アメリカ合衆国

令和3年4月16日

 現地時間16日、ワシントン訪問中の菅総理が、戦略国際問題研究所にて、オンラインで講演を行ったところ、発言概要は以下のとおり。

1 冒頭発言

 日本国内閣総理大臣の菅義偉です。ハムレ会長、オンラインでご覧の皆さん、この度、米国を代表するシンクタンクであるCSISで、講演する貴重な機会をいただき、大変光栄に思います。本日は、限られた時間の中ではありますが、私の政権が展開する日本外交の基本戦略について、私の考えを少しお話ししたいと思います。

2 日本外交の基軸としての日米同盟

(1)インド太平洋地域の現実
 日本が位置するインド太平洋地域の情勢に目を向けますと、中国の台頭に伴うパワー・バランスの変化や新型コロナ対応の中で高まった自国中心主義などとも相まって、 不確実性が一層増大しているのが現実です。同時に、地域の安全保障環境は、一層厳しいものになっています。
 北朝鮮は、先月、再び弾道ミサイルを発射しました。私は、危機管理対応を担当する内閣官房長官として、2013年以降、現在に至るまでに、約80発の弾道ミサイルの発射を経験しました。これらは全て、安保理決議に明白に違反するものであり、我が国のみならず、地域及び国際社会の平和と安全を脅かす行為です。
 我々は、北朝鮮による全ての大量破壊兵器とあらゆる射程の弾道ミサイルの、いわゆるCVIDをねばり強く追求していかなくてはなりません。
 今後とも、日米、日米韓の3か国で緊密に連携し、関連する安保理決議の完全な履行を進め、北朝鮮の非核化を目指していきます。
 北朝鮮問題の解決に当たり、カギを握るのは中国でありますが、その中国は、近年、政治・経済面に加え、軍事面でも、その影響力を急速に高めており、東シナ海・南シナ海などにおける一方的な現状変更の試みを継続しています。
 私は、主権に関する事項、民主主義、人権、法の支配などの普遍的価値について、譲歩する考えはありません。対中政策については、日米でしっかりと議論していくことが重要です。先ほどもバイデン大統領との間で、非常に真剣で良い議論を行いました。中国が惹起する様々な懸案については、日本として、主張すべき点はしっかり主張し、中国側の具体的な行動を強く求めていく方針です。
 その上で、中国との安定的で建設的な関係を、しっかりと構築していく、米国をはじめとする同志国ともよく連携する、これが私の基本的な考えであります。
 このインド太平洋地域は、世界の活力の中核である一方、ただいま述べたように、様々な厳しい現実に直面しています。
 日本としては、このような安全保障環境の中にあっても、国民の命と平和な暮らしを守り抜くべく、我が国自身による努力を重ね、対応力を高めていくとともに、志を同じくするパートナーとの連携、特に同盟国である米国との間で抑止力と対処力を一層強化していくことが重要と考えています。

(2)日米同盟の絆
 ここまで申し上げれば、日本を含むインド太平洋地域において今ほど、日米同盟の強化が求められていることは、これまでなかったことをお分かりをいただけると思います。自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった普遍的な価値で固く結ばれた日米同盟は、長年にわたる日米双方の努力によって、かつてなく盤石になっていますが、我々を取り巻く情勢は、日米双方に一層の努力を求めているものです。
 私自身も、これまで、北朝鮮の核・ミサイル問題や拉致問題、沖縄の基地問題などに注力する中で、日米同盟の重要性を肌で感じ、その強化に取り組んできました。
 この日米同盟を更なる高みに引き上げていく、これは、日本外交の舵取りという重要な役目を担う、私の責務であると考えています。
 先程行った日米首脳会談では、こうした同盟の確固たる絆を、バイデン大統領と改めて確認しました。そして、先ほど申し上げたような地域の様々な戦略的課題に、同盟国として、団結して対応すべく、共に努力していくことができる、そうした手応えを感じることができる会談でした。
 私は、現在新たに生じつつある課題にも的確に対応できる、機能する日米同盟とは、そういうことであると考えています。
 新型コロナ対策、グリーン成長、イノベーション・科学技術、経済安全保障の確保といった課題においても、日米の協力をしっかりと前に進めていきたいと思います。

3 ポストコロナの国際秩序づくり

 日本の外交戦略においては、強力な日米同盟と同時に、多国間主義アプローチを極めて重視しています。コロナ危機によって、国際社会の連帯が一層求められる中、多国間の協調と連携を通じて、国際社会が直面する課題の解決を図る、そうした「団結した世界」の実現を目指します。そして、ポストコロナの秩序づくりを主導していきたいと思います。

(1)自由で開かれたインド太平洋
 日本がそのような多国間主義アプローチを推進していく上で、常に念頭に置いているのは、「力」ではなく、「法の支配に基づく自由で開かれた秩序」こそが、地域、そして世界に、平和と繁栄をもたらすものであるという、こうした確信であります。
 そして、いまや、こうした我が国の考え方については、米国、豪州、インド、アセアン、欧州といった国々を始め、国際社会において、幅広い支持を得るようになりました。
 本日の会談で、バイデン大統領、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた力強いコミットメントを再び強調されました。
 また、先月初めて開催された、いわゆるクワッドの首脳会議においても、普遍的価値を共有する日米豪印のリーダーが、声をそろえて、「法の支配に基づく自由で開かれた秩序」への力強い決意を発信しました。アセアンや欧州も、インド太平洋地域における自由、開放性の維持に戦略的な関心を高めていることを心強く思います。今こそ、こうした我々のビジョンを、実際の行動や協力を通じて、具体化していかなくてはなりません。
 日本は、海洋の安全の確保、連結性の向上に向け、海洋安全保障に関する法執行能力構築支援や、港湾や電力網などの質の高いインフラ支援など、具体的なプロジェクトを積極的に実施してきています。

(2)自由で公正な経済圏の拡大
 日本が推進する、自由で公正な経済圏の拡大も、そうした具体的な取組の一環です。日本は、日EU・EPA、日英EPA、RCEPなど、一貫して自由貿易の旗振り役を務めてきました。
 米国が離脱した後のTPPについても、残された11か国で発効させるべく主導権を発揮してきました。本年は、議長国として、TPPの着実な実施、そして拡大に向け、引き続き、議論を主導してまいります。
 さらに、WTO改革に引き続き積極的に取り組むとともに、日本が共同議長国を務めるWTO電子商取引交渉などを通じて、「信頼性のある自由なデータ流通」の実現に、リーダーシップを発揮していきます。
 このような具体的な取組を積み重ね、「自由で開かれたインド太平洋」を戦略的に、推進していく決意です。

(3)民主主義、人権
 最後に、新型コロナの感染拡大には、民主主義よりも、権威主義の方が、うまく対処できるのではないか。今日、そのように考える傾向が見られる中において、民主主義の大切さについて、触れたいと思います。
 民主的な社会とは、国民一人ひとりの可能性を最大限引き出すことができる、個人の自由と創意工夫、そして、多様性や基本的人権が尊重される社会です。
 こうした社会こそが、国民一人ひとりに、幸福と豊かさをもたらし、強靭な社会を作り上げる基礎となるものであると考えています。こうした考えから、自由、基本的人権、法の支配が、いかなる国・地域においても保障されるよう、日本は、引き続き、国際的な議論や取組に、積極的に貢献をしていく決意です。
 私の政権の最重要課題であり、重大な人権問題である拉致問題については、先ほどの首脳会談でも、バイデン大統領から、即時解決に向けたコミットメントが改めて示されました。米国を含む関係国と緊密に連携しながら、全ての拉致被害者の方の一日も早い帰国実現に向けて、全力で取り組んでいきます。私自身、条件をつけずにキム・ジョンウン委員長と会う用意があります。拉致問題の解決、そして、日朝間の実りある関係の樹立に向けて、自ら先頭に立って行動していく決意です。
 ミャンマー、新疆(しんきょう)ウイグル自治区、香港などの人権状況についても、日本は、しっかりと声を上げつつ、国際社会と連携して、具体的な行動を求めてきていきます。
 民主主義の強靭さを信じる日本が力強いリーダーシップを発揮し、考え方を共有する国々と、希望に満ちた未来を共に築き上げていきたいと思います。
 ありがとうございました。

 

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