外交史料館
昭和期III 関係調書集
昭和期III(昭和12~20年)の刊行については、『日中戦争』(全4巻)、『第二次欧州大戦と日本』(全3巻)および『太平洋戦争』(全3巻)の三つの特集を中心に構成し、これら特集で採録しなかった事項については、『昭和期III』第1巻から第3巻に関係文書を収録しました。
本巻「昭和期III 関係調書集」は、これら昭和期IIIの既刊に採録された文書を内容的に補完する関係調書4冊を翻刻して収録するものです。総ページ数は658頁で、本巻の刊行によって『日本外交文書』の通算刊行冊数は、216冊となりました。
一、本巻の構成
本巻が収録する調書は、外務省が作成した以下の4冊です。
- 「外交資料 日仏印関係ノ部」
- 「外交資料 戦争直前ニ於ケル対英米通商交渉経緯ノ部」
- 「外交資料 「ビルマ」「フイリピン」関係」
- 「外交史料 日、蘭印経済交渉ノ部」
外務省調書「外交資料」は、敗戦に至る「歴史的事実ヲ外交交渉ノ経過ノ面ヨリ正確ニ記録シ、過去ノ外交ノ真実ノ姿ヲ叙述スル」ために、「外務省資料ヲ根拠トシ」、「重要対外国策及之カ実施ヲ案件別ニ編纂」したもので、昭和20年暮れより、外務省中堅の諸氏を中心に分科会を設けて作業を進め、昭和21年2月末に以下の6冊が完成しました。
- 「日米交渉記録ノ部」
- 「日米交渉経緯ノ部」
- 「満州事変前ニ於ケル帝国内外情勢」
- 「日仏印関係」
- 「戦争直前ニ於ケル対英米通商交渉経緯ノ部」
- 「「ビルマ」「フイリピン」関係」
また昭和26年6月には、「外交史料 日、蘭印経済交渉ノ部」が作成されました(本冊のみが「外交史料」というタイトルになっています)。
これら計7冊のうち、「日米交渉記録ノ部」と「日米交渉経緯ノ部」は、外務省編纂、細谷千博解題『日米交渉資料』として、昭和53年に復刻・刊行されています(原書房刊・明治百年史叢書)。また、「満州事変前ニ於ケル帝国内外情勢」は、時期的に昭和期IIIに入らないことから、この3冊を除いた計4冊を本巻に収録しました。
当該期の外務省記録においては、戦災等によって多くの文書が消失しています。昭和期IIIの刊行に当たっても、他機関からの史料補填に努めましたが、すべての欠落部分を補填することは不可能でした。従って、昭和期IIIの既刊採録文書を閲読されるに際し、本巻の収録調書を併せて参照いただければ、欠落部分の概要を含め、各問題を一層詳しく理解する一助となると思われます。
二、本巻収録調書の目次と概要
各調書の目次と概要は以下のとおりです。
(1)「日仏印関係ノ部」
- 第一部 大東亜戦争勃発迄ニ於ケル日仏印関係ノ発展
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- 概説
- 第一章 仏印経由蒋政権向軍需品輸送禁絶方交渉経緯(概要)
- 同(経緯詳細)
- 第二章 日本軍ノ北部仏印進駐ニ関スル日仏談合(松岡「アンリー」協定)成立ニ至ル交渉経緯(概要)
- 同(経緯詳細)
- 第三章 日仏印経済交渉
- 第四章 仏印資源調査団ノ派遣
- 第五章 南部仏印進駐(仏領印度支那ノ共同防衛)ニ関スル交渉経緯(概要)
- 第六章 特派大使ノ派遣
- 第二部 大東亜戦争中ニ於ケル日仏印関係
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- 第一章 大東亜戦争開始ニ伴フ諸問題ノ処理
- 第二章 昭和十七―十八年ニ於ケル日仏印関係ノ推移
- 第三章 欧洲情勢ノ変化ト仏印ノ動向
- 第四章 東亜戦局ノ緊迫ト仏印処理
- (附録)
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- 一、日仏印軍費交渉概要
- 二、仏国船傭船問題
日本と仏印との関係を、太平洋戦争勃発までと太平洋戦争中の二部構成で概説しています。第一部「大東亜戦争勃発迄ニ於ケル日仏印関係ノ発展」では、仏印経由による援蒋物資移送の禁絶に関する日仏交渉の経緯、日本軍の北部仏印進駐に関する日仏間の往復書簡(いわゆる松岡・アンリ協定)が交換された経緯、日仏印経済交渉の推移、日本軍の南部仏印進駐に関する交渉経緯を詳細に記述しています。
第二部「大東亜戦争中ニ於ケル日仏印関係」では、太平洋戦争下における日仏印関係の推移、欧州情勢の変化と仏印の動向、昭和20年の仏印処理の経緯を、それぞれ詳細に記述しています。
また、昭和15年8月30日交換の日仏間往復書簡や、同年9月22日調印の南部仏印進駐に関する現地細目協定をはじめとする、重要な関係文書も収録されています。
(2)「戦争直前ニ於ケル対英米通商交渉経緯ノ部」
- 第一章 支那事変当初ニ於ケル我国貿易政策
- 第二章 欧洲戦争勃発ニ依ル我国対欧貿易ノ杜絶
- 第一節 欧洲諸国(除英本国)向海路輸出ノ杜絶
- (1)英(仏)国ノ戦時禁制品取扱振リ
- (2)条件付禁制品ニ対スル連続航海主義ノ適用
- (3)中立国向貨物ニ対スル挙証責任
- 第二節 対英貿易ノ杜絶
- 第三節 欧洲ヨリノ海路輸入杜絶
- 第四節 「シベリア」経由ニ依ル貿易ノ杜絶
- 第一節 欧洲諸国(除英本国)向海路輸出ノ杜絶
- 第三章 日米通商関係
- 第一節 日米通商条約ノ廃棄
- 第二節 「モーラル・エンバーゴ」ノ実施
- 第三節 対日輸出禁止
- 第四節 中南米貿易ノ妨害
- 第五節 資金凍結
第一章「支那事変当初ニ於ケル我国貿易政策」で、事変勃発当初における日本の貿易政策と貿易状況を簡単に述べ、第二章「欧洲戦争勃発ニ依ル我国対欧貿易ノ杜絶」では、第二次欧州戦争勃発後の対欧州貿易が途絶した状況を、欧州諸国向け海上輸出、対英貿易、欧州よりの海上輸入、シベリア経由による貿易の各観点から述べつつ、それに対する日本側の対応ぶりを概説しています。
第三章「日米通商関係」では、通商航海条約の廃棄、モーラル・エンバーゴの実施、対日輸出禁止、資金凍結という面から日米通商関係の推移を簡潔に記述しています。
また後半には、付属参考資料として、英国の通商制限令に抗議した日本側覚書や、日米通商航海条約廃棄通告の直後に行われた堀内駐米大使とハル国務長官の会談を伝えた報告電報などの関係文書48点を収録しています。
(3)「「ビルマ」「フイリピン」関係」
- 第一部
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- 一、「ビルマ」国独立経緯
- 二、大東亜戦争完遂ノ為ノ「ビルマ」独立施策ニ関スル件
- 三、「ビルマ」独立指導要綱
- 四、東条内閣総理大臣ヨリ「ビルマ」行政府長官一行ニ対スル示達
- 五、東条内閣総理大臣「バー・モウ」「ビルマ」行政府長官会見記録
- 六、「ビルマ」独立指導ニ関スル電報
- 七、日本国「ビルマ」国間同盟条約
- 八、「ビルマ」紀元千三百五年法律第一号
- 九、東条総理大臣内奏資料抜粋
- 一〇、「シヤン」州等ノ帰属ニ関スル件
- 一一、「シヤン」地方等ニ於ケル「ビルマ」国ノ領土ニ関スル日本国「ビルマ」国間条約
- 第二部
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- 一、「フイリピン」国独立経緯
- 二、比島独立指導要綱
- 三、独立準備委員会ニ対スル現地軍示達経過
- 四、「フイリピン」共和国憲法草案(仮訳)
- 五、「フイリピン」新憲法(一九四三年)
- 六、比島独立指導要綱ニ基ク現地指導ノ腹案
- 七、東条内閣総理大臣ヨリ比島独立準備委員長一行ニ対スル示達
- 八、日本国「フイリピン」国間同盟条約案
- 九、日本国「フイリピン」国間同盟条約
太平洋戦争中の日本とビルマおよびフィリピンとの関係を二部構成で概説しています。第一部では、ビルマの独立経緯と日ビルマ同盟条約の締結経緯を、また第二部では、フィリピンの独立経緯と日フィリピン同盟条約の締結経緯をそれぞれ簡潔に記述しています。また各概説の後に、昭和18年の東条首相とビルマのバーモ行政府長官との会見記録や、昭和18年6月26日大本営政府連絡会議決定「比島独立指導要綱」などの関係文書を収録しています。
(4)「日、蘭印経済交渉ノ部」
- 第一部 自昭和九年(一九三四年)至昭和十六年(一九四一年)日、蘭印経済関係ノ推移概観
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- 本文
- 附録
- 第一号 石沢・「ハルト」協定
- 第二号 蘭印ノ現状維持ニ関スル有田声明
- 第三号 蘭印ノ現状維持ニ関スル蘭、独、英、仏ヘノ我方申入及ビ之ニ関スル外務省情報部長談
- 第四号 蘭印物資十三品目ニ関スル有田外務大臣及ビ在京和蘭公使書翰
- 第五号 日、蘭印交渉方針ニ関スル有田外務大臣閣議説明資料
- 第二部 自昭和十五年(一九四〇年)八月至昭和十六年(一九四一年)六月 日、蘭印経済交渉経緯
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- 一、蘭印ニ関スル我方ノ根本的要請
- 二、会商開始ニ関スル小林使節、「ス」総督会談
- 三、蘭側代表
- 四、買油交渉
- 五、石油鉱区関係
- 六、蘭印ノ対日感情ト会商促進申出ト芳沢代表ノ派遣
- 七、芳沢代表交渉開始
- 八、日、蘭印銀行金融協定ノ締結
- 九、「ホ」通商局長ノ内話
- 一〇、松岡大臣ノ議会演説ニ対スル反響
- 一一、大橋次官ノ言説ニ対スル反響
- 一二、松岡大臣ノ石油ニ関スル議会答弁
- 一三、我方提案内容新聞発表問題
- 一四、蘭側対案提出、会議進行渋滞
- 一五、在倫敦和蘭政府承認問題
- 一六、予備会談及蘭側態度
- (一)入国問題
- (1)根本方針
- (2)日本人ト入国制限令
- (3)日本人ト外領
- (4)一時的入国者ノ除外
- (5)外国人勤労条例トノ関係
- (二)調査上ノ支障除去問題
- (三)日本人医師開業問題
- (四)企業問題
- (1)経営上ノ合理化促進
- (2)鉱業
- (3)水産業
- (五)交通通信問題
- (1)航空
- (2)海底電線
- (六)営業制限問題
- (七)海運問題
- (一)入国問題
- 一七、共同声明発表
- 一八、在本邦蘭人生活上ノ苦情及要望
- 一九、蘭側ノ根本的態度
- 二〇、通商問題
- (一)対日輸出制限問題
- (二)我方買付要求品目及数量表提示
- (三)石沢「ホ」会談要旨
- 二一、我方交渉方針
- 二二、我方第二次案提出
- 二三、物資買付問題
- 二四、物資買付案提出
- 二五、蘭側要人ノ談話
- 二六、東京ニ於ケル工作
- (一)大橋次官「パブスト」公使会談
- (二)松岡大臣「クレーギー」大使会談
- (三)大橋次官「クレーギー」大使会談
- 二七、同盟通信ニ関スル蘭側抗議
- 二八、彼我新聞論争
- 二九、蘭側回答提出
- 三〇、会商打切
- 附録
- 第一号 対蘭印交渉方針案
- 第二号 対蘭印要求案
- 第三号 対蘭印経済発展ノ為ノ施策(昭和十五年十月二十五日閣議決定)
- 第四号 石油買付数量ニ関スル民間協定(昭和十五年十一月十二日)
- 第五号 我方第一次要求(昭和十六年一月十六日)トソノ邦訳文
- 第六号 蘭側対案(昭和十六年二月三日)トソノ仮訳文
- 第七号 我方第二次要求(昭和十六年五月十四日)トソノ邦訳文
- 第八号 我方第二次要求附属ノ蘭印物資買付案(昭和十六年五月二十日)トソノ邦訳文
- 第九号 石油鉱区ニ関スル我方最後的要求(昭和十六年五月二十二日)
- 第十号 蘭側回答(昭和十六年六月六日)トソノ仮訳文
- 第十一号 会商打切ニ関スル日、蘭印共同声明
二部構成になっています。
第一部「日、蘭印経済関係ノ推移概観」では、日本と蘭印との一般的経済関係の推移に加え、昭和12年の石沢・ハルト協定、大戦勃発に伴う対蘭経済要請、蘭印の現状維持に関する有田声明、昭和15年8月から翌16年6月までバタビアで行われた蘭印との経済交渉の各経緯を簡潔に記述しています。また付録として、石沢・ハルト協定や、蘭印の現状維持に関する有田声明などの関係文書を収録しています。
第二部「日、蘭印経済交渉経緯」では、昭和15年8月から翌16年6月に行われた、蘭印との経済交渉の経緯を、小林全権の交渉と芳沢全権の交渉を中心に、東京での動きも合わせ、一層詳細に概説しています。また付録として、石油買い付け量に関する民間協定や、芳沢全権による交渉で日本側が提示した第一次要求および第二次要求などの関係文書も収録しています。
三、本巻収録調書と既刊との関係
各調書の内容に対応する既刊の各項目は以下のとおりです。
(1)「日仏印関係ノ部」
- 北部仏印進駐→『日中戦争』「九 援蒋ルート遮断問題 1 仏印ルート」
- 日仏印経済交渉→『第二次欧州大戦と日本』「七 仏印問題 1 日仏印経済協定の成立」
- 南部仏印進駐→『第二次欧州大戦と日本』「七 仏印問題 2 南部仏印進駐」
- 太平洋戦争下における日仏印関係の推移→『太平洋戦争』「VI 「大東亜共栄圏」の建設 二 対仏印関係 1 対仏関係と広州湾接収問題」
- 仏印処理→『太平洋戦争』「VI 「大東亜共栄圏」の建設 二 対仏印関係 2 「仏印処理」問題と安南国等の独立」
(2)「戦争直前ニ於ケル対英米通商交渉経緯ノ部」
- 欧州大戦による貿易途絶をめぐる日英交渉→『第二次欧州大戦と日本』「三 大戦に伴う英国の通商制限措置への対応」の「1 対独通商報復令への対応」、「2 日英通商調整交渉」
- 日米通商航海条約の廃棄→『日中戦争』「六 事変をめぐる米国との関係 2 日米通商航海条約廃棄通告」
- 米国の対日輸出禁止→『日中戦争』「六 事変をめぐる米国との関係 5 米国による対日制裁措置の強化」
- 米国の対日資金凍結→『日米交渉』「二 「六月二一日米国案」をめぐる交渉」
(3)「「ビルマ」「フイリピン」関係」
- ビルマ独立→『太平洋戦争』「VI 「大東亜共栄圏」の建設 四 占領地への独立付与問題 1 ビルマ」
- フィリピン独立→『太平洋戦争』「VI 「大東亜共栄圏」の建設 四 占領地への独立付与問題 2 フィリピン」
(4)「日、蘭印経済交渉ノ部」
- 石沢・ハルト協定→『昭和期III』第二巻「七 諸外国との通商問題 3 日蘭会商」
- 欧州大戦勃発に伴う対蘭経済要請→『第二次欧州大戦と日本』「五 蘭印問題 1 大戦勃発に伴う蘭印保全と対蘭経済要請」
- 蘭印の現状維持に関する有田声明→『第二次欧州大戦と日本』「五 蘭印問題 2 蘭印の現状維持に関する有田声明」
- 日本と蘭印との経済交渉→『第二次欧州大戦と日本』「五 蘭印問題」の「3 小林特使による日蘭会商」、「4 芳沢特使の蘭印派遣と第一次提案をめぐる協議」、「5 第二次提案の提出と日蘭会商の打切り」