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令和7年度外務省入省式における岩屋外務大臣挨拶


外務大臣の岩屋毅です。皆さん、入省、誠におめでとうございます。本日、希望と志に満ちあふれた皆さんを、こうして外務省にお迎えすることができ、大変うれしく思っております。外務省はこの界隈では、桜の名所なんですね。今日はあいにく雨が降っておりますけれども、満開の桜も皆さんの入省を心から愛でていると思います。
私自身も、今からちょうど半年前、昨年の10月1日に外務大臣に就任をいたしました。その意味では、私もまだ新参者でございます。それ以来、積極的に海外を訪問してまいりました。あっという間に距離にすると、既に地球を約5周分周ったことになります。最初の出張ではウクライナを訪問しました。戦争の傷跡を目の当たりにいたしました。外交は国家百年の命運を決する。外交の失敗は国を誤ることにつながりかねない。そのことに思いを致しました。
私は大分県の出身です。大分県からは二人目の外務大臣であります。先輩は重光葵元外務大臣。外交官としても、外務大臣としても、日本の外交に大きな足跡を残された大先達でいらっしゃいます。しかし、その重光葵外務大臣は、1945年、日本が戦争に負けたときに、皆さんもご承知のあのミズーリ号の艦上で、我が国の歴史が始まって以来の降伏文書にサインをした外務大臣でもあります。その日の朝に重光大臣が詠んだ歌があります。「願わくは御国の末の栄え行き、我が名さげすむ人の多きを」という歌をその朝、重光大臣は詠まれました。歴史上始まって以来、降伏文書にサインをした自分の名前はいついつまでも蔑んでもらっても構わない、だけどこの敗戦から立ち上がって、日本の国が栄え行ってほしいという思いを込めた歌であります。私はこの歌を常に忘れないように、命がけで外交に当たっていかなければならないと、いつも自分に言い聞かせているところでございます。外務大臣室には重光先生の写真を飾らせていただいて、いつも自らを戒めているところでございます。
ロシアによるウクライナ侵略は、もう4年目になりますけれども、国際秩序を大きく揺るがしています。また、国際社会の分断と対立が深まってきています。一方、我が国を取り巻く安全保障環境も戦後最も厳しいといっても良い状況に置かれています。こうした中で、日本の平和と繁栄を守り、世界の平和、そして繁栄に貢献していく。外交の果たすべき役割は、これまでになく重要になってきていると思います。
皆さんは、この難しい時局において、しかしだからこそやりがいのあるこのときに、外務省に入省されました。国際社会を分断と対立から協調と融和に導いていく、それが日本外交の役割です。是非これから皆さんと力を合わせて、その役割を果たしていきたいという風に思っております。難しく考えすぎる必要はありません。外交をやるのは人間です。外交において最も大切なのは、人と人との関係だからです。人様の信用と信頼を得るにはどうしたら良いか。誠心誠意、それ以外にありません。
かつて勝海舟という人がいましたよね。西郷さんと江戸城の無血開城をやった方です。幕末、フランスが幕府側に付いて、イギリスが薩長に付いたと言われていますが、勝さんはアメリカにも渡っていました。フランスとも対話をし、いよいよ江戸幕府が終わらんとするときには、イギリスとも交渉をしています。その勝さんが言い残している、外交の要諦は誠心誠意、これ以外に無いんだということを。是非、誠を尽くして、これから皆さんが会う人々、それから皆さんが付き合っていく国々との信頼関係をしっかりと構築していっていただきたいと思います。これから皆さんは、様々な国に赴任して、そこで多くの人たち、また様々な人たちと出会うことになります。その一つ一つの出会いを大切にしてください。そして丁寧に信頼関係を構築していただけたらなと思います。それがひいては日本の国益に結びついていきます。
したがって、皆さんには、各国の言葉、勿論これは習得していただかなければなりませんが、その国の文化や歴史についてもよく学んでいただきたいと思います。幅広い教養と知識を身に付けていただきたいと思います。そして、お互いを理解し、違うからといって対立するのではなく、最後は大きく包み込む。その包摂の精神を是非持っていただきたい。それが日本外交をより強く、豊かなものにしていくと私は確信しております。
外務省には、これまで外交とは一見無縁とも思えることを勉強されてきた方がいます。社会人経験者の採用も増えてきています。多様な能力や経験を有する方々がどんどんと増えてきていると感じております。また、他省庁と比べても女性の活躍が顕著な職場でもあります。本日入省される皆さんも、約半数は女性の方々であると承知をしております。外務省としても、これから皆さんがやり甲斐をもって活躍できる職場環境、そして処遇の改善ということに努めていきたいと思います。国際社会が直面する課題は多様化しています。そうした中で、様々な背景を有する職員の皆さんが志を一つに力を合わせていく。そのことこそが、問題解決の鍵になると思います。そして日本外交の原動力になると確信しています。
入省後、時には困難な問題に直面することが必ずあると思います。しかし、仕事に困難は付きものです。矢でも鉄砲でも持ってこい。そういう気持ちで困難に立ち向かっていただきたいと思います。どんな時も、我が身に起こることは何一つ無駄なことはありません。その一つ一つの経験がやがて一本に繋がって、「ああ、あのとき何故こういうことが起こったのか、長いこと分からなかったけれども、今になってその意味が分かった」ということが、これから必ず出てきます。大切なことは、「follow your heart」「follow my heart」。しっかりと自分の思い、信念、志、これを大切に歩みをゆっくりと進めていっていただきたいと思います。そうすれば、一つ一つの経験がやがて一つの線につながり、必ず大きな意味を持ってくると思います。
これからの日本は、皆さんの双肩にかかっています。皆さんが外務省において充実した日々を過ごされること、そして皆さんの参画を得て日本外交が更に充実したものになることを心から祈念し、私の歓迎のご挨拶にさせていただきます。共に頑張ってまいりましょう。おめでとうございました。