グローカル外交ネット

令和7年4月3日

外交実務研修員 新井 美貴子
(長野県から派遣)

1 はじめに

 私は2023年5月に長野県庁から外務省に派遣されました。外務省に派遣される直前にG7長野県軽井沢外務大臣会合に関する業務を担当した際に、長野県内で国際会議が開催されることを嬉しく思うと同時に、外務省ではどのように大規模行事の準備を進めているのか興味を持ちました。また、海外居住や留学経験が無い中で当業務に携わっていたので、県の国際業務により貢献できるように経験を積みたいと思っていたところ、在外赴任を含む合計約4年間の外務省出向という貴重な機会をいただきました。今回、本省での1年11ヶ月の間に携わった業務に関して御紹介させていただきます。

2 国際保健戦略官室での業務

ユニットエイド理事会の集合写真
HIV予防のためのモバイルクリニックの視察(南アフリカ・ヨハネスブルグ)

 2023年5月から2025年1月までは国際協力局地球規模課題審議官組織の国際保健戦略官室で勤務しました。日本政府はグローバルヘルス・アーキテクチャー(GHA:国際保健の体制)の構築に貢献し、パンデミックを含む公衆衛生危機に対する予防、備え及び対応を強化すること、また、より強靱、より公平、かつより持続可能なユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を達成することを目標としています。外務省は国際保健を外交の柱の一つとしており、国際保健戦略官室では保健分野の国際機関等を通じた支援の実施などを行っています。そんな中で、私は「ユニットエイド(低中所得国において高品質な医薬品を手頃な価格で迅速に導入することを目的として設立されたWHO傘下の官民パートナーシップ)」を担当しました。1つの機関を担当し、ユニットエイド事務局長等と外務省幹部の面会等の対応や予算関係業務などの一連の業務を経験したことで、多国間の枠組みを通じた国際協力の一端を学ぶことができました。
 なかでも印象的な業務は、日本が暫定理事を務める理事会対応です。理事会当日までに各種資料や日程表の作成、移動手段の調整やバイ会談の設定等を行った上で、審議官(参事官)に随行させていただき、ブラジルのブラジリア、スイスのジュネーブ、南アフリカのヨハネスブルグで開催された理事会に出席しました。時差があり体調管理が難しい環境下で多くのスケジュールをこなしつつ、英語やフランス語で海外からの参加者との友好的な関係を深めていらっしゃる審議官(参事官)から直接学ぶことのできる貴重な機会を大変ありがたく思いました。出張を通じて、外務省で働く際には知力、語学力、体力、事務処理能力に加え、コミュニケーション能力や人間力などあらゆる力が高いレベルで求められていると実感しました。

 理事会にはフランスやスペインをはじめ様々な国の方の参加があり、会合の合間や現地の診療所等への視察の際に、マラウイ、カメルーン、チリ、ノルウェーなど初めて会う国の方ともお話できたのも良い経験でした。冬季スポーツが盛んでないはずのナミビアやケニアの方から「冬季五輪の開催地だから長野を知っている」と伺い、大きな国際イベントを地方都市がホストする意義を改めて感じたり、地域で長年公衆衛生活動に取り組むジンバブエやガーナの方から「自分が地域で得た経験を国レベル、そしてグローバルなレベルにも発信するため理事会に参加している」という熱い思いを伺って長野から遠く離れた国でも地元の発展のために尽力している方がいることに刺激をいただいたりしました。参加者側の立場で国際的な会議に参加するのは初めてでしたが、日本の会議の進め方との違いやリトリートの位置づけなどを身をもって感じることができ、今後長野県内で国際会議を開催する機会があれば活用できる経験になりました。
 国際保健戦略官室では、上記のユニットエイド関係業務以外にも、グローバルヘルス戦略推進協議会等の各種会議への対応、総務業務や国会対応、TICAD関係閣僚会合や国連総会関連業務など幅広い業務に携わらせていただき、国際保健や外務省の仕事への理解を深めることができました。これまで保健や国際協力への関わりが全く無く、なにもかも初めての状況で非常に不安なスタートでしたが、医師や看護師としての職務経験、青年海外協力隊等の活動経験、語学力など様々な強みをもつ国際保健戦略官室の皆様が多忙にもかかわらずいつでも支えてくださったおかげで、業務に携わることができました。多様なバックグラウンドの皆様から毎日学びながら、県庁とは異なる環境で、人生初の海外出張も含め新しい業務に取り組めたことは自信に繫がり、国際保健戦略官室での勤務が自分の財産になったと感じます。

3 地方連携推進室での業務

外務大臣及び長野県知事共催レセプションにおける、岩屋外務大臣、阿部長野県知事及び長野県PRキャラクターアルクマの集合写真

 2025年2月から3月までは大臣官房総務課地方連携推進室で勤務し、外務大臣及び長野県知事共催レセプション「山岳高原リゾートNAGANO 美しい山岳と清らかな水」の準備に主に携わりました。外務省は、地方自治体と連携しながら、飯倉公館や在外公館といった施設を活用し、日本産酒類や農産物の販路拡大など地方創生に向けて様々な取組を進めており、飯倉公館で開催した本レセプションもそれらの取組の一つです。当日は駐日外交団他約210名の参加があり、長野県の観光、食品、伝統工芸品、健康長寿等に関する取組の紹介や蕎麦打ちの実演及び戸隠流忍者のパフォーマンスを通じて、長野県の多様な魅力をPRしました。本レセプションに向けて、地方連携推進室の皆様が長野県庁等と協働で細やかに準備を進め、当日も一丸となり力を尽くして業務にあたっている姿に、長野県出身者として心動かされ感謝の思いでいっぱいでした。地方連携推進室での勤務を通じて、地方の魅力を発信するための外務省の取組を学ぶことができたので、出向元に戻った際に活かしたいと思います。

4 おわりに

 本省での約2年間、多くの方との良い出会いがあり、日々学びを得ることができました。このような充実した時間を過ごすことができたのは、国際保健戦略官室や地方連携推進室をはじめとした外務省の皆様、出向の機会をいただき出向中も御支援くださった長野県庁の皆様、他の自治体からの出向者(外交実務研修員)の皆様、その他お世話になった全ての皆様のおかげです。心から感謝申し上げます。
 今後は在外公館での勤務を予定しています。訪問したことのない国での初めての海外勤務は新たなチャレンジですが、本省での学びを活かし、より良い成果を出せるよう精一杯取り組みます。

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