中東
「第五回暴力的過激主義対策に関する対話」
概要
1 背景
暴力的過激主義思想は根強く世界各地に残存・拡散しており、我が国もテロの例外ではない。我が国としても、文化的・思想的・社会的側面から、より穏健で包摂的な社会の実現に向けた漸進的で息の長い取り組みを行う取組を行う必要があるという観点から、2017年9月に河野外務大臣(当時)が第一回日アラブ戦略対話で表明した中東外交の「四箇条」の第一条「知的・人的貢献」の一環として、2017年度から4回にわたって「暴力的過激主義対策に関する対話」を本邦及びオンラインで開催してきた。
第一回の平成29年度から、3回目の令和元年度には、それぞれ宗教関係者や政府関係者、若者指導者等を日本に招へいし、参加者間で暴力的過激主義に関する知見を深めた。また、令和2年度以降は、新型コロナウイルスの感染状況に鑑み、オンライン形式での意見交換会を実施した。さらに、令和3年度以降は、参加者間のネットワーク強化のため、一部の参加者の継続的な参加を得ることで、我が国と中東諸国の知見の蓄積が進んでいる。
2 実施概要
令和4年3月に実施された第5回対話においては、専門家間のネットワーク強化の観点から、前年度実施の第4回に参加した中東地域6か国11名の有識者の、継続的な参加を得た。また、議論のテーマも、前回会合で重要性が指摘された、「カウンターナラティブ(Counter Narrative)」「帰還者の処遇(Treatment of Returnees)」「過激化における女性・子供の存在(Women and Children in Violent Extremism)」に焦点を置くことで、議論を深堀させることに主眼を置いた。加えて、暴力的過激主義対策への日本的視点の提供や、今後日本がイスラーム社会と共生していくために必要な視点を深めることも念頭に置き、下記の日本人有識者の参加を得た。
- 野村 明史 拓殖大学助教(「カウンターナラティブ」セッションにおけるモデレーター)
- 高尾 賢一郎 中東調査会研究員(「カウンターナラティブ」セッションにおけるメインディスカッサント)
- 東 大作 上智大学教授(「帰還者の処遇」セッションにおけるモデレーター)
- 宮川 円 国連アジア極東犯罪防止研修所(UNAFEI)教官(「帰還者の処遇」セッションにおけるメインディスカッサント)
- 田中 美衣 同教官(同上)
- 辻上 奈美江 上智大学教授(「過激化における女性・子供の存在」セッションにおけるモデレーター)
- 大治 朋子氏 毎日新聞専門記者(「過激化における女性・子供の存在」セッションにおけるメインディスカッサント)
3 議論の概要
- (ア)冒頭、本会合の主催者である遠藤GCC及び湾岸地域担当大使から、新型コロナウイルス感染症の感染状況に鑑み、対面での招へい事業がかなわなかったことは残念であるが、オンラインで実施することで、中東地域及び日本から、幅広い分野で、より多くの有識者に継続的に参加いただけることになった旨発言。また、前回議論を踏まえた今次会合の各議題について、日本人有識者の研究内容や、日本における取組を紹介し、意見交換を行うことで、日本による中東地域に対する「知的・人的貢献」を行い、地域間の信頼関係の構築に寄与していきたい旨述べた。
- (イ)「カウンターナラティブ」セッションにおいては、暴力的過激主義思想に対抗するカウンターナラティブを広める場としての教育の重要性や、暴力的過激主義に陥りやすい集団の特徴等について、各参加者の経験や研究内容を交えつつ、議論が行われた。暴力的過激主義の要因は多様であり、宗教的背景だけではなく、個人の孤独感や教育事情、心理的状態が影響しているという認識が参加者間で共有された。
- (ウ)「帰還者の処遇」セッションにおいては、帰還者の処遇にあたる具体的な課題や各国の取組みが紹介された。UNAFEIから、日本における施設内及び社会内犯罪者処遇プログラムやその背景理念が共有され、中東地域参加者から高い関心が示された。
- (エ)「過激化における女性・子供の存在」セッションにおいては、各参加者が行う暴力的過激主義集団や個人に対する研究、また、時代や地域毎に異なる「女性観」に関する知見等が共有され、女性は、暴力的過激主義行為の被害者になると同時に、暴力的過激主義を他者に波及させる存在にもなり得るという、女性の両面性についての指摘があった。
- (オ)閉会時には、遠藤GCC及び湾岸地域担当大使から、参加者の積極的な議論に対する謝意が表明されたとともに、本対話を通じ、今後も、地球規模課題である暴力的過激主義対策に関する検討を重ね、日本として中東地域の平和と安定に寄与していく必要性を強調しつつ、今後の会合実施のため、参加者間のネットワークを更に強化していきたい旨発言があった。