開会挨拶(大臣官房 国内広報室 小林洋介室長)

(写真1)

 「学生と語る」開催趣旨の説明に続き,外務省が発行するわが国唯一の外交専門論壇誌「外交」について紹介しました。

基調講演「国際情勢と日本外交」(13時35分~14時35分)
(講師:総合外交政策局総務課 濱本幸也主任外交政策調整官)

(写真2)

 はじめに,わが国の国益とともに世界全体の利益の双方を増進,拡大していく必要があり,そのためにもわが国の安全・安定と繁栄が重要だと語りました。
 続いて日本を取り巻く東アジアの安全保障環境について,北朝鮮が核・ミサイル開発を進めていることや,軍事費が年間2桁台で伸びて内容が不透明な中国等の状況について説明しました。そのような中で日米同盟は,日本の安全を確保するのみならず東アジアの地域の安定に寄与しており,その上でわが国は安全保障法制の方針や防衛装備移転三原則など,わが国の安全保障を確保するための自らの能力,体制の整備をしてきた旨解説しました。
 日本から離れたところで起きていることについても,例えば2001年の9.11同時多発テロや最近のイラク,シリアのISILなど地球の裏側で起るテロは,国境を越える脅威であり無関心でいられないと述べました。次に軍縮,不拡散,組織犯罪,気候変動などグローバルな課題は国際社会全体で取り組むことが重要であることを強調し,さらに新たな分野の脅威として宇宙,サイバー,感染症等を挙げた。例えば宇宙空間の利用についてはルールが明確になっていない中で,衛星破壊実験等により宇宙のごみ(デブリ)は近年増加しており,軌道を周回する人工衛星のリスクとなっているが,衛星技術は通信,放送,天気予報,軍事的な用途など幅広く利用されており,その影響は大きいことから,国際的な対応が広い意味での安全を確保するために必要となっていると言及しました。

(写真3)

 次に繁栄・経済について,モノ,サービス,人が国境を越えて結びつきが深まっている中で,WTO(ドーハラウンド)の交渉とともに,質の高いEPA,FTAの網を広げることは貿易の自由化に繋がると解説しました。このことは全体の底上げか,一部の国で高いレベルの合意を達成するのかという二つの考えのバランスを取ることだと述べました。
 続いて経済の現状について主要国のGDP,経済成長率を引用しながら日本・EU・米国のGDPが世界のGDPに占める割合は相対的に低下し,中国・インド等の新興国の占める割合が大きくなって経済面での重要性は高まってくる傾向にあると述べました。
 次にわが国のEPAの現状について現在14カ国・地域との間で発効済み・署名済みであるが,これらの国との貿易がわが国の貿易総額に占める割合は22.6%であること,TPPを含め現在交渉中の国々と合意すれば84.2%となると解説しました。
 さらにいくつかの論点について講師の見解を語り,例えば多くの場合,各国の利害はゼロ・サムではなく共通利益が存在すること,複数の分野が相互に関連して判断基準も単一ではないこと,国際的な場に国家以外の多くのアクターが活躍するようになってきていること等について説明しました。
 講演の後,参加者から国際社会の中でのルール作りはどのようなケースがあるのか,これまでの自身の経験を踏まえ,国益を定義する上で軸となる講師の考えは何か,日本の外交の強みと弱みは何か等の質問がありました。

<参加者の感想>

  • 過去にはなかったようなグローバルな課題や脅威が発生してくる中で多国間での取り組みが重要となってきている。さらにアクターの増加や進展するグローバル化により国境の存在感は低下している。このような中で外務省,国際公務委員のアイデンティティがどのように変容してきているのか,新たな興味を抱いた。
  • どのような問題意識の下で外交政策を決定されているのかということについて垣間見れた点が良かった。

「省員による体験談」(14時35分~15時20分)
(講師:大臣官房会計課 矢澤英輝課長補佐)

(写真4)

 はじめに入省後のキャリアパスについて概説し,数年間で外交の業務サイクルを一周するシステムとなっていると紹介した後,入省10年を振り返り外務省の仕事について説明しました。
 入省一年目には,欧州局西欧課においてバルト三国のラトビアの担当官となり,翌年2月のラトビアの外務大臣の訪日に際しては,外相会談をはじめ様々な行事に携わり,同外相に全日程同行し直接話をする機会が多々あるなど,外務省では入省一年目から重要な業務に直接関わることができるとその魅力を語りました。
 2年間の在外研修後,OECD日本政府代表部での勤務では,自分と同じ立場の各国の若手外交官との間で人間関係を築き,その後の外交官活動にもとても有益であったと語りました。終日に及ぶ国際会議とその議事録の作成は体力的にも精神的にも非常につらい仕事であったが,やりがいもあり,すばらしい上司にも恵まれたこともあって自分自身を鍛錬する絶好の環境であったと振り返りました。

(写真5)

 2010年に起こったハイチ大地震の際には在ハイチ日本大使館の応援のため急遽ハイチ入りしましたが,震災の悲惨な状況の中でも明るく生きるハイチ人を目の当たりにして,悲惨さだけでない現実にまさにリアルな現実/世界を感じたと当時の感想を述べました。また,日本からの自衛隊の受け入れに関する業務では同国の様々なルートでの交渉の結果,地元での人間関係を活用したことで受け入れ準備が整ったこと等を通して,OECD代表部勤務と同様,外交の現場では体力・気力とコミュニケートできる語学力に加え,人と人とのつながり・信頼関係が重要であると強調しました。在外勤務後,出向した内閣官房での勤務では主にTPP協定に関わる業務に携わり,利害が入り混ざる各府省庁との議論,調整を経て意志決定するプロセスを,身をもって感じることができたと感想を述べ,海外で多くを学ぶことと同じように勉強になったと語りました。最後に現在の会計課での業務を紹介し,体験談を締めくくりました。

<参加者の感想>

  • 躍動感溢れる体験談だった。具体的なエピソードを交えた話で引き込まれると同時に外交官としてどのようなスキル,心構えが必要なのか解った。
  • 「報道では悲惨だと伝えられていても,リアルな現場では皆明るく生きている」と語った言葉が印象的だった。

2.分科会(15時40分~17時40分)

 全体講演終了後,6つの会場に分かれて分科会が開催され,各分科会では,外務省員によるプレゼンテーション,質疑応答,参加者によるディスカッション等活発な意見交換が行われました。

「平和維持・平和構築」
(講師:総合外交政策局国際平和協力室 坂田三太郎事務官)

(写真6)

 本分科会においては,平和維持・平和構築の基本的な概念について紹介した上で,近年拡大・多様化する国連PKOについて,その概要,基本原則,これまでの発展過程及び現在の課題について説明しました。さらに,日本による国際平和協力について,実際の事例を挙げながら,様々な地域・分野における貢献について説明しました。
 参加者からは,例えば平和構築分野における人材育成のあり方,安全保障に関する法整備が目指すべき日本による国連PKOへの参加のあり方や,開発も含めた幅広い文脈での平和構築等について質問が出され,様々な角度からの意見が述べられました。その中で,各参加者が日本として如何に平和構築分野における国際社会への貢献を強化するかについて,考える場となりました。

<参加者の感想>

  • 日本や各国のPKO活動への取組について深く勉強した。今後は日本のPKOが「実績を上げて世論の支持を得る」ために何ができるかということについて自分なりに考えていきたい。

「我が国の広報文化外交」
(講師:大臣官房広報文化外交戦略課 猿橋弘幸課長補佐,菊間茂課長補佐)

(写真7)

 本分科会においては,日本外交においてますます重要性の高まっている広報文化外交について,基本的な概念や考え方,国際社会における現状認識,外務省の取組について言及し,その後,最近の新聞記事を題材に一緒に議論を行いました。参加者からは,例えば,諸外国の広報文化外交の取組等について質問が出され,実務における実際の議論もシェアしながら,一緒に広報文化外交の考えを深めました。
 留学時に日本の歴史認識等に関する知識の欠如を痛感したので,国内向けにも主要な外交問題の日本の立場を周知してほしいなど,様々な意見が出されました。

<参加者の感想>

  • 文化外交としてのソフトパワーの側面しか意識していなかったので,広報,正しい歴史認識としての活動を詳しく知ることができ有意義だった。

「対韓国外交」
(講師:アジア大洋州局北東アジア課 山崎修課長補佐)

(写真8)

<参加者の感想>

  • 日頃は新聞,テレビ等のメディアからしか情報を得ることができないが,今日は,まさに毎日韓国と接している担当者から話を伺い大変に興味深かった。

「中東外交」
(講師:中東アフリカ局中東第一課 安藤慧課長補佐)

(写真9)

 本分科会においては,現在国際社会で注目が集まっている中東地域の捉え方や日本外交の基本的な立場について説明を行うと共に,最近の話題となっている「イラク・レバントのイスラム国(ISIL)」や,ガザにおけるイスラエルとパレスチナの衝突事案を取り上げ,米国等の各国の実際の取組を例に挙げつつ,日本としてどのような政策を採るべきかについて議論を行いました。
 参加者からは,日本の中東地域に対するアプローチについて,政治・経済・広報文化等の様々な角度から質問・意見が出され,今後の日本の中東外交のあり方について一緒に考えを深めることができました。

<参加者の感想>

  • 中東外交について体系的な知識が得られた。外務省の立場では現状をどう捉えているのかを理解でき,日本の中東政策についての理解が深まった。

「日本のODA政策」
(講師:国際協力局政策課 高橋光男事務官)

(写真10)
(写真11)

 本分科会では,ODAの概要につき説明した上で,皆で議論を行いました。まず,日本自身の財政状況が厳しい中,今後ODAを積極的に行っていくべきかという点につき議論を行い,その上で,今後どのような分野・地域を重視していくべきかという点につき主に議論しました。
 参加者からは,自ら途上国での日本の支援を目の当たりにした経験や知見等に照らして積極的に意見が出されました。特に,ODAを通じて日本に対する信頼を増すことは民間企業の投資促進や邦人の安全確保の上でも重要,ポスト2015開発アジェンダ等のグローバルな課題を踏まえて,アジア偏重ではなくアフリカなどの地域での支援をもっと強化していくべき等の声が聴かれました。

<参加者の感想>

  • 日本の厳しい財政状況の中で,今後どのようにODA政策が実施,取り組んで行くのかについて理解を深めた。基礎的な部分がわかった上に資料では読み取れないスタンスの部分の話が聞けたのはよかった。

「アフリカ外交」
(講師:中東アフリカ局アフリカ部アフリカ第一課 山下亜加音事務官)

(写真12)

 本分科会においては,近年めざましい成長を遂げ国際社会の注目を集めるアフリカについて,日本外交における重要性の高まりや未だ残る課題,それらを前提とした日本政府の取組を概観しました。その上で,「今後,日本はアフリカに支援を拡大するべきか」をテーマに,今後の国際情勢における日本やアフリカの位置,政策立案において考慮すべき様々な制約,また国益とは何かといった視点も念頭に置きながら,議論を行いました。
 参加者からは,自らの経験や実感に基づく鋭い意見が多数出され,例えば,日本企業の進出に資するような支援をするべき,他国の取組も念頭に日本が強みを生かせる分野に重点を絞るべき,日本・アフリカ間の物理的・心理的な距離をより縮め相互理解を深めるような施策を行うべきといった声が聴かれました。

<参加者の感想>

  • 対アフリカ政策の現状に関するブリーフィングは充実していた。今後のアフリカ政策について考える,新たな問題意識を持つきっかけとなった。

3.懇親会(18時10分~19時30分)

(写真13)
(写真14)
(写真15)
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 分科会終了後に行われた懇親会では,参加学生と外務省員が熱心に語り合う姿が会場の随所に見られました。

最後に

 今回の「外務省セミナー『学生と語る』」には定員を超える応募があり,会場の都合により残念ながらご参加頂けなかった方々には深くお詫び申し上げます。
 ご参加頂いた方々のアンケートでは,参加して良かったという感想をはじめ分科会テーマ,議論の進め方などについて様々なご意見,ご提案をいただきました。アンケートに寄せられたご意見,ご提案を参考に次回セミナーをさらに充実・発展させて参ります。
 今回,本事業の広報活動にご協力いただきました各大学,大学院等の教育機関の教職員の皆様に厚く御礼申し上げます。

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