平成19年4月9日
4月3日、インドにて開催された第14回南アジア地域協力連合(SAARC)首脳会議に出席した麻生外務大臣は、同日午前の開会セッションで日本政府代表としてステートメントを行ったほか、各加盟国首脳等と二国間会談等を行ったところ、概要及びとりあえずの評価以下のとおり。
(今次首脳会議には、日本のほか、米国、EU、中国、韓国が初めてオブザーバーとして参加。また、アフガニスタンが正式にSAARCに加盟した。)
(1)経済成長を続け、民主主義、自由、法の支配といった価値観を共有する南アジアを「自由と繁栄の弧」の中心と位置付けるとともに、各国との良好な関係の歴史を基礎に、南アジアの域内連携をエンカレッジしていく旨表明。具体的には、以下の三つの協力分野を表明した。
1)民主化・平和構築:ネパール及びブータンの和平・民主化プロセスを支援していく旨表明。(ブータンに対する初の円借款として、地方電化計画に36億円の供与を決定した旨、また、ネパールに関し、国連ネパール政治ミッション(UNMIN)へ自衛隊員6名を軍事監視要員として派遣した旨、それぞれ当該国首脳に伝えた。)
2)域内連携促進への支援:域内連結性(Connectivity)向上のため、SAARCにとって優先度の高いプロジェクトに対する支援を検討していく旨、また、SAARC共通の課題である防災分野で具体的支援を行う旨表明。
3)人的交流の促進:SAARC各国との青年交流促進のため、日本・SAARC特別基金に約700万ドルを拠出した旨表明。今後、学生によるインターン、日本と南アジアの青年実業家同士の連携促進等具体的事業の実施につき検討。
(2)なお、SAARC首脳会議は、4日、メンバー国のみの討議を行い、「ニューデリー宣言」を採択して閉幕した。同宣言では、connectivityの重要性につき確認したほか、広域運輸インフラの整備、SAFTA(南アジア自由貿易地域)の実施、貧困削減等のためのSDF(SAARC開発基金)、テロ対策等の分野における協力を推進していくことで一致した。また、南アジア大学、SAARC食糧銀行の設置等について合意したほか、イランのSAARCへのオブザーバー参加が承認された。
(3)今回、日本のほか、中国、韓国の外相がオブザーバー参加し、ステートメントを発表した。閣僚レベルでの出席を確保できなかった米、EUはステートメントの機会を与えられなかった。
(イ)シン首相より、麻生大臣の今般のSAARC出席は非常に歓迎される出来事である、SAARCにおける協力は日印間の「戦略的グローバル・パートナーシップ」の一部をなすものである旨発言。これに対し、麻生大臣より、インドは「自由と繁栄の弧」の中心(keystone)である旨発言。
(ロ)麻生大臣より、日印間では日本の進出企業が本年2月には480と、昨年の328から50%も増加しており、経済交流の進展が顕著である、先週、1,850億円の円借款の交換公文の署名を行ったが、貴国は4年連続で最大の円借款受け取り国となる、ODAを戦略的に活用したい旨発言。これに対し、シン首相より、インドが日本の円借款の最大受け取り国になったことについて改めて感謝申し上げたいとの発言とともに、インド幹線貨物鉄道輸送力強化計画につき日本側の協力を要請。麻生大臣よりは、引き続き積極的な検討を約した。
(ハ)WTOや国連等日印間での地域的・国際的課題における連携を確認した。
(ニ)ネパールに関し、麻生大臣より、国連ネパール政治ミッション(UNMIN)へ6名の自衛隊員を派遣した、引き続き日印間で協力していきたい旨述べた。これに対し、シン首相より、対話を通じた解決に向け、ネパールの指導者達が努力しており、国際社会としても協力していく必要がある、情報提供を含め日印間で緊密に連携していきたい旨発言。
(ホ)民生用原子力協力に関し、シン首相より、今後IAEAやNSGで議論されるとして、日本の支持を要請。これに対し、麻生大臣より、日本の立場は現在検討中である旨応答。
(ヘ)なお、麻生大臣は別途ムカジー・印外相と短時間意見交換した際、北朝鮮の人権状況決議に対するインド側の支持を要請した。
(イ)麻生大臣より、貴国が穏健かつ近代的なイスラム国家として安定的に発展することは、地域の平和と安定にとっても重要である、今年後半に予定される総選挙を始め、民主主義強化の動きを歓迎している、また、貴国が多大な犠牲を払いつつもテロとの闘いに取り組んでいることを評価しており、引き続きアフガニスタンの安定化に向け取り組まれることを希望する旨発言。
(ロ)麻生大臣より、昨年12月、インダス・ハイウェイ等総額230億円に上る円借款2案件につき署名が行われた、今後も支援を継続していきたい旨発言。アジーズ首相よりは、円借款の再開を評価する旨発言。
(イ)スリランカ和平に関し、麻生大臣より2点申し上げたいとして、強い側(スリランカ政府側)がより辛抱する必要がある旨、また経済的投資は紛争が解決し安定が得られた後に来るものである旨発言。また、日本として政治的関与はしないが、経済面で紛争解決に資する貢献はできるとして、中東における「平和と繁栄の回廊」につき説明。ラージャパクサ大統領より、LTTEというテロ組織が住民を脅かす等、非常に複雑な状況がある旨説明があり、引き続き、和平につき協力していくこととなった。
(ロ)麻生大臣よりラージャパクサ大統領に対し、本年度中の訪日を招請したところ、先方より感謝の意が示された。
(1)今次首脳会議は、我が国がオブザーバーとしてSAARCに参加する初めての機会となった。麻生大臣よりSAARC各国首脳に対し、「自由と繁栄の弧」の支柱をなし、民主主義の伝統を有する南アジアとの関係を重視するとの我が国の立場を、具体的な施策とともに直接伝えることができたことは大きな成果。
(2)各国首脳より、各国内の民主化・平和構築に関する努力が語られる中、麻生大臣より、我が国として民主化・平和構築を支援する姿勢を示したことは、各国の関心に合致した貢献となった。また、インドが主要議題として掲げた域内連結性(Connectivity)の向上につき、日本として優先度の高いプロジェクトを支援していく姿勢を表明したことは、SAARC側の期待に応えたものとなった。
(3)麻生大臣が行ったステートメントは、日本と南アジアとの友好関係の歴史に具体的に言及し(ブータンにおける「ダショー」西岡の功績、ジャヤワルダナ元スリランカ大統領の発言、我が国ODAのモルディブ「グリーン・リーフ賞」受賞等)、各国首脳・閣僚の琴線に触れることができた。
(4)二国間会談及び立ち話の機会を通じて、ほぼすべてのSAARC加盟国首脳と意見交換を行い、各国との協力関係を一層促進していくことを確認することができた。