公邸料理人
公邸料理人の活動紹介
「ザ・公邸料理人!」
(在コスタリカ共和国日本国大使館・安藤徹生公邸料理人)
公邸料理人安藤徹生(あんどうてつお)さんは、「食い倒れ」の街大阪出身の48歳、自営の小規模高級イタリア料理店を一旦閉めて赴任しました。若い頃は、フランス料理、韓国料理等違う特色の調理場でも腕を磨き、日本料理の学習も怠りなく、ワイン・ソムリエの全国コンクールで上位入賞の経歴など加えれば、略歴はお伝えできるかと思います。
さて、公邸料理の軸は、賓客に食、わけても和食文化を通じて「日本」を味わって頂くこと、その際、異なる風土で育った人々の好みとの調和により、自ずと身近に親しんで貰う大切さは申すまでもありません。そうした「オモテナシ」魂の発露から進んで、外交課題をも意識した交歓への環境作りに至れれば、さらに祝福されます。
満足を呼べる質と量を和食で供しつつ、賓客馴染みの食要素をも交えるきめ細かな創意工夫とともに、その時々の会食の目的や背景も考慮しながらの献立が理想、安藤料理人に本領を発揮して頂くのは、この点です。
具体例を挙げましょう。
環境大国としてのコスタリカの世界的な名声と発言力は、よく知られています。こんなお膳立てにすることがあります。
前菜の主題はEncuentro(出会い)。
八寸のように一口ずつの日本食数種、例えば、巻き寿司、出汁巻卵、天麩羅、枝豆豆腐、鳥照焼、お浸し、ひじき、きんぴら、ポテトサラダ等々、伝統の御食事処から近年の家庭までを念頭に日本の味に出会って頂く端緒を構成。
主菜の第一、魚料理はOceano(大洋)が主題。
太平洋と大西洋(カリブ海)に面するコスタリカが、フランスとの国連世界海洋会議の共催を再来年に控えることなども踏まえつつ、魚種や和風ソースも含めて毎回工夫。
第二の主菜の肉料理はMontaña(山)。
国土の高低差の巧みな利用等で再生可能エネルギーによる国内電力供給99%を達成しながら中米初のOECD加盟を一昨年果たした当国に敬意を表し、山野の菜果の彩りを添えて。 デザートのAmistad(友情)は、例えば抹茶チョコケーキと苺大福。
両国の特産・地産使用の品を仲よく並べて友好増進への結びに。
日本と同じ火山国の地熱発電への協力を発想源に固形燃料を使った土鍋のVolcán(火山)、産学官連携の未来にも常春のコスタリカと四季の日本にも話が向かえる夜空色の皿に月見の兎饅頭の Espacio(宇宙)等々応用範囲は宏大で、(食)文化と外交の話題とを綯い交ぜに、微妙な協議や交渉が進むことしばしばです。
毎回の公邸料理に不可欠な共通理解は、接遇する多様な人々に伝えるべき和食文化の核は何か、です。例えば、今日は牛ステーキを出す、その時には? 綺麗な基本処理の後、日本特有の「晒し」に2日程包み寝かせ、低温調理の上、炙り仕上げていく、味で唸らせた上でその濃やかな過程を料理人氏が説明する、和様の調理方式への感動から日本の行動様式の話題に容易に発展していきます。
なお、安藤料理人は、世界交流の最前線である米国の国際都市へも出てビーガン等の自主研修をする等最新知識・技術の習得に努め、食卓によく生かしています。
安藤料理人は、何故公邸料理人に手を挙げられたのでしょうか。先輩経験者達に若い頃から薦められて気になりつつも、奥様雅代さんと御子息晴太朗君とともに地元に根を張り夢中で働いて来られましたが、御子息が中学へ上がられる年齢、自らも40歳代半ばにさしかかって、時機は今、と単身で来られました。元国体(国民体育大会)のスキー選手、休日には、サイクリング、サーフィン等のアウトドア・スポーツを楽しまれ、当国の豊かな人情を糧にしながらの勤務です。(因みに、単身の大使の賄いにも栄養・運動指導等にも気を配って頂いています。)
・・毎週末には当地料理店の偵察を兼ねて食事を共にしながら、仕事を少し離れて互いに様々な話をする中で伺うお話です。
安藤料理人は、厨房を陣地に公邸職員の皆さんと常にコミュニケーションを図っています。毎日隙あらばスペイン語を教わり(仕入れでも遠出でも最早不自由なし)、日本語や和食の初歩を伝授する中で培われる“チーム公邸”の結束は、天皇誕生日の催しをはじめ各種行事でサービスの機敏さを発揮します。公邸料理の大事な隠し味です。
また、当国にはジャパン・ハウスのような施設がないため、公邸は、現有の美術品、装飾品等の総掲示換え等の策により、各界賓客への外交的観点からの文化紹介拠点化を図っていますが、呼応して会食の演出に工夫がなされます。賓客に五感全てを日本と向き合うモードに切り替えていって頂く動的な流れの中での会食の役割発揮を心がけて頂く相乗効果は、特筆に価します。
他方、安藤料理人には、公邸外でも人々に寿司作りの参加型実演等して貰います(含、地方出張)。さらに、当地で手軽に手に入る食材で挑戦し易い料理(例えば「OKONOMIYAKI」、「KUSHIKATSU」)をコンセプトに、日本文化週間の機会等も活用して、インターネットでのレシピ公開、テレビ番組出演等もお願いしています。
こうした諸活動にとって一つ大事な点は、館の他の職員の皆さんとの連携の妙です。大使や次席だけでなく、政務、経済、経済協力、広報、文化の業務班のビジョン如何は、会食の意義や質を左右します。在留邦人の思いも把握しての領事・警備班の協力、予算の確保、執行、節減等に係る官房班の支援が果たしている役割も重大です。安藤料理人は、こうした関係の中で、仕入れ段階から例えば地元の網元等との関わりも作っています。一食一食の公邸会食を含めた諸活動の力は館全体の総合力にかかることを、如実に示す各部署の職員と料理人の皆さんの仕事ぶりです。
今や当公邸料理の評判を聞きつけた各国大使や当国要路の方々から所望を頂くこと、諸外交使節による外交団支援会(旧・大使夫人会)のガラ催事での大規模な着座形式の会食担当に選ばれた4か国のシェフの一人が安藤料理人である(費用は先方持ちです。念のため。)ことも、御報告します。
公邸料理が日本外交にもたらす推進力に学ばせて頂きながら、さらに人を幸せにする外交環境作りの大切さを実感する所以です。
在コスタリカ共和国日本大使館
特命全権大使 小松親次郎