
町村外務大臣の訪中
(日中外相会談)
平成17年4月17日
17日午後、北京訪問中の町村外務大臣は、約3時間半にわたり、釣魚台五号楼において、李肇星(り・ちょうせい)外交部長と日中外相会談(夕食会を含む。)を行ったところ、概要以下のとおり。(日本側:阿南在中国大使、佐々江アジア大洋州局長他、中国側:武大偉外交部副部長他同席)
1. 現在の日中関係(含む中国でのデモ活動)
町村大臣
- 今次日中外相会談は極めて重要。日中関係改善の契機とするために自分(町村大臣)は訪中した。自分(町村大臣)は、訪中前に、小泉総理から「日中友好の大局に立ち未来志向の観点からよく話し合ってほしい」との気持ちが示されている。
- 本日空港から会場に至るまでの中国側の厳重な警備に感謝。しかし、三週間連続して、大使館、邦人企業、邦人に対して破壊活動・暴力的行為が行われたことについて極めて遺憾であり、深く憂慮している。中国側は国際ルールに基づき誠実かつ迅速に対応してほしい。
李部長
- 中国側も今次日中外相会談は重要な会談と考えている。中国政府・人民は一貫して日中関係を重視している。(毛沢東、周恩来、トウ小平の言葉を引用しつつ)中国指導者は日中関係を守るため積極的な努力を行ってきた。これからも「歴史を鑑とし、未来に向かう」との精神で日中関係を進めていきたい。
- 中国政府はこれまで日本国民に対して申し訳ないことをしたことは一度もない。現下の問題は日本政府が台湾問題、歴史問題、国際人権問題等で一連の中国国民の感情を傷つけたということである。デモについては、中国政府は如何なることも法律に基づいて処理するという精神を維持している。同時に、この根本原因を日本側がはっきりと認識されることを期待する。
町村大臣
- 本件についてはこれまで累次申し入れており、自分も王大使に陳謝、損害の賠償、再発防止を申し入れている。日本側としてデモ行為自体を否定しているわけではない。しかし、それに伴う破壊行為は、如何なる理由であれ認められない。
李部長
- 中国政府は、一部の民衆がデモの際に行った行為を重視し、法律に基づいて処置している。過激な行為は認めない。法に基づいて処理していく。中国の公安当局は、中国の日本人・日本企業・日本の公館の安全を確保し、拡大防止に努力している。これからもそのような措置を講じていきたい。
2. 日中関係全般
(1)総論(含む歴史認識)
町村大臣
- 3月の全人代終了後、温総理が対日関係について「三つの原則」「三つの提案」を述べたが、これを日本側としても注目。日中関係を重視する温総理の意欲を評価する。その中国側の発言に応えるつもりで自分(町村大臣)は今回訪中した。今後日中間の協力を深め促進していく必要がある。
- 例えば、「日中両国は共に国際平和と繁栄の道を歩む」「お互いの経済発展はお互いにとって好機であって、これは脅威とはみなさない」「日中間の共通利益の拡大を図っていく」という共通認識をもって、今後日中関係の改善に取り組んでいくべき。
李部長
- 町村大臣の発言に賛成する。日中関係は現状をこのまま放置すれば、あるべき方向からそれてしまうかもしれない。国民感情は悪化しており、これを止めなければならない。中国側としても、積極的な方向に向けて歩み寄っていくことが大事であり、関係改善の願望と誠意がある。日中関係が一日も早く苦境から抜け出すために双方が努力したい。
- 昨年、胡錦濤国家主席及び温家宝総理は小泉総理との会談で、平和共存、世々代々の友好、互恵的な経済関係、日中の共同発展を強調した。全人代終了後の温家宝総理の発言は、日中関係改善のための明確なシグナルである。しかし、日本側は、歴史認識の問題及び教科書検定結果により、中国人民の心を深く傷つけた。
町村大臣
- 日中関係を改善する気持ちがなければ今回訪中していない。日中両国の歴史は、二千年の交流の歴史があり、戦争の歴史はそのうちの50年だけである、そして戦後60年の平和発展の歴史がある。歴史を回顧する際はこの3つをよく見るべき。
- 日本政府の先の大戦にかかる歴史認識は平成7年内閣総理大臣談話のとおりである。中国との間でも、日中共同声明、日中平和友好条約、日中共同宣言を通じ、日本政府の認識を表明。
- 日本は過去の戦争を厳しく教訓として受け止めているからこそ、戦後、平和と国際貢献を堅持し、対外的に武力を行使したことは一度もなく、戦後60年の歩みには誇りと自信をもっている。江沢民国家主席(当時)も訪日した際に戦後の日本の成功と平和的な発展について評価していた。
- 様々な立場で書かれた教科書があり、国と国との間で歴史の共通認識を形成することは益々難しい。しかし、それを近づける努力をすることは重要。(日韓歴史共同研究に言及しつつ)日中間でも歴史共同研究の可能性も検討すべき。
(これに対し、李部長は「大変重視する。今後前向きに双方で検討したい」旨述べた。)
(2)「日中共同作業計画」の策定
双方は、「日中共同作業計画」の策定をエンドースし、計画内容を一層充実させるために努力することで一致。
町村大臣
- あらゆるレベルにおける交流拡大の観点から、アジア・アフリカ首脳会議の際に日中首脳会談を実現させたい。また、愛・地球博の「チャイナ・デー」(5/19)の機会に、呉儀副総理が訪日することを歓迎。万博期間中の温総理の訪日を招請(小泉総理から温総理への親書を手交)。
李部長
- 中国側としても日中首脳会談の実現を重視。胡錦濤国家主席に早急に報告して進めたい。また、呉儀副総理にも日本側からの歓迎の意を報告する。
- 両国の首脳交流を進めていきたく、その実現のための雰囲気を作ることが重要。今次町村大臣訪中もこの交流の一貫として捉えている。5月のASEMの際に自分(李部長)が訪日する際にも日中外相会談を行いたい。
- 「日中総合政策対話」(日中の事務次官協議)も早急に実現させたい。日中安保対話も実施したい。特に、政党間交流についても大いに進めていきたい。
- 新日中友好21世紀委員会の提言にあった「日中交流基金」については、中国側としても早期の実現のために前向きに検討中。文化交流・青少年交流を重視。今後、中国の高校生や公務員の交流、中国人留学生の拡大を促進したい。
3. 日中関係各論
(1)東シナ海における資源開発
町村大臣
- 東シナ海においては、海洋をめぐり、資源開発、海洋調査、境界画定といった様々な問題がある。日中間の協議は昨年10月から開催されておらず、これらの問題を協議するために5月中に日中協議を開催したい。その際には、資源開発に関する具体的な情報提供や中国側として共同開発を提起するのであれば同提案についても、より具体的な話を伺いたい。
李部長
- 日本側と緊密に連絡を取り合いたい。5月中の協議開催につき中国側も検討したい。
(2)対中ODA
李部長
- (町村大臣からの提起に対し、)対中ODAは互恵協力であり、日中間で既に達成された共通の認識に基づき「有終の美」を飾れるよう担当部門で協議を続けたい。
町村大臣
- 本件については、貴部長が欧州出張中に実施した電話会談の際に、緊密に協議していくことで一致した。対中円借款は大きな意義を有してきたものであり、日中両国がともに祝福する形で、円満に終了させる必要がある。引き続き事務レベルで協議させたい。
- 環境等の分野における技術協力や草の根無償、文化無償等、引き続き協力していくべき分野もあると考えられるので、協議していきたい。
李部長
- (町村大臣の発言に賛意を示した上で)対中ODAは中国の発展のために大きな役割を果たしてきており、感謝したい。自分(李部長)は中国の大学生と意見交換する際常に、SARSの際の日本の援助が世界の中で最大であったと説明している。
(3)遺棄化学兵器処理事業
町村大臣
- 本件を日本側として重視しており、これを加速化し、本年中に処理施設建設に着手したく、中国側の協力を得たい。
李部長
- 本件は歴史の問題であるとともに現実の問題であり、中国側としても重視している。中国としても、関連する国内法と国際法に基づき、日本側と協力しながら早期の解決を図りたい。
(4)その他(台湾・中国軍事費の透明性)
町村大臣
- (李部長からの提起に対し)日本側は、東アジアの平和と安定の観点から、EUの対中武器禁輸解除問題に関心を有している。中国の国防費の透明性向上が重要であり、日中安保対話を通じて議論を深める必要がある。
李部長
- 台湾問題は日中間の発展を阻害する問題の一つである。李登輝氏訪日等について反対する。
町村大臣
- 台湾に関する日本の立場は、日中共同声明のとおり。「二つの中国」「一つの中国、一つの台湾」との立場をとらず、台湾独立を支持しないことを何度も表明している。
李部長
- 日米は台湾問題を日米間の戦略目標とした。日本が軍事・安保分野で台湾海峡有事に巻き込まれないことを希望。日本側は「三つの文書」の原則を遵守してほしい。
4.地域・国際情勢
(1)北朝鮮情勢
李部長
- 北朝鮮情勢について、中国側は、六者会合の枠組みを継続し、朝鮮半島の非核化、問題の平和的解決を目指していくとの立場を堅持。中国は六者会合における日本の役割を大変重視しており、今後とも協力していきたい。
- 拉致問題に関する日本側の関心は承知。日朝間で妥当に解決されることを期待。
町村大臣
- 本件における中国の役割を評価している。北朝鮮による核保有宣言は国際社会にとっても衝撃であった。日本側としても引き続き努力していく。中国側においてもさらなる努力を払われることを期待。六者会合の早期再開、朝鮮半島の非核化のために、引き続き中国と協力していきたい。
- 拉致問題については、日本国内において北朝鮮側の不誠実な対応に怒りの声が強まっている。中国側の理解を求めたい。
(2)国連改革
町村大臣
- 過去の戦後の歴史を反省した上で日本の戦後がある。日本が平和国家だという評価が国際的にも確立している。日本としては戦後の歩みに自信があるからこそ立候補している。中国側も日本の戦後の歴史について理解をさらに深めてほしい。
- 国連改革、就中安保理改革について、中国側と緊密に協議していきたい。日本としては中国との協力を極めて重視している。
李部長
- 国連改革について、安保理改革を含め日中間のあらゆるルートで協議していきたい。
(3)東アジア地域協力
町村大臣
- 東アジア地域協力は日中両国にとって重要。本年12月には第1回東アジアサミットが開催される予定。同サミットは包含性が確保される必要があり、日中間でも対話を深めていきたい。
李部長
- 中国としても積極的な態度を有している。開放性の確保は重要。日中間で対話を進めていきたい。