平成21年11月12日
11月11日及び12日、シンガポールにおいて、第21回APEC閣僚会議が開催された。我が国より岡田外務大臣及び直嶋経済産業大臣が出席(岡田外務大臣は11日のみ出席)したほか、APEC各エコノミーから外務大臣、貿易大臣等が参加した(シンガポールのジョージ・ヨー外務大臣及びリム・フンキャン貿易産業大臣が議長)。12日には、閣僚共同声明(骨子、仮訳、英文(PDF))が発出された。
議論の概要は以下のとおり。
(1)ラミーWTO事務局長より、ドーハ・ラウンド交渉の現状等について、報告があった。
(2)これを踏まえ、各エコノミーより、2010年のドーハ・ラウンド交渉妥結に向けた政治的コミットメントを遵守し、それを具体的かつ実質的な交渉につなげることが必要との指摘があり、APECとしても中身のある力強いメッセージを出すべきとの意見が大勢を占めた。保護主義的措置についても、これまでのコミットメントを守り、APECとしても具体的貿易措置を監視することが大切等の発言が行われた。
(3)岡田大臣より、2010年のドーハ・ラウンド交渉妥結に向けて時間的にギリギリの所にきており、レトリックではなく何ができるか真剣に考えるべきである、保護主義的な貿易関連措置の抑止が必要であり、また、途上国の多角的貿易体制への参画を促すことが重要であると発言した。
(4)直嶋大臣より、保護主義を抑制し、厳しい経済情勢から抜け出すためにも2010年中のラウンド妥結は重要であり、鉱工業品分野、非関税障壁、サービス、アンチダンピング強化を重視する旨発言した。
(1)2010年の先進エコノミーによるボゴール目標(注)達成評価のための作業計画について合意された。また、越境サービス貿易の円滑化等、地域経済統合に関する取組の進捗状況が確認されるとともに、アジア太平洋の自由貿易圏(FTAAP)構想の実現に向けた今後の取組について議論が行われた。
(2)FTAAPについては、これまでの分析作業を踏まえ、FTAAP実現のためのあり得べき道筋について検討を前進させることとなった。サービス、円滑化、原産地規則といった分野の進展が必要との発言もあった。
(3)また、原産地規則をより使いやすいものとするための原産地自己証明の有志実施グループ(我が国を始め7ヵ国が参加)の取組が称賛された。
(4)ビジネス環境向上のための優先分野の一つである資金調達(getting credit)において、日本が先導的役割(チャンピオン・エコノミー)を果たしていることが歓迎された。
(5)岡田大臣より、FTAAP構想の実現に向けたアプローチとして、分野別に可能な取組を一つずつ検討していくことも一案であり、具体的には、サービス、投資、貿易円滑化といった分野が候補としてあげられる旨、紹介した。
(6)直嶋大臣より、産業界の声に応える具体的方策を検討し、目に見える成果を出すため、1)省エネ家電等の標準化の推進、2)電子タグ標準化による物流効率化、3)知財分野での審査協力・人材育成を提案する旨、発言した。
(注)ボゴール目標:1994年11月、インドネシア(ボゴール宮殿)でのAPEC首脳会議にて採択された宣言において掲げられた、先進エコノミーは2010年までに、途上エコノミーは2020年までに、自由で開かれた貿易及び投資を達成するという目標。
(1)経済危機からの回復とその後の成長及び繁栄を確保する上で、APEC地域における長期的かつ包括的な成長戦略の策定が必要との認識が共有された。その重要な要素となる「あまねく広がる成長(Inclusive Growth):社会的側面への対応」や「持続可能な成長(Sustainable Growth):環境・エネルギー分野への配慮・取組」についてその重要性が確認され、来年に向けて成長戦略につき更に議論を具体化させていくこととなった。
(2)各エコノミーより、あまねく広がる成長については、中小企業支援、人材養成、マイクロ金融の重要性等について指摘があった。持続可能な成長については、イノベーションやエネルギー効率の改善、環境物品・サービスの重要性について指摘があった。
(3)直嶋大臣より、内需中心の成長を目指して中間層の活力に着目すべきである、中小企業の経営能力の向上や人材育成等に関する支援が必要である旨、発言した。また、各エコノミーに対して省エネに関するAPEC内での相互評価への参加を呼びかけるとともに、環境物品・サービス貿易促進作業計画を採択することや省エネ基準の導入促進等を通じて、成長する「緑の産業」の市場を域内で広げていくことへの意欲を表明した。
(4)岡田大臣より、社会の脆弱な層に手当てすることの重要性を指摘した。また、APECとしてCOP15の成功に向けて力強いメッセージを発出することが必要である旨述べた。その上で、明年の議長として、2011年議長である米国ともよく連携して、地域の進むべき新たな目標を示していけるよう、指導力を発揮したい旨、決意を表明した。
APECにおける経済・技術協力活動を強化するための議論が行われ、目的がより明確で戦略的な多年度の能力構築プログラムが必要であるとの認識が共有された。我が国が中心となり、本件活動の強化に向けた指針の作成や運営の見直しが行われてきていることが評価された。
(1)APECにおけるテロ対策、貿易の安全、保健、食料安全保障、腐敗対策、緊急事態への備えに関する取組の主要な成果について議論が行われた。
(2)特に、APECにおける食料安全保障の取組の重要性を指摘する発言が多く、明年我が国が開催する食料安全保障に関する農業大臣会合への期待が表明された。
(1)2010年1月から新たに専任事務局長として就任するヌール・ヤコブ氏が紹介された。また、APEC広報戦略の実施状況について、事務局より報告が行われた。
(2)直嶋大臣より、同事務局長就任を歓迎するとともに、APECと他の国際機関、特に、東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)との協力の推進の重要性を指摘した。
(1)直嶋大臣より、明年は、本年の成果を踏まえ、地域の更なる一体化と経済危機後の安定した成長に向けた新たな目標を示し、APECの活動を強化したい、日本APECのテーマは新たな地平を開くとの意味で「チェンジ・アンド・アクション」とした、との諸点を述べた。
(2)また、鳩山総理によるビデオメッセージが放映され、日本APECでは気候変動、エネルギー問題、社会問題、人間の安全保障といったAPECが抱える新たな課題へ共に取り組んでいきたいとの総理の意思が表明された。
1.WTOドーハ・ラウンド交渉を野心的かつバランスのとれた形で2010年に妥結させるとの決意が閣僚間で改めて確認されるとともに、APECとWTOとの協力強化への意思、今月末から開催されるWTO閣僚会議への支持が表明されたことは、国際社会に向けた力強いメッセージとなった。また、APECとして保護主義へ対抗するコミットメントを遵守するための取組の継続が確認されたことも、有意義であった。
2.経済危機によって明らかになった経済・社会面等への対処を含め、APECを更に意味のある枠組みとして強化する上で、我が国がAPEC議長を務める明年は、極めて重要な機会。シンガポールが主催する本年のAPECは、それに向かう貴重な基礎を提供する場となった。各エコノミーからも、明年の日本のリーダーシップに対する強い期待が表明された。2011年に議長を務める米国も、日本との連携の重要性を強調していた。本年から日本APECに繋がる主要な論点は以下のとおり。
(1)2010年の先進エコノミーによるボゴール目標達成評価のための作業計画について合意がなされたことは、同評価プロセスの重要な一歩。我が国は、同作業計画に従い、透明で信頼性のあるプロセスを進めていく。
(2)FTAAP構想の実現のためのあり得べき道筋について、2010年に検討を前進させるよう、事務レベルに指示がなされた。我が国は、FTAAP構想の将来像やこれに至るあり得べき道筋に関する議論をリードしていく。
(3)経済危機からの回復と中長期的な成長の確保に向けてAPEC全体としての包括的かつ長期的な成長戦略の策定が必要であるとの認識が共有された。明年、我が国は、本年の議論を深化させ、あまねく広がる成長、持続可能な成長、更にはイノベーションや革新的な成長の可能性も視野に成長戦略を策定するためのプログラムの具体化を図るための作業をリードしていくこととなる。
(4)経済・技術協力の重要性が改めて共有され、我が国が中心となって進めている改革の方向性に賛同を得られた。我が国は、引き続き、より効果的かつ充実したプログラムの実施に向けて中心的な役割を果たしていく。
(5)食料安全保障のための農業大臣会合を開催することを含め、APECにおける人間の安全保障の推進に関する我が国の役割についても、期待が表明された。
Adobe Systemsのウェブサイトより、Acrobatで作成されたPDFファイルを読むためのAcrobat Readerを無料でダウンロードすることができます。左記ボタンをクリックして、Adobe Systemsのウェブサイトからご使用のコンピュータのOS用のソフトウェアを入手してください。