寄稿・インタビュー
「二国家解決の実現を目指して~パレスチナの発展、そして、信頼醸成に向けた日本の役割~」
2003年に外務副大臣としてガザ地区を訪問し、アッバース大統領とお会いしたことを今でも鮮明に覚えています。その後、2014年に経産大臣として西岸地区を訪問しましたが、今回は外務大臣として初めて、深い歴史と豊かな自然にあふれたパレスチナを再訪できたことを嬉しく思います。今回私が開所式に参列するヒシャム宮殿遺跡は、ウマイヤ朝時代(8世紀)の初期イスラム建築の代表的な文化遺産であり、同宮殿大浴場のモザイク床は、中東最大と言われています。当時、この宮殿を建設したジェリコの人々は、2021年までモザイク床が残され、このような素晴らしい形で公開されることになるとは思いもよらなかったことでしょう。貴重な文化遺産を後世に残すことに、日本が貢献できたことを嬉しく思います。
日本は、将来の独立したパレスチナ国家とイスラエルが平和かつ安全に共存する「二国家解決」を支持し、関係者との政治対話、当事者間の信頼醸成、パレスチナ人への経済的支援の3本柱を通じて積極的に貢献していくとの立場であり、様々な日本独自のイニシアティブを推進しています。ヒシャム宮殿のあるジェリコにおいて、2006年以降、私たちは、日本、パレスチナ、ヨルダン、イスラエル4者の地域協力により、パレスチナの経済発展を促す「平和と繁栄の回廊」構想という取組を行っています。そして、その一環としてヒシャム宮殿遺産保護事業を含む「観光回廊」事業を実施しています。この地域には豊かな観光資源があり、日本が「平和と繁栄の回廊」構想を通じ、その果実として観光産業が実ることが、パレスチナ、ヨルダン、イスラエルにおける信頼醸成に貢献し、平和への一助となります。
また、本日、「平和と繁栄の回廊」構想の旗艦事業である、ジェリコ農産加工団地(JAIP)も訪問し、JAIPのICTセンター「PALPROセンター」の開所式に参列する予定です。この目でJAIPの発展を確認することを楽しみにしています。このICTセンターが、パレスチナの教育機関や民間企業とも連携しながら、新たなアイデアの創造の場になることを期待しています。将来的には、このICTセンターで生まれたアイデアが大きく実り、パレスチナ経済の活性化に繋がることを望んでいます。特に、このコロナ禍においては、DXの必要性が声高に叫ばれており、ぜひ多くのパレスチナの若者に、この場所を活用してほしいと思います。
パレスチナは引き続き厳しい状況にあります。
新型コロナの収束に向けて、いまだ状況は予断を許しません。ワクチン接種の進展はあるものの、デルタ変異株による感染拡大などが懸念されます。本年6月、日本は、コールドチェーン関連機材をパレスチナの22の医療施設に供与する、約8百万米ドルの「ラスト・ワン・マイル」支援を決定しました。引き続き、世界が団結して、コロナ対策を含む対パレスチナ支援を力強く進めていくことが重要です。
先般5月には、ガザ地区で大きな衝突が発生しました。米国、エジプト、カタール、国連などの尽力もあり、停戦がおおむね維持されていることを高く評価します。一方、我々は、衝突と復興が繰り返される状況を止めるべき時に来ています。現在の停戦を、より長期的な安定につなげていくためにも、すべての当事者に対し、最大限の自制を求めます。東エルサレム等でのパレスチナ人の住居破壊及び占領地域における入植活動のような現状変更の試みや、パレスチナ武装勢力によるロケット弾の発射を含む民間人を犠牲にする攻撃は、停止されなければなりません。また、双方の過激主義者による挑発的な言動も深く憂慮しています。これらの行動は、いずれの当事者によるものであっても、「二国家解決」の実現を求める国際社会の努力に逆行するものであり、パレスチナ・イスラエル双方が、問題解決と信頼回復・醸成に向けて真摯に行動することが急務です。
今次訪問中、私は、アッバース大統領を始め、シュタイエ首相やマーリキー外務庁長官らパレスチナ指導部と、不安定なガザ情勢や膠着する中東和平の展望についてしっかりと意見交換を行う予定です。そして、日本が、パレスチナ人の独立に向けた悲願を理解し、イスラエルと将来の独立したパレスチナ国家が平和かつ安全に共存する、交渉に基づく「二国家解決」をこれからも支持していくことを、改めて強調したいと思います。
日本は、ガザ地区及びヨルダン川西岸に居住するパレスチナ人の困難の緩和に貢献するため、パレスチナの人々に寄り添い、今後も経済発展に協力すると同時に、自立可能なパレスチナ国家建設のための「制度づくり・人づくり」支援を継続することで、「二国家解決」の早期実現に向けて引き続き尽力していきます。