寄稿・インタビュー
効果的な開発協力に関するグローバル・パートナーシップブログへの木原外務大臣政務官寄稿
知識共有・三角協力・包摂的なパートナーシップの重要性
平成26年6月26日
国際社会は2013年も多くの自然災害を目撃した。フィリピンでは11月の台風「ハイヤン」により1,600万人以上が被災し,死者・行方不明者8,000人以上の甚大な被害が生じた。台風やハリーケーンによってインド,メキシコを含む国々も多大な被害を受けた。またソロモン諸島,中国,フィリピンなどが大規模な地震に襲われた。このような自然災害によって,多くの貴重な人命が失われるとともに,長年にわたる開発努力が大きく損なわれた。
2014年4月にメキシコシティで開催された「効果的な開発協力に関するグローバル・パートナーシップ(GPEDC)」第1回ハイレベル会合のセッションで議論された「知識・経験の共有」や「三角協力」は,こうした自然災害に強靭な社会を構築し,人間の安全保障を促進する上でも,有益なツールである。
我が国がこれらのツールをどのように活用しているかについての具体例を紹介したい。2011年3月,我が国は未曾有の大震災に襲われ、死者・行方不明者は約2万人,全壊した家屋約13万戸,発生直後の避難者数約47万人という甚大な被害を受けた。
そのような中,岩手県の海岸沿いのある小さな村では,記録上最も高い規模の海抜40mの高さまで津波が押し寄せたにもかかわらず,家屋の被害はなかった。なぜか。1933年に津波の被害を受けたその村は,石碑の形で津波の被害を記し,どこに,どのように家屋を建てるべきか,その知識・経験を後の世代に共有した。それにより,80年後,多くの命が救われた。
これは一つの集落内での,世代を越えた知見の共有であるが,同様に,ある国の災害の知識・経験が他国に共有されることで,多くの人命を守ることが可能であることを示すものである。我が国は,不幸にもこれまでに様々な自然災害に遭遇している。2015年3月14~18日に仙台で開催する第三回国連世界防災会議などを通じて知識・経験の共有を進めていきたい。

1933年に津波の被害を受けたその村は,石碑の形で津波の被害を記し,どこに,どのように家屋を建てるべきか,その知識・経験を後の世代に共有した。それにより,80年後,多くの命が救われた。(国土交通省東北地方整備局 津波被害・津波石碑情報アーカイブHPより)
我が国は,防災への取組みに,三角協力も活用している。1985年にメキシコで発生した大地震後,我が国は無償資金協力や技術協力を通じてメキシコ国立防災センター(CENAPRED)の組織・能力強化を行った。その結果,CENAPREDは中南米・カリブ地域における耐震建築,地震観測,市民安全確保等の防災対策を推進する中核センターへ成長した。
2001年にエルサルバドルで地震が発生した後,日墨は、これまでの協力をもとに,エルサルバドルにおいて耐震普及住宅モデルを確立・普及する合同プロジェクトを開始した。日本が機材供与や専門家派遣を行い,メキシコが自国の知見や日本との協力経験をもとに,技術を効果的に適用させるための支援として専門家を派遣し,日本とメキシコの強みを効果的に生かしあうことができた。
我が国の40年に及ぶ三角協力で,第三国での研修に参加した人々は,約6万人にのぼる。三角協力のチャンピオンとして,今後とも,三角協力の推進に貢献していきたい。
GPEDCメキシコ会合では,包摂的なパートナーシップの理念の下,多様化する開発途上国の課題に対応する手段として,「知識・経験の共有」や「三角協力」に加え,民間との連携の重要性にも焦点が当たった。途上国の持続的な成長のためには,ODAでインフラ整備を行い,それが民間投資を呼び込み,雇用を創出し,収入を上げ,更なる投資を招くとの好循環を作ることが重要である。
しかしながら,こうした途上国での民間投資においては,投資の経済的利益をできるだけ多くの人々が享受できること,投資を通じて,経済変動・気候変動・自然災害等に対する社会の抵抗力が向上すること,そして,投資促進のための現地の人々の能力構築が促されることといった人間中心の視点が重要である。
現在,我が国では,ポスト2015年開発アジェンダなどの国際的な議論や,ODAに求められる役割の多様化等を踏まえ,我が国の開発協力をさらに進化させるべく,その柱であるODA大綱見直しについて議論を行っている。大綱の改訂では,開発の効果を最大化するためのパートナーシップの形成という観点から,様々な主体との連携強化の重要性を強調したいと考えており,それは正にGPEDCの精神と軌を一にするものである。
開発課題への対応のためには多様な主体との連携が不可欠である。そのような連携を強化する上で,GPEDCが今後も重要な役割を果たしていくことに期待したい。