グローカル外交ネット
外務省での経験 文化交流を中心に
外交実務研修員 柴田 裕介
(札幌市から派遣)
1 はじめに
私は、札幌市から外務省へ派遣され、2022年4月より文化交流・海外広報課で勤務しております。札幌市では、福祉関連の業務(生活保護のケースワーカー)や予算編成業務に携わってきました。これまで国際関連の部署とは縁がなく、また、自身の語学力に全く自信がないこともあり、ずっと不安を抱いたまま外務省での勤務初日を迎えたことが、つい最近のことのように感じます。この度、本寄稿の機会をいただきましたので、外務省での勤務を振り返りつつ、少しではありますが私が感じた事にも触れさせていただきました。今後、外務省で勤務される外交実務研修員や地方自治体の皆様にとって、少しでも参考になりましたら大変幸いです。
2 文化交流・海外広報課での業務
私が勤務している文化交流・海外広報課では、文化交流に関する外交政策や、国際交流基金との連携による海外での日本語普及事業、日本事情に関する海外広報などの業務を所掌しております。文化交流と言ってもその範囲はとても幅広く多岐にわたりますが、私は、在外公館文化・広報事業と海外における日本語教育に関する業務を主に担当しております。
諸外国において日本のイメージをより肯定的にする事は、国際社会で日本の外交政策を円滑に実施していく上でとても重要です。また、インバウンド促進にもつながるため、積極的な文化交流を行う事は地方自治体にとっても非常に有益だと思います。対日理解促進や親日層の形成は、一朝一夕には醸成されないものではありますが、多方面から日本の魅力を伝えることができるよう、日々工夫しながら業務をしております。
(1)在外公館文化事業について
日本が外国との外交を行う拠点として、世界には200を超える在外公館(大使館、総領事館、そして政府代表部を総称して在外公館と言います。)があります。在外公館では、日々、様々な業務を行っており、その業務の一つとして、海外における日本のプレゼンス強化、日本への関心・理解促進等を目的とした文化・広報事業を実施しております。具体的には、茶道、華道、武道などの伝統文化やアニメ、マンガといった現代文化、食文化など、日本の魅力を幅広く紹介しております。また、地方自治体と連携し、地方の魅力発信を行うなど、現地のニーズを捉えながら在外公館の創意工夫により、様々な文化事業を実施しております。
当課では、在外公館が作り上げた事業計画の内容を確認しながら、経費の精査やより費用対効果が高くなるように各公館と協議しながら文化事業の実施に向けた調整を行っております。
事業実施後のアンケート結果では、「いつか日本へ行ってみたい」「もっと日本のことを知りたい」といった感想がとても多くあります。以下の写真のように、日本文化に興味がありイベントに足を運んでくださる方は、遠く離れた国にも、たくさんいらっしゃいます。日本文化がきっかけとなり、日本に関心を持つ外国人はとても多いですが、現在の日本に対する良好なイメージは、このような地道な積み重ねによって形成されてきたのだと強く実感しております。

(2)海外における日本語教育について
現在、海外では141の国・地域において約379万人が日本語教育機関で日本語を学習しています(2021年度国際交流基金調べ)。
海外における日本語の普及は、日本との交流の担い手を育て、諸外国との友好関係の基盤となるものです。その国の言語を学ぶことは、よりその国への理解が深まる良いきっかけだと思いますので、日本語を学ぶ機会を創出する事は重要な取組です。
外務省では、国際交流基金を通じて海外の日本語教育現場での多様なニーズに対応し、海外における日本語普及の取組を行っております。具体的には、日本語専門家の海外派遣や、海外の日本語教師への研修、日本語教材の開発などを行っております。加えて、日本における労働力不足を背景にして、2019年4月から在留資格「特定技能」による外国人材の受入れが開始され、就労目的での来日を希望する外国人に対する日本語教育という新たなニーズに対しても取組を進めております。
本年3月、私はカンボジアに出張し、日本語教育の現場(王立プノンペン大学)を視察する機会をいただきました。カンボジアでは、既に多くの中国企業が進出しており、稼ぐために中国語を学ぶ重要性が増しているそうです(カンボジアの街を歩くと、多くの看板に、クメール語・英語・中国語が併記されていることに驚きました。)。そういった状況下でも、日本のことが好きで訪日することを目標に、懸命に日本語を勉強している人たちがとても多かったことがとても印象的でした。
外国語を学習するきっかけや方法は様々あるかと思いますが、何も取組を行わなければ、いくら日本語を学びたいと思う人がいても、他の言語を選択してしまうかもしれません。海外において身近に日本語を学ぶ環境を整備することは、現在や未来の「日本のファン」の方々を失わないために、ますます重要性が高まってきていると実際の教育現場を視察して実感いたしました。


視察したカンボジアでの日本語教育の様子(王立プノンペン大学)
3 地方連携推進室での業務
現在、多くの地方自治体は、地域経済の活性化や多文化共生などといった諸課題に取り組むため、国際交流を推進する必要性が高まっていると思います。
そのような中、外務省では、外交を推進していく上で、地方自治体等を重要なパートナーであると位置づけ、地方による国際的取組の推進に資する様々な取組を行っております。既述のとおり、私は文化交流・海外広報課に所属しておりますが、約2か月間、地方連携推進室でも勤務する機会をいただきました。短い期間ではありましたが、外務省と地方自治体とが連携する事業や、多くの地方自治体の取組を知ることが出来た貴重な機会でした。
私は、同室にて勤務している間、主に「駐日外交団による地方視察ツアー」に関する業務を担当しておりました。本ツアーは、外務省と地方自治体等の共催で、駐日外交団に地方の多様な魅力を現地で直接体験してもらい、海外に発信してもらうことを目的に実施しており、地方自治体の方々の郷土愛あふれる熱心なPRがとても印象的でした。私も札幌市からの派遣者ですので、他の自治体による特徴的な魅力発信の様子を拝見することは、とても刺激的でした。
外務省と地方自治体等の連携によって、地方の多様な魅力がさらに海外に発信され、インバウンド促進や地元産品の販路拡大等を通じて地域経済の活性化が図られることが期待されます。私自身も、数年後には地方自治体職員としての業務に戻ることになるため、戻ってからも外務省との連携を密にし、今回の経験をいかしたいと考えております。
4 おわりに
外務省での勤務は、外務省特有の言い回しや物事が決まるスピード感など驚きの毎日でしたが、気がつけば1年5か月ほどが経過しておりました。この間、通常業務はもちろん、一人での海外出張、要人対応に関する業務など、非常に濃い経験をさせていただきました。文化交流・海外広報課の皆様をはじめとして、外務省関係者の皆様から多大なご支援をいただき、このような私でもここまで何とかやってこられました。これまで、大変有意義な時間を過ごすことができ、改めて、貴重な学びの機会を与えていただいた外務省、札幌市、お世話になっている関係者の皆様に、この場を借りて感謝申し上げます。
本省での勤務は少なくなってきましたが、これからも人とのつながりを大切にし、たくさんの事を学びたいと思います。そして、来春には在外公館での勤務となる予定です。たくさんの方に日本のことを好きになってもらい、日本のことをもっと知ってもらえるよう、私自身も楽しみながら精一杯頑張りたいと思います。