寄稿・インタビュー

令和8年8月2日

冒頭

 日本とメキシコは、太平洋を挟む隣人として、長年に亘り、揺るぎない信頼と友情を育んできた。その歴史は、フィリピンからメキシコに向かう船が暴風雨に遭い、日本の千葉県御宿町の村民が乗組員を救助した1609年まで遡る。その後、1888年には、メキシコは、日本にとってアジア諸国以外で初めて平等条約を締結した国となり、さらに、1897年には、中南米への最初の日本人の組織的移住の地となった。両国関係は、人的交流が始まった当初から、相互尊重と対等なパートナーシップの精神に基づいていた。

今日、国際情勢は一層厳しく複雑になっており、「自由」や「法の支配」といった、我々がこれまで依拠してきた価値や原則に基づく国際秩序は揺らぎを見せている。このような時代だからこそ、古くからの友人であり、価値や原則を共有するメキシコとの連携は、日本にとって重要であり、国際社会の安定と繁栄を確保する上でも不可欠なものとなっている。

 今日、両国は戦略的グローバル・パートナーであり、その緊密な経済関係を土台として、環太平洋サプライチェーンの一翼を共に担う存在となっている。国際社会の課題解決にも共に建設的な役割を果たしている。しかし、両国には、まだその協力の地平を拡大する余地がある。

 厳しく複雑な国際情勢下において、「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序」を両国でしっかり守り、協力を拡大することで、「共に、さらに強く豊かに」なろう、これが私の最も伝えたいメッセージである。そのための取組として以下を提案したい。

より戦略的な経済連携の強化

 第一に、日本とメキシコの経済的連携をより戦略的に強化していく。経済関係は、二国間関係の重要な礎である。2005年に発効した日メキシコEPAや、2018年に発効したCPTPPの後押しもあり、両国間の貿易額は、二国間EPA発効前の2004年と比べ3倍以上に拡大した。また、メキシコの日系企業拠点数は5倍以上に増加し、中南米最多の1600拠点以上となった。これらの日系企業は、雇用創出、人材育成及び技術移転等を通じて、メキシコ産業の競争力向上と地域経済の発展に大きく貢献し、エネルギー事業や水処理事業への参画を通じて、メキシコ国民の生活の質の向上にも貢献している。

 世界経済が不確実性を増す中、日本にとってのメキシコの戦略的重要性は益々高まっている。厚みのある製造業基盤と若く優秀な人材は、メキシコの最大のアセットである。日本は、このようなメキシコの潜在力を高く評価している。両国がそれぞれの強みを持ち寄り、世界経済にも貢献し得る、より強靱なサプライチェーンを構築したい。

 両国経済の繁栄は、ルールに基づく自由で公正な国際経済秩序の存在を前提とする。他方で、近年、恣意的な輸出入規制を始めとする経済的威圧や非市場的政策・慣行を通じて過剰生産された製品が市場を席巻し、こうした国際経済秩序への脅威となっている。

 日本は、メキシコと、WTOやAPEC、G20等における連携を強化し、ルールに基づく自由で公正な国際経済秩序を共に支えていく考えである。また、CPTPPの枠組みにおいても、メキシコと引き続き連携し、幅広い分野をカバーする、高い水準の共通ルールの拡大にも努めていく考えである。

科学技術分野における協力強化、共に世界の最先端

 第二に、科学技術分野における協力を強化し、力を合わせ世界の最先端を歩んでいく。このために、日本とメキシコは、デジタル・サイバー・AI、宇宙、クリーンエネルギーといった最先端分野においても協力の裾野を広げていく。これらは成長産業であるだけでなく、社会課題の解決や産業高度化、将来の競争力を支える基盤である。両国は、これらの分野における連携を深めることで、次世代の成長を共に創出することができる。

 STSフォーラム中南米カリブ地域ハイレベル会合や日メキシコ学長会議開催の実績もあり、両国で科学技術協力を深化させるための基盤は既に整っている。

 AIエコシステム構築における協力も有望である。日本は、各国の言語や文化の独自性が反映された信頼できるAIの開発に取り組んでいる。社会課題解決や人材育成等に資する、「信頼できるAI」の社会実装に、メキシコと共に取り組みたい。

安全安心な暮らしに着目した共通課題への対応

 第三に、日本は、メキシコ、さらには中南米地域において一層安全安心な社会を形成していくために貢献していく。

 これまでも、日本とメキシコは、人々が安心して暮らせる社会を築くための協力も着実に積み重ねてきた。

 気候変動は、世界各地で異常気象を激甚化・頻発化させ、人々の生命や暮らしを脅かしている。ともに地震や台風・ハリケーンをはじめとする災害大国である両国は、長年にわたり災害に強い社会づくりのため協力してきた。日本は、今後も、メキシコをはじめとする中南米・カリブ諸国とともに、日系企業の知見も活かしたインフラ整備等を通じて、災害へのレジリエンス向上に努めていく。

 また、両国は、これまで20年以上に亘り「日本メキシコ・パートナーシップ・プログラム」を推進し、中米カリブ地域全体の開発課題解決に貢献してきた。引き続き、移民・難民、ジェンダー等の地域の優先課題に協力して取り組んでいく。

 メキシコや中南米諸国が長年取り組んできた国際組織犯罪や薬物密輸等の課題は、地域や国際社会が連携してこそ根本解決が可能となる。日本は、この分野におけるメキシコ及び国際社会の取組をしっかり支え、安全安心な社会の形成に貢献していく。

新たな時代の人的交流強化

 第四に、日本とメキシコの友好関係を支えてきた、人と人とのつながりを、一層強化していく。特に、日系人の方々は、現地社会の一員としてメキシコの発展に貢献するとともに、日本とメキシコを結ぶかけがえのない架け橋となってきた。両国関係の未来を担う若い世代にも着目している。日系人としてのアイデンティティに誇りを感じていただくと共に、新たな世代の日本への関心にも応えていけるよう努めていく。

 両国の若者が参加してきた「日墨戦略的グローバル・パートナーシップ研修計画」は、半世紀にわたり、両国関係に寄与する優秀な人材を輩出してきた。今後も時代のニーズに合わせてアップデートし、若い世代にとって魅力あるプログラムを提供していく。

 日メキシコ関係における文化交流の重要性も強調したい。両国は共に、多様性にあふれた魅力ある文化を有する。メキシコの料理や音楽、映画、色彩豊かな芸術に憧れる日本人も多い。漫画やアニメを始めとする日本発コンテンツもメキシコで人気があり、モンテレイで開催されたサッカーW杯日本対チュニジア戦では、多くのメキシコ人が日本代表を応援してくれた。双方の文化への敬意と尊重は、国家間の友情と信頼の基盤となる。こうした考えの下、相互の文化交流促進に一層取り組みたい。

国際社会に責任を有する主体としての連携強化

 第五に、国際社会において、日本とメキシコは手を携えてその責任を果たしていく。国際社会における不確実性の高まりに対し、日本はメキシコと共に、バランスの取れた国際・地域情勢認識に基づく建設的なメッセージを発信していく。気候変動、海洋、防災、軍縮・不拡散といった国際社会の課題への対応においても、責任ある対等なパートナーとして連携を深めたい。

 国連を中心とする多国間主義とグローバルガバナンスの維持・強化も重要である。国連の権威と実効性を高めるための安保理改革を含む国連改革は、もはや先送りできない喫緊の課題であるという点で両国は一致している。

結語

 来年は日本人メキシコ移住130周年、再来年の2028年には日メキシコ外交関係樹立140周年、そして、3年後の2029年には日本メキシコ交流420周年を迎える。記念すべきこれらの周年に向けて、以上の5つの取組にすぐに着手し、メキシコの皆様とともに、日メキシコ関係を新たな高みに引き上げていく決意である。


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