グローカル外交ネット
外務省での勤務を通じて
外交実務研修員 山下 瑞貴
(奈良市から派遣)
1 はじめに
私は令和4年4月から2年間の任期で奈良市から派遣され、大臣官房総務課 地方連携推進室で勤務しています。外務省への派遣前から拝見していたこの「外交実務研修員による体験記」を遂に自身が執筆することになり、とても感慨深く思います。
私が省庁派遣に興味を持ったきっかけは、学生時代に奈良市の海外留学プロジェクトに参加した際に知り合ったプロジェクト担当課の方が、省庁へ出向されたことでした。当時はまだ学生でしたが、地方自治体と国の間に人的交流という連携や学びの機会があることを知り、今後の自身のキャリアを考える上で興味を持ちました。その後私は、海外留学経験や学生時代の奈良での学びを活かし働きたい、という思いで奈良市役所へ入庁し、1~2年目は市民課でマイナンバーカード申請・交付等の窓口対応や事務処理を担当しました。そんな中、有り難いことにご縁があり、実際に外務省で勤務する機会を得ることができました。地方連携推進室は社会人として2つ目の部署であり、外務省への登庁初日は、これまでと全く異なる世界へ飛び込むことへの緊張感と、今後の自身が体験する新たな挑戦に向けた期待感でいっぱいだったことを思い出します。
地方連携推進室に配属いただきもうすぐ満2年になりますが、業務内容はもちろんのこと、その作業の進め方や各種留意点、省員の方々の意識等に触れ、当初の想像以上に学びや発見の多い毎日を送ってきました。本寄稿では私が担当した各事業にスポットを当てながら、自身が得た学びについてご紹介いたします。私の体験記が、省庁への派遣にご関心のある皆様に届き、新たな挑戦への扉を開くための一助になれば幸いです。
2 地方連携推進室について
外務省は、外交を推進していく上で、地方自治体・団体等を重要なパートナーであると位置づけており、地方自治体の国際的取組を支援すべく平成18年8月に地方連携推進室を設置しました。「地方の魅力を世界に発信する場の提供」、「地方の国際的取組の支援」、「地方の国際交流に関する情報交換の場の提供」の3つの柱を掲げるとともに、レセプションやツアー等の多種多様な事業を展開しながら、オールジャパンでの総合的外交力の強化を目指し、地方との連携を推進しています。
同室での勤務を経験し、室の皆様が様々な業務過程において、地方自治体の海外との交流や各種魅力PRの機会にて多角的な検討を行い、その自治体が最大限の力でその機会に臨めるようご経験や知識、ノウハウをフル活用されている様子を肌で感じることができました。
3 地方連携推進室で携わった業務について
私は2年間事業班に所属し、地方の魅力を海外にPRする事業を最前線で担当する機会を複数回経験させていただきました。その業務の中でも特に印象的であり、主担当として従事した外務大臣と地方自治体首長共催レセプション、駐日外交団による地方視察ツアー、そして地方連携推進室の主管ではないものの、学びの機会が大変多かった地方を世界へプロジェクトについて記載いたします。
(1)外務大臣と地方自治体首長共催レセプション
外務省では平成26年度から、外務大臣と地方自治体首長共催レセプションを外務省飯倉公館で開催し、駐日外交団等に対して地方の魅力を発信しています。レセプションでは、主催者である外務大臣・地方自治体首長のトップセールスのもと、共催自治体が地元産品や工芸品等を題材にした各種ブースを飯倉公館内に設置して紹介します。また自治体職員と招待者が直接交流を図ったり、ステージ上での伝統的な舞や演奏等のパフォーマンスを通じて、招待者が共催自治体の多様な魅力への理解を深められる内容になっています。地方連携推進室は複数のイベント業務を主管しており自身もいくつか担当しましたが、なかでもこのレセプションは外務大臣と自治体首長のトップセールスの機会ということもあり招待者の実際の参加率も高く、また各国の駐日大使館や企業関係者等が都内で各地方の担当者と交流し、その地域の魅力を新たに知るきっかけを得られるため、招待客の満足度も高いイベントなのではないかと思います。
私は令和4年度からこのレセプションの担当として、事前の共催自治体・業者・飯倉公館との連携や省内内部での調整、当日の各方面との調整業務に携わりました。担当として様々な場面に直面しましたが、招待者だけでなく主催者側となる外務省、地方自治体にとっても有意義な開催が実現するよう、省内の方々や省外各方面のご担当の皆様が奮闘される様子を体当たりで学ぶ機会をいただけました。
事前準備に関しては外務省側担当の立場で、他府県で国際業務を最前線で牽引しておられる方々と業務を共にし、各種調整事項をもとに多くの経験を積むことができました。また各作業段階において、このレセプションが外務大臣と自治体首長の共催ということもあり、その時々の社会的な出来事もふまえつつ、省内関係各課との調整や連携、意見のすりあわせを密に行うことの必要性を認識しました。さらに、レセプション当日に発生した想定外の事態に対して急遽対応を求められた際には、全方面とすぐに連携して臨機応変かつスムーズに対応でき、事前準備段階からの各所担当との綿密なやりとりや関係性の構築の必要性についても強く実感しました。共催自治体の様々な魅力が招待客に伝わる一助となるよう、尽力させていただきました。
(2)駐日外交団による地方視察ツアー

地方連携推進室では、地方自治体等との共催により、駐日外交団を対象に、地方が持つ豊かな自然や文化遺産、地域が誇る産業施設等を訪れる視察ツアーを実施しています。1泊2日等の濃密な日程で開催していることもあり参加外交団の満足度も高いですが、様々な国出身の方に対して直接その地域の魅力を紹介できるため、主催者側の地方連携推進室・地方自治体にとっても絶好の機会ではと思います。
私は令和4年度からこの駐日外交団による地方視察ツアーを複数回担当しました。具体的にはツアー開催に向けての共催自治体との事前調整・連携や省内内部との調整、駐日外交団への連絡調整、当日のツアー同行・調整業務に携わりました。着任当初、2週間後の4月中旬にツアー開催を予定していると伺い、今後担当するにあたり実際に流れを学びたく思いツアー本番に同行した時のことを思い出します。当日は共催自治体が地方連携推進室と密に連携してツアーの準備をされ、魅力PRや今後の海外諸国との関係性構築のため最大限の力を発揮されていました。また担当されていた地方連携推進室の上司が事前・当日双方で参加外交団のケアや共催自治体との調整を迅速かつ丁寧にこなされており、その様子は自身のその後のツアー等業務においても行動の指針となりました。
ツアーを担当し感じた部分は多いですが、その中でも特に印象に残った気づきの点をご紹介します。まず、外務省が地方の魅力を紹介するツアーを地方自治体と共催することの意義です。地方連携推進室は、ツアー業務においては各地方の魅力をただ紹介するだけでなく、事後に参加国と地方自治体間の交流や連携の可能性につながるよう視察内容を調整することにも焦点を当てています。実際に駐日大使をはじめとする参加外交団がツアーを通して地方の魅力を体験しそれを本国へ伝えてくださることで、地方自治体の各種国際展開実現に向け、地方産品の海外販路の拡大や将来の地方へのインバウンド促進、今後の地域間交流の継続・促進等多くの可能性を見込むことができるのではと思います。担当としてこれを念頭に共催自治体とも検討し、各調整過程においてはその地方自治体の魅力を最大限引き出し、各ツアー行程に収められるよう努めました。また、駐日外交団の日本の各地方への関心の高さについても体感しました。参加外交団は視察での学びを通じて常に各所との新たな関係性の構築や連携の可能性を探っており、各訪問先では積極的に質疑応答を望まれ、意見交換をされます。外務省事務方として参加外交団と接する機会もあり、お話した内容は今後に活かせる部分が大変多く勉強になりました。奈良市からの出向者と伝えると奈良について興味がある、と熱心に話を聞いてくださる方もおられ、まさに海外の外交官が日本の各地方へ興味を抱いている様子や興味のある分野を知る機会となりました。
令和6年1月には大阪・関西万博を見据えた関西の魅力発信の意味合いも含め、関西広域連合との共催で奈良県・大阪府堺市を紹介するツアーを担当しました。偶然ではありましたが、自身の最後の担当ツアーで慣れ親しんだ地元の魅力を駐日外交団にPRできる貴重な機会を得られ光栄でした。地方の更なる発展に資するよう、ツアー業務経験をもとに今後も地元の良さを海外の方に紹介し、魅力を広めていきたいと改めて感じました。
(3)地方を世界へ

地方を世界へプロジェクトは、外務大臣及び外務副大臣が駐日外交団と共に日本の地方を訪れる事業で、駐日外交団に地方の魅力を体験していただき、また、地域の方々との対話を通じて地方への理解を深めていただくことにより、駐日外交団から自国民への発信を促し、インバウンド需要を喚起すること及び外務大臣と地域の方々との対話を通じて地域の更なる活性化を図ることを目的としたものです。この事業は、訪問先の地方自治体等と調整し、複数の関係課室が緊密に連携した上で実施したものですが、その中で地方連携推進室は駐日外交団周りの業務を担当しました。私は令和5年2月の岡山県訪問、同年6月の秋田県訪問、同年8月の長野県訪問にて従事し、主に事前の駐日大使館への参加打診や事前の連絡調整、当日の駐日大使のサポートを行いました。各訪問先での滞在時間が限られる中で駐日大使の迅速かつ丁寧な誘導業務が望まれたため、当日複数の駐日大使がスムーズに動けるよう、事前の関係課室や当日一緒に動く業者、通訳等との綿密な調整を心掛けました。各視察先で駐日大使が満足されている姿を見て達成感を感じるとともに、今後も様々な場面で求められる期待に応えたいとの思いを強く持ちました。
このプロジェクトで地方連携推進室の皆様に加えて省内の関係各課の皆様ともご一緒できたことは、自身の業務における新たな発見にもつながりました。臨機応変な対応が常に求められる場でしたが、皆様の現場での迅速かつ丁寧な調整過程や動きを目の当たりにし大変刺激を受け、大きな学びを得ました。また出向者として、外務省内外にさらに人脈を拡大するうえでも貴重な機会となりました。特に、参加された駐日大使の中に前段で紹介した駐日外交団による地方視察ツアーに参加くださった方がおられツアー以降久々に再会できたことにお喜びいただき、事務方にも関わらず私を覚えてくださっていたこと、かつツアーに関する思い出のお言葉も頂戴し、大変光栄に思いました。
4 終わりに

私の外務省での勤務はあと1か月ほどで幕を閉じます。この濃密な2年の間には、様々な方との貴重な出会いや多くのかけがえのない学びがありました。このような大切な経験をする機会をくださった外務省、奈良市、派遣期間中に私とご一緒くださったすべての関係者の皆様に、この場をお借りして深く御礼申し上げます。特に地方連携推進室の皆様にはいつも丁寧にご指導ご鞭撻いただき、お忙しい時でも優しくご支援くださったことに改めて感謝申し上げます。
また私にとって、同時期に地方自治体から派遣されていた外交実務研修員の皆様の存在は大変大きかったです。他地域の持つ様々な魅力の相互シェアができるだけではなく、困難な状況に直面した際には同志として支え合いながら常に前向きに乗り越えることができました。私自身、年次が浅く至らない部分が多かったにも関わらず、温かく受け入れてくださった外交実務研修員の皆様にも感謝の言葉をお伝えしたいです。
今後どのような業務に携わるかについては未定ですが、これからも私らしく明るく前向きに、外務省で培った経験やこの2年間で出会った皆様との出会いを大切にしながら、様々な分野で精進できればと思います。