科学技術

令和4年9月26日

 5月5日~6日、国連本部にて、第7回SDGsのためのSTIに関するマルチ・ステークホルダー・フォーラム(以下、STIフォーラム)がハイブリッド形式にて開催されたところ、概要は以下のとおりです。

1 全体概要

(写真1)STIフォーラムの様子 フォーラムの様子

(1)今次フォーラムには過去最多となる3,800名以上のオンライン参加登録がありました。33か国の政府代表が閣僚セッションに登壇したほか、公式セッションでは大学教授、研究者、技術者、国際機関、NGO、市民団体代表、企業、学生など多様なステークホルダー131名が登壇し、50のサイドイベントや関連行事も開催されました。ケネディ・ゴッドフリー・ガストン・タンザニア常駐代表とセルギィ・キシュリツヤ・ウクライナ常駐代表の二人が共同議長を務め、全体の議論をリードしました。

(2)今次フォーラムでは「新型コロナからのより良い回復と持続可能な発展のための2030アジェンダの完全な実施の加速化(Science, technology and innovation for building back from the COVID-19 pandemic while advancing the full implementation of the 2030 Agenda for Sustainable Development)」をテーマとし、新型コロナウイルス感染症拡大からの「より良い回復(build back better)」および特にゴール4(教育)、5(ジェンダー平等)、14(海洋資源保全)、15(陸域生態系保全)および17(パートナーシップ)を中心としたSDGsの達成に向けたSTIの役割が議論されました。なお、この5つのゴールは本年の国連ハイレベル政府フォーラム(HLPF)でのレビュー対象分野でした。

(3)日本からは、閣僚セッションで小林鷹之内閣府特命担当大臣(科学技術政策、宇宙政策、経済安全保障担当)が、ビデオメッセージを通じて日本国内でのSTI for SDGs推進に向けた取組や日本が推進するSociety 5.0の説明、他国への協力などを紹介しました。さらに、中田眞佐美滋賀大学国際交流アドバイザー・元エネルギー憲章事務局次長が初日の特別イベント1「グローバルな研究協力、資金調達、パートナーシップ」に登壇したほか、川合眞紀自然科学研究機構長、東京大学名誉教授(国連「10人委員会」委員)が特別イベント2「10人委員会による省察」に登壇し、2日目の特別イベント3「国別能力支援及びSTI4SDGロードマップのためのPartnership in Action」のモデレーターを務め、木村国連日本政府代表部大使が特別イベント3別ウィンドウで開く中川国連日本政府代表部公使がテーマ別セッション3「グローバル、ナショナル、ローカルなイノベーション・エコシステム」別ウィンドウで開くにおいて発言しました。

(写真2)スクリーンに映る小林内閣府特命担当大臣 小林内閣府特命担当大臣
(写真3)木村国連代表大使の様子 木村国連代表大使
(写真4)中川国連代表公使の様子 中川国連代表公使

(4)各セッションにおいては、COVID-19の影響により人々の生活を助ける科学技術がさらに発展した一方で、格差も生まれていることが指摘されました。例えば、途上国の女性を中心に世界のおよそ29億人は、いまだにインターネットへのアクセスがありません。「誰一人取り残さない」ためにデジタル技術の活用は重要であるものの、デジタル化に「取り残された」人々がおり、デジタルが世界の不平等の新たな一因となっていることも指摘されました。さらに、SDGs達成に向けた科学技術政策の国内方針を決める際には、多様なステークホルダーの関与と連携が重要である旨が随所で指摘されました。

2 SDGs分野に関する主な議論の概要

  • (1)ゴール4(教育)については、閣僚セッションでは、COVID-19からのより良い回復を目指したSTI活用として、オンラインでの学校教育や、ソーシャルメディアを活用した衛生啓発活動など、パンデミック中のSTI活用について言及した国が多く見られました。公式セッションでは、教育におけるデジタル面での躍進が評価されるとともに、途上国・低所得国と先進国との間、都市部と地方との間で見られる分断に懸念が示され、教育においては技術と人間が一体とならなければならないと議論されました。世界の分断化や、グローバル・サウスが技術発展から取り残されるという事態は回避しなければならないことが強調されました。ゴール5(ジェンダー平等)については、ジェンダー平等を中心にデジタル化を進め、女性や女児のためのデジタルツールに関する訓練を促進する国や、STI分野における女性の就労を推進している国が増えていることがわかりました。一方、STEM(科学、技術、工学、数学)分野で活躍する女性は未だ少数で、女性が直面する開発課題への一層の取組が必要であると議論されました。
  • (2)環境関連のゴールについては、特別イベント2「10人委員会による省察」にて、温室効果ガス実質排出ゼロ目標が脅かされている現状に警鐘が鳴らされ、川合国連「10人委員会」委員は、持続可能なエネルギー資源を確保するための技術革新の強化が急務であり、ポストコロナ時代の社会の分断を埋める努力が必要であると述べました。テーマ別セッション5「気候変動対策としての新たな二酸化炭素回収(CDR)技術」では、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)評価報告書(AR6)において2℃目標を満たすために必要であると初めて結論づけられたネガティブエミッション技術(大気圏から直接二酸化炭素を排除する技術二酸化炭素回収(CDR)技術)について議論されました。CDR技術地球温暖化を鈍化させ、様々な地域における排出量削減にもつながり、アグロフォレストリーやバイオ炭といった自然主体のものとドローンや通信衛星を用いた炭素モニタリングといったテクノロジー主体のものの2種類に分類されます。後者の多くが大規模な実用化のためのさらなる研究と投資、計画策定、国際協力を必要しており、国連の役割としてCDRやその他の新興技術が永続的に活用できるようすることであること、あらゆる関係者の関与を呼びかけ、CDRの重要性を引き上げることであると述べられました。
  • (3)ゴール17(パートナーシップ)については、特別イベント1「グローバルな研究協力、資金調達、パートナーシップ」にて登壇した中田眞佐美滋賀大学国際交流アドバイザーが、科学技術分野で有意義なパートナーシップを成功させる3つの鍵として、研究所や大学など技術面をよく理解しているパートナーを巻き込むこと・社会全体に関係する「良い科学技術(good science)」を取り上げること・パートナー間での信頼を醸成することが重要であると述べました。新型コロナウイルス感染症の拡大によって、人類がいかに相互に結びついているかがわかった今、SDGs達成に向け、科学コミュニティが団結して「開かれた科学(open science)」を実現することや、連携・イノベーションを通じて技術の前進が人々に幅広い恩恵をもたらすことが不可欠であるという意見が出されました。SDGs達成に向け、協力(特に南南協力)や連携の重要性が強調されました。

3 STI for SDGsロードマップに関する議論の概要

  • (1)2019年に開始したSTI for SDGsロードマップ作成のためのパイロットプログラム(対象国:インド、ガーナ、ケニア、エチオピア、セルビア、ウクライナ)についてのセッションが開催され、川合眞紀国連「10人委員会」委員がモデレーターを務めました。インドではSDGsのゴール2、3、6、7を重点分野とし、STI主流化に向けたパイロット州を選出済みであり、ガーナでは、多様な関係者の関与を得ながら保健、教育、産業に注力したロードマップの作成が進められており、セルビアではロードマップが作成され現在はアクションプランの実施に進んでいることが報告されました。川合委員からは、ロードマップ作成を成功させるにはどのSDGsゴールに焦点を当てるか決めることと、国内の様々なステークホルダーや他国との連携が重要であると述べました。木村国連日本代表部大使は、STI for SDGsロードマップパイロット国であるインド、ガーナへの日本のこれまでの支援について言及し、ロードマップ作成関係者向けの能力開発が重要であるとして4月に発表されたUNDESA・UNITAR作成のEラーニングコースを好例として紹介しました。
  • (2)テーマ別セッション3「グローバル、ナショナル、ローカルなイノベーション・エコシステム」では、ケニアでは、特にSDGsのゴール3、4、6に注力した形でロードマップ作成が進んでおり、UNDP等の国内外の機関との連携を通じてイノベーション・エコシステムの強化に向けたマッピングを行っていると述べました。パイロット国の一つであるウクライナのクルケヴィッチ教育科学省科学・イノベーション局、イノベーション専門家グループ長は、STI for SDGロードマップ作成に向けた取り組みや、本年国内で立ち上がった科学とビジネスのプラットフォームを紹介し、今般のウクライナの危機からの復旧・復興にもSTIの活用が必要であると述べました。中川国連日本代表部公使は、日本によるインド・ケニアにおけるSTI for SDGロードアップ策定プロジェクトへの支援や地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)を紹介し、モデレーターを務めたホセ・ラモン・ロペス=ポルティージョ・ロマーノ国連「10人委員会」委員からは日本の貢献に対し謝意が述べられました。

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