グローカル外交ネット

令和7年3月19日

外交実務研修員 安江 俊二
(岐阜県から派遣)

1 はじめに

 私は、2023年4月に岐阜県から外務省へ派遣され、国際文化協力室で勤務しています。縁あって外交実務研修員として外務省で勤務する機会をいただきましたが、これまで国際関係業務や留学経験等もなく、ましてや、岐阜県の中でも田舎の出身で国際分野とは無縁の生活を送ってきた私にとって、日本の外交を担う外務省は未知の存在そのもので大きな不安を抱えたまま着任した当時のことが思い出されます。目まぐるしい外務省での勤務も早2年が経とうとし、日々学びの多い中で、このたび本寄稿の機会をいただきましたので、これまで携わった業務やそこから感じたことを紹介させていただきます。

2 国際文化協力室での業務

 外務省国際文化協力室は、国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)や国連大学などの国際機関を通じた多国間協力を所管しており、文化遺産保護や教育の普及などの分野で積極的な国際貢献と日本への理解促進のための取組を行っています。
 私はその中で、世界遺産に関する業務を担当し、特に、昨年7月に世界遺産に登録された「佐渡島(さど)の金山」(以下、「佐渡」という。)に関する業務に携わっていました。
 世界遺産に登録されるまでには、推薦書の提出後、世界遺産委員会の諮問機関イコモス(国際記念物遺跡会議)による現地調査等の審査を経て、イコモスからの勧告が出されます。最終的には、この勧告に基づき、例年夏頃開催の世界遺産委員会で登録の可否が審議されます。勧告結果が重要になることはもちろん、世界遺産委員会を構成する世界遺産委員国に、世界遺産としてふさわしい文化的価値を評価されることが非常に重要になってきます。

(1)地方視察ツアー(新潟県・佐渡市)

 新潟県・佐渡市や関係省庁等とも連携しつつ、「佐渡」の文化的価値の国際的な理解促進のため、様々な取組を行ってきました。その中の一つに、外務省と新潟県・佐渡市との共催で実施した佐渡市への「地方視察ツアー」があります。
 当ツアーは、後述する地方連携推進室が、地方自治体等との共催により、駐日外交団を対象に、地方が持つ豊かな自然や文化遺産、地域が誇る産業施設等を訪れ地方の魅力を知ってもらう取組です。この機会を、「佐渡」の文化的価値の理解促進の好機ととらえ、世界遺産を所管する当室も、地方連携推進室や新潟県・佐渡市とともに、当ツアーの準備・調整等を実施しました。
 当日は、実際に佐渡市を訪れ、史跡佐渡金山等の資産や関連施設等を視察し体験してもらうことで、佐渡市の多様な魅力に加え、「佐渡」の文化的価値についても、参加者の理解が深まる非常に良い機会となったのではと思います。また、新潟県・佐渡市の皆様の世界遺産登録に向けた熱意やツアー参加者に対するあたたかい歓迎を身をもって感じ、私自身微力ながら登録実現に携わる者として、気持ちが引き締まりました。

(2)第46回世界遺産委員会での「佐渡島の金山」の登録

「佐渡」のシンボル:道遊の割戸
第46回世界遺産委員会

 2024年7月にインドのニューデリーで開催された第46回世界遺産委員会には、私も日本政府代表団の一員として出張する機会を得て、現地では、本国と現地間の連絡・調整等を登録の直前まで実施しました。イコモス勧告での指摘事項にも全て対応したうえで臨んだ委員会は、登録の瞬間まで非常に緊張感のある気の抜けない状況でしたが、審議の結果、世界遺産委員会の全委員国によるコンセンサスで世界遺産への登録が決定しました。
 私が「佐渡」に関わったのは1年半ほどと、関係者の皆様に比べれば非常に短期間ではありますが、日本の遺産が人類全体の遺産として評価され、登録されたことに非常に嬉しく思うとともに大きな達成感を感じました。また、登録の瞬間には、日本代表団の席に列が出来るほど多くの国の代表団が駆けつけ祝福する様子が印象的でした。

 他にも「佐渡」関連の業務では本当に多くのことがあり、とてもここで全てを書き尽くすことはできませんが、世界遺産登録実現を目指す地元関係者の方々を中心とした熱い想いや、非常に難しい外交的やり取り、資産の価値を理解してもらうための数々の取組等、想像を遙かに超える関係者の尽力の上で登録がなされていることを強く実感しました。また、自治体出身者として、地方の想いが形になるまでの過程を、外務省という、自治体とは全く異なる視点での立場から実務を通じて学ぶことができ、非常に貴重な経験となりました。

3 地方連携推進室での業務

外務大臣及び群馬県知事共催レセプション

 本省での勤務中、短期間ではありますが、地方連携推進室で勤務する機会をいただきました。外務省は、外交を推進していく上で、地方自治体を重要なパートナーと位置づけ、その国際的取組を支援するとともに、オールジャパンでの総合的外交力の強化を目指して地方との連携を推進しています。
 同室での勤務中、特に印象的だった業務が、「外務大臣及び群馬県知事共催レセプション」です。本レセプションは、外務大臣と地方自治体の首長との共催で、駐日外交団等を飯倉公館に招き、地方の多様な魅力を国内外に発信する事業で、レセプションに向けた調整等に携わることが出来ました。当日は、駐日外交団等が一堂に会する貴重な機会を活用して、群馬県の多様な魅力を発信する様子が印象的でした。また、意義あるレセプションとすべく、準備段階から奔走される皆様の姿に大いに刺激を受けるとともに、他自治体がどのように魅力をPRしているのかを学ぶことができとても貴重な機会となりました。
 私も岐阜県庁の国際関係の部署に戻った際には、外務省の方々とも連携しつつ、岐阜県の国際的取組に少しでも貢献ができればと思います。

4 おわりに

 外務省での物事が決まっていくスピードの早さや取り扱う業務のスケールの大きさ等に圧倒されながらの毎日でしたが、日々新たに経験することが多く、非常に充実した経験をさせていただきました。また、日本の国益に直結する外交の現場で、大変な業務でありながらも一人一人が考えを持ち、責任感を持って業務をやり遂げている外務省の皆様の姿は、自分が業務を行っていく上での指針にもなりました。
 正直、今でもついて行くのがやっとの部分もありますが、国際文化協力室の皆様をはじめ、全ての関係者の皆様からの温かいご指導・ご支援のおかげでこれまでやってくることができました。改めて深く感謝申し上げます。また、このような刺激溢れる貴重な機会を与えてくださった外務省及び岐阜県庁の皆様に改めてお礼申し上げます。
 来年度からは2年間の在外勤務が待っています。不安も大きいですが、この貴重な機会を大切に、これまで経験したことを糧にして日々精進して参りたいと思います。

グローカル外交ネットへ戻る