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北東アジア第一課での勤務を通じて
外交実務研修員 山村 真人
(長崎県から派遣)
1 はじめに
私は2021年4月に長崎県より外務省に派遣され、アジア大洋州局北東アジア第一課で勤務しています。長崎県では、入庁後4年間、庁内の物品調達事務や振興局で用地交渉業務等に携わってきましたが、これまで国際的な部署とは縁がなく、不安と緊張いっぱいで本省勤務初日を迎えたことを今でも鮮明に覚えています。早いもので2年が経とうとしていますが、この度、本寄稿の機会をいただきましたので、これまでの本省勤務を振り返るとともに、本寄稿が外務省派遣を検討されている地方自治体の皆様にとって、少しでも参考になりましたら幸甚です。
2 北東アジア第一課での業務
私の所属する北東アジア第一課は、本省の中でいわゆる「地域課」と呼ばれ、日本と韓国との二国間関係を所掌しています。旧朝鮮半島出身労働者問題や慰安婦問題、竹島問題等、極めて重要な外交案件を扱っており、非常に優秀な方々が勤務されています。そんな課室での勤務は、意思決定のプロセスや迅速な対応ぶりなど、日々の業務において学ぶことが多く、非常に充実した2年間となりました。
私が所属する経済・交流班は、韓国経済や日韓経済、交流案件等が主な業務になりますが、業務範囲は非常に広く多岐に渡っています。その中から、担当している業務をいくつか御紹介いたします。
(1) 韓国経済・日韓経済に関する情報収集
在韓国日本国大使館の電報や各報道機関の報道等から、韓国経済・日韓経済に関する最新の動向を把握し、経済資料の更新作業を行っています。GDPや貿易額、株価、失業率といった主要経済指標以外にも、2022年5月に発足した尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権が発表した経済政策(不動産政策、半導体戦略)といった話題となるトピックの資料作成も行っています。
日々、韓国経済の情報に接してきた中で、韓国経済の構造を簡単に御説明申し上げますと、韓国経済は、サムスン・SK・現代自動車といった財閥企業の影響力の大きさや輸出依存度の高さ等が特徴的です。2021年は半導体をはじめとする主要品目の輸出が軒並み好調で過去最高の貿易額を記録しましたが、2022年は世界的なエネルギー・原材料価格の高騰により輸入額が大幅増となり、通年の貿易収支が赤字となりました。このように韓国経済は、他国の景気動向や為替変動の影響を受けやすい構造になっています。また、若年失業率の高さ、都心部の不動産価格の高騰等も社会問題となっています。
(2)新型コロナウイルス対応
本省勤務1年目は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、前年に続き多くの行事が開催見送りとなる中で、新型コロナウイルスへの対応業務が多くありました。具体的な内容として、現地の感染状況や韓国政府の防疫措置(渡航制限・行動制限)等に関する情報収集等が挙げられます。これらの情報は我が国の水際対策にも影響を及ぼすことから、定期的な更新作業が求められていました。また、日韓両国の防疫措置が日々変わりゆく中で、査証発給に関する問い合わせも多くあり、省内領事局や在韓国日本国大使館と連携して対応にあたりました。
(3)日韓産業技術協力財団への拠出
日韓産業技術協力財団(以下「同財団」)は、日韓両国間における産業技術協力の促進を目的に、1992年1月の宮澤総理と盧泰愚(ノ・テウ)大統領の会談に基づき設立されました(韓国側は韓日産業・技術協力財団)。同財団に対して外務省・経済産業省が共同で毎年拠出している中で、私は同財団への拠出手続き並びに予算要求業務を担当しています。
また、同財団は、日韓経済協会と共催で「日韓経済人会議」(以下「同会議」)を開催しています。同会議は、日韓両国を代表する企業・団体のトップが一堂に会し、経済の側面から見た両国の協力関係や課題について意見交換を行う会議です。同会議は1969年以来、毎年1回、日韓経済協会と韓国側の韓日経済協会の共催で、一度も絶やすことなく日韓交互に開催されてきました。
2022年は東京とソウルの両会場をつないだオンライン形式で開催され、私もオブザーバーとして参加しましたが、日韓を代表する経済人の考えを直接聞く機会は、地方自治体では滅多にない機会で貴重な経験となりました。全体会議では、江戸時代中期に対馬藩に仕官し堪能な韓国語によって日韓両国の交流に大きく貢献した雨森芳洲が取り上げられ、同会議にて長崎県に縁のある人物が紹介されたことを嬉しく思うとともに、長崎県と韓国の長い歴史を改めて強く実感しました。

(出典:一般社団法人日韓経済協会

(4)青少年交流事業
短期間ではありますが、青少年交流をはじめとした交流事業も担当しました。
対日理解促進交流プログラム「JENESYS(ジェネシス)」は、対外発信力を有し将来を担う人材を招へい・派遣し、政治、経済、社会、文化、歴史、外交政策等に関する対日理解の促進を図るとともに、いわゆる知日派を発掘し、日本の外交姿勢や魅力等について被招へい者・被派遣者自ら積極的に発信してもらうことで対外発信を強化し、我が国の外交基盤を拡充することを目的とする事業です。
担当期間中に、プログラムに参加している大学生に直接会う機会があったのですが、学生達の発表は一つ一つ大変考え抜かれた内容で、非常に感銘を受けるとともに、自分自身もっと精進しなければと強く思わされました。それと同時に、青少年交流事業に引き続き携わりたい気持ちも芽生え、親元に戻った後もチャンスがあれば、姉妹都市間の青少年交流といった事業に積極的に携わっていきたいです。
3 外務省と地方自治体の連携
外務省は、外交を推進していく上で、地方自治体等を重要なパートナーであると位置づけ、その国際的取組を支援すべく、地方連携に係る事業・取組を行っています。
外交実務研修員は、研修の一環で短期間、地方連携推進室で勤務することになっており、私も同室で約2か月間研修しました。研修期間中は、駐日外交団等に対して地方の魅力を発信する、外務大臣と地方自治体首長との共催によるレセプション開催準備に微力ながら携わらせてもらい、外務省が同レセプションをはじめ、どのような地方自治体支援・連携スキームを有しているのかを知ることができました。親元に戻った後、今度は地方自治体職員として協力を依頼する側になりますが、海外発信・展開を成功させるべく、同室の方々と密に連携していけたらと思います。
4 本省勤務で感じたこと
外務省で勤務し始めて最初に感じたことは、想像以上に少ない職員数で業務を回していることです。(私たち外交実務研修員を含め)担当レベルでも多くのことを任せてもらえる環境にありますが、その反面、個々の十分な専門性や主体性、責任感が常に求められます。正直、私自身がその要求水準を満たせていたのかは自信がありませんが、このような環境に身を置き勉強する機会をいただけていることは大変有り難く思います。また、省員の皆様が国益のために昼夜問わず粘り強く業務にあたられている姿、仕事に対する意識の高さに深い感銘を受けました。
5 最後に
本省勤務も気づけばあっという間で残りわずかとなりました。思い返してみると、着任当初は外務省(及び霞が関)特有の用語や職場で飛び交う様々な言語、仕事のスピード感等に戸惑うことばかりでしたが、今日まで何とかやってこられたのは、省内随一の忙しさであるにもかかわらず、暖かく丁寧に御指導くださった、北東アジア第一課の皆様のおかげです。同課の皆様には感謝の言葉しかありません。また、4年間の長期派遣にもかかわらず、快く送り出してくれた長崎県庁の関係者にも、この場をお借りして御礼申し上げます。
加えて、同じく外交実務研修員として全国から派遣されてきている地方自治体の職員の方々と横の繋がりが作れたことも大きな財産となりました。地方自治体で働いていて通常交流があるのは近隣自治体間の範囲になりますが、本研修を通じて、北は北海道から、南は鹿児島県までの方々と知り合うことができました。互いに励まし合いながら過ごしたこの繋がりは、親元へ戻った後も続いていくものだと思っており、外務省で得た御縁を大切にしていきたいと思います。
これから外交実務研修後半の在外公館勤務となりますが、外務省で学んだことを親元の長崎県に少しでも多く還元できるよう、今後も一日一日を大切に過ごし精進して参ります。