グローカル外交ネット
令和6年度 地方連携フォーラム
地方連携推進室
令和6年12月3日、「令和6年度地方連携フォーラム」をウェビナー形式で開催しました。本フォーラムは、地方自治体の国際的取組を支援する目的で、地域レベルの国際交流活動に関する外交政策等や最近の国際情勢等に関する説明を地方自治体の実務担当者等を対象に行うものであり、平成20年度から実施しています。今回は第1部「日・ASEAN関係」、第2部「SAKEから観光立国」、の二部構成で、それぞれ地方自治体の関心が高いテーマについて、第1部は講師による講演を、第2部は講師による講演及びパネルディスカッションを行いました。
第1部 外交政策等説明会
『日・ASEAN関係』
講師:吉田 昌弘 外務省アジア大洋州局地域政策参事官

第1部では、ASEANを含めアジア地域の総合的な外交政策を所管する外務省アジア大洋州局地域政策参事官の吉田昌弘氏が講演を行いました。
冒頭、ASEAN各国の概要やASEANの共同体としての特性をEUとの違いに言及しながら説明した上で、地政学的要衝に位置するASEANの平和と繁栄が、日本を含む東アジア地域全体の平和と繁栄に直結することを説明しました。
次に、日・ASEAN関係について、日本はASEANで最も信頼されている国であること、日本とASEANは互いに重要な貿易・投資パートナーであり、日本の成長戦略の鍵となる地域であることなどを紹介しました。
さらに、日本ASEAN友好協力50周年を機に、2023年12月には、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の実現に向けて、日ASEAN友好協力に関する共同ビジョン・ステートメント及びその実施計画を採択したこと、その実施計画において示された、(1)世代を超えた心と心のパートナー、(2)未来の経済・社会を共創パートナー、(3)平和と安定のためのパートナーという3つの柱の下で進めている取組を紹介しました。
最後に、国際機関日本アセアンセンターが、日本とASEAN諸国間の貿易、投資、観光の分野における経済関係促進と、人物交流の促進に取り組んでいることを紹介しました。
第2部 外部有識者による講演会
『SAKEから観光立国』
講師:平出 淑恵 株式会社コーポ・幸(サチ)代表取締役
パネリスト:桝田 隆一郎 株式会社桝田酒造店 代表取締役社長
パネリスト:伊藤 寿彦 株式会社ナチュラルアース 代表取締役(ソムリエ)


第2部の有識者による講演会では、はじめに、株式会社コーポ・幸(サチ)の代表取締役であり、酒サムライ事業など様々な活動を通じて日本酒の国際化に取り組む平出淑恵氏が「SAKEから観光立国」をテーマに講演しました。続いて、平出代表取締役に加え、パネリストとして、富山県富山市東岩瀬町を拠点とし吟醸酒「満寿泉」の銘柄で知られる蔵元の桝田隆一郎・株式会社桝田酒造店代表取締役社長とIWC((International Wine Challenge)SAKE部門の審査員も務めるソムリエの伊藤寿彦・株式会社ナチュラルアース代表取締役を交えてパネルディスカッションを行いました。
冒頭の平出講師による講演では、日本酒には「歴史」「優れた酒造技術」「伝統」「100年以上の歴史を有する蔵元という存在」といった日本の魅力が詰まっていることを紹介しました。また、日本酒がワインのように世界で普及するためには、ワインの啓蒙活動である、(1)体系的な教育プログラムによる専門家の育成、(2)専門家によるコンペティションによる品質の良い銘柄の情報発信、(3)業界と消費者へのプロモーション活動の3ステップが重要だと考えて取り組みを始めたことを紹介しました。また、実際に、ワイン教育の本拠地ロンドンでの有志蔵元を集めての日本酒講座の実施や、世界最大のワインコンクールIWC(International Wine Challenge)における日本酒を対象とするSAKE部門の創設、そして2006年から2024年までに18か国105名の日本酒の魅力を広く世界に広める「酒サムライ」を輩出するなど、日本酒を世界に広める活動経験を紹介しました。また、官民のリーダーに求められるのは、世界に向けて誇らしく日本酒を語る姿であり、自治体関係者が先頭に立って、海外から地方への訪問者に対して愛情をもって地元の酒蔵を語ることを期待しているとの話もありました。
続いてのパネルディスカッションでは、桝田代表取締役社長から、日本酒や食を通じて拠点とする富山市東岩瀬町をスペインのサンセバスチャンのような食の町にするまちづくりに貢献してきたことを紹介し、必ずしも特筆すべき歴史や建造物等を持たない町であっても同様の取組はできるとして、本フォーラムに参加した自治体関係者に対して地元の意欲を持った蔵元と深く連携し、地域全体で売り込んでいくことが重要であるといった話がありました。また、伊藤代表取締役からは、地域の労働人材の確保を課題に挙げつつ、地域の外に住む人たちの視点を活かすことが重要であり、例えば地域の美味しい水といったものも首都圏から見れば憧れとも言える特別な要素になり得るとの指摘がありました。
さらに、第2部終盤における質疑応答の場では、蔵元への支援など自治体の役割に係る質問に対し、桝田代表取締役社長から、海外で評価されるためには、日本酒を買ってくれる海外のバイヤーを訪ねて回って魅力をアピールするなどして、関係を構築することが重要である、中小規模の蔵元にとってはハードルが高いというケースでは、行政として、地域を背負って海外に売り込んでいける人材を育成することも考えるべきとの示唆がありました。第2部の締めくくりとして、平出講師は、日本酒の世界への発信には自治体と蔵元との協力が不可欠であることを強調されました。
実施後、参加者からは、「他の情報源からでは分からないASEANをめぐる現況を知ることができ、今後の自らの情報収集や事業の検討に役に立った」「パネリストの皆さんの発言の中で、全国どの地域でも行うことができるという発言がとても印象的で、自分のこととして考えることができた」「日本酒の価値について、自治体職員がもっと知ろうとする必要があること、その価値を世界に発信するために、情熱をもって継続する必要であることなど、あらためて認識する機会となった」「地域に酒蔵が多数あるが、今後の地域振興において重要な役割を担う可能性を改めて認識できたので、インバウンドのみならず、海外での販路拡大も視野に入れた取り組みを進めていきたい」といった感想が寄せられました。