公邸料理人
公邸料理人の活動紹介
「日本外交の最前線を支える公邸料理人」
(在トルコ日本国大使館・三浦英樹公邸料理人)
我がトルコ大使館の公邸料理人、三浦英樹料理人のトルコ滞在歴は、2022年8月現在で6年半に亘ります。大使館の外交官の誰よりもトルコを知る人物、と言っては言い過ぎでしょうか、ともかく、三浦料理人は料理の分野で外交活動の一翼を担っていると言っても過言ではありません。
調理学校を卒業後、就職した都内のホテルで包丁技術や盛り付けの基礎を、レストランが招へいしたアジア各国料理人からはその国の伝統料理を、そして研修先のドイツでは、言語と外国の人と料理する楽しさを、と貪欲に学び続ける三浦シェフ。彼が公邸料理人になったきっかけの1つは、当時流行っていた漫画『大使閣下の料理人』の影響だったとか。ホテルの調理部長から公邸料理人のお話が三浦料理人にあった際、「「自分の目で食材を見て、触って、切って、一から料理をしてみたい」という思いで即決しました」という理由を聞き、勉強熱心な三浦料理人らしいな、と納得したのを覚えています。
三浦料理人にとりトルコはスイスのジュネーブ、アメリカのワシントンD.C.、オマーンのマスカット、に次いで四か国目の勤務地になります。ジュネーブやワシントンでは、公邸料理人は2人体制、洋食担当の三浦料理人は和食料理人の方からお寿司の握り方等を教わったそうで、その経験が現在の三浦料理人の礎となっているとのエピソードを伺い、その向学心に改めて頭が下がる思いです。
「新しい料理、食材に出会える!」と思い着任したトルコでの最初の問題は「言語」でした(実際、当地では英語を話せるトルコ人は少なく、カスタマーセンターや、ホテルのレセプションでも通じない事が多々あります)。それに慣れた頃の次の問題は「コロナ禍」、私も大使館活動での外交活動が思うように進まず、もどかしい想いでありました。
この状況が落ち着いてきた2022年の5月に大使館が開催したのが、当地の日本庭園を舞台にした日本茶会です。大使館の位置する首都アンカラから車で南東方向に約2時間、トルコ中央部に位置するクルシェヒル県のカマンでは、日本人考古学者の大村幸弘先生(アナトリア考古学研究所所長(三笠宮記念財団理事長))が発掘に長年携わっておられますが、そこには大変素晴らしい日本庭園も併設されています。新緑の季節に日本庭園でお茶会、この素晴らしい企画の主賓が、エミネ・エルドアン大統領夫人でした。
お茶と一緒に召し上がって頂くのはやはり和菓子、ここで我が三浦料理人の出番です。訪日経験はもちろんのこと、日本茶セレモニーもご存じのファーストレディーですが、和菓子のお好みまで確認するのは至難の業です。さらに、公邸で料理の腕を振るっている三浦料理人にとって、屋外でお食事を提供するというのは、衛生面はもちろん、調理スペース、保管場所、といった面の問題も発生しました。加えて、5月ともなると、ここアナトリア半島は一気に日差しが強く、そして気温も高くなります。食材の状態が変わらぬように、保冷剤をしっかり使い、日に当たらないように注意し、移動中の車の振動も、食材には良く無いので、入れ物を二重にし・・・こういった工夫を涼しい顔で行う三浦料理人。各国を渡り歩いてきた公邸料理人の経験が存分に発揮された瞬間でした。
イベント当日も、持ち込みをした包丁がゲートで半分回収され、さらに警備が三浦料理人に1人張り付いて、調理中も入念にチェック、エミネ夫人のドクターによる食材の徴収(おそらく毒見)といったこうした入念な警備を目の当たりにし、公邸料理人も要人に関わる仕事をしているのだ、と改めて緊張したようです。
なお、大統領夫人にお出しした和菓子(イチゴの白玉)はゲストにも大好評で、皆様に、日本が誇る文化の一つが「食」であることを改めて印象付けました。大統領夫人も大変気に入られ、「大変美味しかった、自身の公邸料理人にも作り方を教えて欲しい。」と何度も直接お願いされていたとのこと、いつになく緊張した面持ちで三浦料理人が返礼していたのも大変印象深いイベントとなりました。
その後、公邸にエミネ大統領夫人のスタッフを招いて「日本食」でおもてなししましたが、皆様、見た目にも美しい和食に感嘆の声を上げていました。また、先日は、エミネ夫人のご要望通り、遂に三浦料理人のお料理教室が先日トルコ大統領府で開かれました。日本庭園でのレセプションで大好評であった白玉に加え、寿司や焼きそばのデモンストレーションは大統領府の料理人をもうならせるものだったようです。三浦料理人は、一流の料理人というだけでなく、在トルコ日本大使館になくてはならない重要な外交官の一人でもあると強く思う今日この頃です。
在トルコ日本国大使館
特命全権大使 鈴木 量博