グローカル外交ネット

令和5年9月28日

外交実務研修員 前田 蘭
(鹿児島県から派遣)

1 はじめに

長目の浜(甑島)

 さて、皆さんは甑島という島をご存知でしょうか。ご存知なはずがないと思いますが、甑島(こしきしま)とは私が生まれた島のことです。高校なんてありませんし、当時、信号機は島に一つしかありませんでした。この話をするたびに同じ日本なのかと驚かれてしまうことばかりで、外務省とは全く関係ないと思われてしまうかもしれませんが、本寄稿の中でこれから書かせていただく内容について、私がなぜそう感じたのかという点で大事な要素の一つだと思いましたので、あえて触れさせていただきました。
 九州で生活をしていると中国や韓国、少し地図をたどれば台湾や東南アジアの国々や地域があり、海外からの観光客も多いため、東京よりもグローバルだったりする部分があります。それでも、外務省への出向が決まった当時の私のように「外交官?何してるの?」と、日常的に海外に触れる中で改めて外務省・外交官の役割について疑問に思う鹿児島県民も少なからずいるのではないかと思ったりもします。そんな私が記す文章ですので、あくまで一体験談として軽い気持ちで読んでいただけますと幸いです。

2 外交官との出会い

外務省(中央門)

 2022年4月、霞が関駅を降りて外務省(中央門)を前に「あの皇后雅子さまが勤務されていた外務省か」と思いながら、配属先の中東第一課へ向かった日から1年半が経とうとしています。配属された当初、自分の席に着いてから各方面に耳を傾けると、今までに聞いたことのない言語(アラビア語やヒンドゥー語、フランス語、トルコ語)が飛び交っている世界を目の当たりにし、固まってしまった自分の姿が今でも脳裏に焼き付いています。横から渡される書類は英語の内容ばかり、電話がかかってきたと思えば流暢な英語で「Hello(ハロー)」と聞こえ、その後に当たり前のように流れてくる専門用語が雑音にしか聞こえないという絶望的な世界が広がっていました。
 初日に洗礼を受けてしまった私ですが、知らない言語が飛び交うことは想像の範疇といいますか「そりゃそうだ」とすぐに納得できました。また、「外務省といえば語学を通じたコミュニケーションを常に求められる仕事なのだから、語学のプロフェショナルと言われる生え抜きの外務省職員だけで組織が成り立っているはずだ」と思っていたのですが、全くそうではありませんでした。実際には、中途採用で入省した職員、他省庁や民間企業、自治体からの出向者など、多様なバックグラウンドを持った職員が居ます。日本国内だけで見ても色々な考えを持つ人がいるわけですが、国内だけでなく国外の人にも日本の政策について納得してもらうことが重要であり、そのためには日ごろから柔軟な発想を持つことが大切です。そのうえで、各国・地域の歴史や宗教、特性、習慣といった複雑に絡み合う要素をきちんと見極め、ありとあらゆるケースを想像しながら課題に取り組んでいる外交官の方々と同じ時間を過ごす中で、そりゃ生え抜きの職員だけでなく色々な職歴や経験、考え方を持つ人たちが外務省に集まることは当然のことだと思いましたし、外務省に来て初めてこの事実を知ることができました。

3 中東第一課と地方連携推進室での勤務

トルコ・日本科学技術大学へ訪問した際の記念写真

 私は、外務省にある部局のうち、地域別担当として設置されている中東アフリカ局の中東第一課に配属され、トルコ班、中東和平班(イスラエル・パレスチナ)に関する業務を、それに加えて2年目の年に9日間ほど、地方連携推進室にて地方自治体との連携に関する業務に携わらせていただきました。
 トルコ班では、トルコ・日本科学技術大学の開学という大きなプロジェクトに関わらせていただき、人生で初めてトルコへ行くことができました。出張は、1泊4日とハードスケジュールとなりましたが、移動の車中やホテルでも寝る間を惜しんで会議の記録や打ち合わせの資料を作るなど、外務省ならではの体験もすることができ、人として鍛えていただけた気がします。その中でも、一緒にお仕事をさせていただいたノーベル化学賞受賞者・野依良治先生から「情報や人との関係性は横に広げる努力をしなさい」とのお言葉もいただき、大変貴重な経験となりました。
 中東和平班では、パレスチナ支援に関する業務をさせていただきました。パレスチナ支援とは、オスロ合意以降、中東和平問題の「二国家解決」に向けて力を入れている事業です。「被爆国」として平和を訴えることはもちろん重要なことですが、そのことに加えて、その平和が世界各地で普遍的に受け入れられるものなのかという点を考え続けることも大切なことだと思いました。社会が大きくとも小さくとも、その社会にとってよりよい効果が生まれる取組とは何か、その場に行ってみないと本当に分からないものなのかと考える中で、中東和平とは域内の問題と限らずに考えていくべき問題だと思う一つのきっかけとなりました。
 地方連携推進室では、地方の魅力を世界に発信する「地方を世界へ」というプロジェクトの一部業務を経験させていただきました。同プロジェクトのような地方を世界に注目してもらうきっかけとなり得るような事業があると初めて知りました。これからも外務省によるリーダーシップのもと、地方自治体や民間企業の意見も取り入れながら、地方の魅力を世界に発信していただけるとよいのではないかと思います。

4 終わりに

 中東第一課の皆様をはじめとし、外務省の関係者の方々から多大なご支援をいただきました。お世話になった皆様に改めて、感謝申し上げます。また、本寄稿を読んでいただき、ありがとうございます。本寄稿を通じて、2年前の私のように「外交」とは自分とあまり馴染みのない世界だと感じている方が少しでも身近に感じていただければ幸いです。
 来春からは在外公館での勤務となる予定ですが、外交への理解がなお一層広がるよう、今後も行く先々でお役に立ちたいと考えております。ありがとうございました。

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