軍縮・不拡散

第20回国連軍縮会議inさいたま(概要と評価)

平成20年9月

1.概要

(1)8月27日~29日まで、さいたま市の浦和ロイヤルパインズホテルにおいて、第20回国連軍縮会議inさいたま(国連主催及び外務省、さいたま市協力)が開催され、16か国からの政府関係者、有識者、マスコミ関係者及び国際機関からの出席者等約87名が出席した。国連からは、ハナロア・ホッペ軍縮部長兼軍縮担当上級代表次席他が出席し、我が国からは、柴山外務大臣政務官が政府を代表して歓迎の挨拶を行い、樽井軍縮会議日本政府代表部大使、天野ウィーン国際機関日本政府代表部大使、佐野軍縮不拡散・科学部長等が出席した。また、来賓として川口元外務大臣が、本年日本政府及びオーストラリア政府の共同のイニシアティブとして立ち上げることとなった「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会の展望」について発言した。

(2)国連軍縮会議は、1989年より毎年我が国の地方都市で開催されており、さいたま市での開催は今回が初めて。今回は「核軍縮、核不拡散と原子力エネルギーの平和的利用:傾向と課題」をテーマとして、各全体会議において様々な観点から議論が行われた。

2.評価

 内外の軍縮・不拡散専門家、外交官、マスコミ関係者等が集い、軍縮・不拡散等について幅広い議論を行った。今回の会議は、(1)軍縮・不拡散専門家が一堂に集い、現在直面している軍縮・不拡散上の問題について議論を深めたこと、(2)我が国による軍縮・不拡散に対する積極的姿勢を示したこと、(3)公開の会議であり、さいたま市内中学校生徒も傍聴に訪れるなど、市民の軍縮・不拡散に対する意識を高めたことなどで、多くの意義があり、多くのメディアにも取り上げられた。

3.会議の内容(抄)

 各会議における発表及び議論の概要は以下のとおり。

(1)柴山外務大臣政務官による歓迎の挨拶

 柴山昌彦外務大臣政務官は、開会式において日本政府を代表し歓迎の挨拶を行い、核軍縮・不拡散をめぐる近年の国際情勢について言及するとともに、本年我が国が議長国として議論を主導した北海道洞爺湖サミットにおける軍縮・不拡散分野における成果やCTBT発効促進を始めとする我が国の軍縮・不拡散に関する取組を紹介するとともに、会議開催に尽力した国連軍縮部やさいたま市の関係者に感謝の意を表した。

(2)川口元外務大臣による歓迎の挨拶

 川口順子元外務大臣は、開会式において歓迎の挨拶を述べるとともに、本年7月に行われた日豪首脳会談の成果として、立ち上げが決定した核不拡散・核軍縮に関する国際委員会について言及し、同委員会の共同議長として2010年NPT運用検討会議の成功に向けた貢献を目指すとともに、斬新な発想力を持って困難な諸問題に取り組みたい旨の発言を行った。

(3)全体会議Ⅰ【NPT体制の課題と克服への取り組み】

セッション1「核兵器のない世界に向けた取り組み」

 佐野利男軍縮不拡散・科学部長からは、唯一の被爆国としての我が国の軍縮・不拡散政策について説明するとともに、核兵器のない世界の実現のため、現実的かつ着実な核軍縮努力が必要である旨の説明を行った。また、北朝鮮やイランの核問題に見られるとおり軍縮・不拡散体制は厳しい挑戦に晒されているが、一方で、キッシンジャー他米国の有識者がウォール・ストリートジャーナル紙に提言を行ったように、核兵器の廃絶に向けた注目すべき新たな動きがある点や、日豪両政府のイニシアティブにより立ち上げが決定した核不拡散・核軍縮に関する国際委員会等について言及した。

 クヌート・ランゲランド・ノルウェー外務省軍縮担当大使は、日本政府は、核軍縮において主導的な役割を果たしており、ノルウェー政府としては、日本政府が国連総会へ提出している核軍縮決議案の共同提案国となっている点は非常に喜ばしいことである。核兵器のない世界に向けて、我々はビジョンを持ち続けるとともに、高い政治レベルのコミットメントを醸成し、弛まない努力を継続しなければならない旨述べた。

 マーク・フィッツパトリック・国際戦略問題研究所上級フェローは、核拡散の懸念国は、不拡散の取り組みの次のステップとして、核軍縮の取り組みが必要ということを認識しなければならない。また、核兵器国が透明性を増した核兵器の削減を継続することは、核兵器廃絶に向けた共通認識を醸成させることとなる旨述べた。

 シルウィン・ギゾウスキ・CTBTO戦略調整担当特別補佐官からは、CTBTの検証制度の概要と現状について報告があった。特に、2006年10月9日の北朝鮮による核実験実施発表に際し、CTBTO準備委員会が暫定運用を行っている国際監視制度がデータの収集を行い、その有効性が実証されたことを強調した。

 ウラジミール・エルマコフ・ロシア外務省軍事戦略部長は、核兵器のない世界に向けて前進するには、全ての国が安全を享受し、世界全体の安定が確保されなければならない。またロシアは核廃絶にコミットしており、核兵器の使用の敷居値を下げることには反対であり、更なる核削減を行う必要がある。さらにキッシンジャー等による核廃絶提言については、ロシアのアプローチと一致するが、更なる明確化や議論が必要である旨述べた。

 また、議長を務めたエバンス元豪州外相は、川口元外相と自身が共同議長を務める核不拡散・核軍縮に関する国際委員会の設立趣旨に言及し、同委員会としては、核軍縮、核不拡散及び原子力の平和的利用のNPT三本柱の均衡の重要性を与えた上で、専門家の間でしか通用しない議論を避け、地政学や国益の観点からも真正面から議論することにより、国家指導者にも十分理解できるような付加価値のある提言を取りまとめていきたい旨述べた。

(4)全体会議I【NPT体制の課題と克服への取り組み】

セッション2「2010年NPT運用検討会議:合意の構築」

 ユルグ・ストレリ軍縮会議スイス代表部大使は、NPT体制を強化し、2005年のNPT運用検討会議の失敗を克服するためには、NPTにおける信頼を回復させることが重要であり、核兵器国及び非核兵器国間の信頼醸成を行うことが重要である。2010年NPT運用検討会議は重要であるが、我々は、2015年さらにはその先を見据えて努力しなければならない旨述べた。

 マルゲリータ・ラグズデール・アメリカ国務省国際安全保障・不拡散局大使は、ブッシュ大統領が本年7月に発表した「NPTは核不拡散に対する法的障壁であり、国際的な安全保障環境において多くの貢献をしている。米国がNPTをより強化するためのコミットメントを再確認する。」旨の演説を紹介した。また2010年のNPT運用検討会議の成果文書がコンセンサスで合意されることの重要性を主張した。

 ドン・マッケイ軍縮会議ニュージーランド政府代表部大使は、NPT6条の締約国による核軍縮交渉義務について、核兵器国はより誠実に義務の履行をコミットしなければならず、また非核兵器国が、核兵器国の核軍縮努力をさらに監視する必要性を主張した。また2000年の運用検討会議の成果等を踏まえ、2010年の運用検討会議がコンセンサスで成果を残せるよう努めなければならない旨述べた。

 ジャックリーン・カバッソ平和市長会議北米コーディネーターは、核兵器廃絶に向けた平和市長会議での取組みを紹介し、特に本年の2010年NPT運用検討会議第二回準備委員会の際に秋葉広島市長が発表し、2020年までに核兵器の廃絶をめざす「ヒロシマ・ナガサキ議定書」について説明し、同議定書はNPTを補足するものであり、締約国がNPTを強化し活力を与える原動力となるものである。核軍縮には、方法論ではなく政治的な意思が必要であり、政府による強い信念が必要である旨述べた。

 黒澤満大阪女学院大学教授は、核軍縮・不拡散体制の現状や、各個別課題への対応方法等について言及しつつ、2010年NPT運用検討会議の成功のためには、核兵器国と非核兵器国間のみならず、5核兵器国間の協力関係を強化する必要がある。核不拡散体制への挑戦を克服するためには、その効果とともに、その正当性を勘案しなければならない。また国際的な核不拡散体制を強化するためには、核兵器国がNPTの3本柱のバランスを維持した上で核軍縮を行うことが必要である旨述べた。

 ワリド・モハメド・アブドルナッサー駐日エジプト大使は、NPTの普遍化の重要性を指摘し、そのためには、IAEAの包括的保障措置の普遍化等が重要である。2010年NPT運用検討会議においてコンセンサス合意を得るためには、全ての締約国がバランスの取れた方法であらゆる問題について言及する必要がある旨述べた。

 エフゲン・クジミン駐日ウクライナ大使館参事官は、同国のイェルチェンコ・ウィーン代表部大使のスピーチ原稿を代読した。同大使は、本年の第2回準備委員会の議長を務めた経験を踏まえ、第1回及び第2回準備委員会の成果について言及し、2010年NPT運用検討会議の成功に向け、政治的意思を示し、NPTの信頼性を高めるための準備を行う必要がある。2010年の会議は国際的な軍縮外交を前進させる前向きな機会である旨述べた。

(5)全体会議II【原子力ルネッサンスと核不拡散】

 遠藤哲也元内閣府原子力委員会委員長代理は、近年の原子力ルネッサンスと呼ばれる現象、特に発展途上国の多くが、原子力発電を導入する機運が高まっている点を説明しつつ、他方、原子力発電には光と陰の部分があり、3S(核不拡散・保障措置、原子力安全及び核セキュリティー)を遵守することが最小限必要である。本件は、日本政府のイニシアティブにより、先の北海道洞爺湖サミットにおいても取り上げられた。今後も日本政府はIAEAと協力し、イニシアティブを発揮する必要がある旨述べた。

 タリク・ラウフIAEA渉外・政策調整室課長は、開発やグローバルなエネルギー供給保障の観点から、原子力に関する関心が高まる中で、核燃料サイクルに関する新しい枠組みが必要となっており、IAEAの場においても核燃料保障に関する議論が行われた。他方、本件は複雑な問題であり、エネルギー消費国や供給国との率直な議論を通じて十分時間をかけて取り組むことが必要である旨述べた。

 アントニオ・ホセ・ゲレイロ・ウィーン国際機関ブラジル政府代表部大使は、核燃料サイクルへのマルチラテラル・アプローチ(MNA)について述べ、IAEA事務局長より指名されたMNAに関する専門家グループにブラジル政府が参加したことは大変な名誉であり、ブラジルは、核燃料サイクル活動を多国間の管理に置くこの新たな構想を歓迎する旨述べた。

 岡崎俊雄JAEA理事長は、原子力エネルギーをめぐる国際的な状況について説明し、2050年には、全世界でのエネルギー需要は、現在の2倍となり、今後ますます原子力エネルギーが重要となる点を指摘した。また一方で核拡散の危険もあり、国際社会がNPTを基礎とし、追加議定書の普遍化等の検証措置を充実させなければならない旨述べた。

 天野之弥ウィーン国際機関日本政府代表部大使は、現在多くの国が原子力エネルギーの導入を検討しており、この原子力ルネッサンスは、我々に多くの可能性をもたらす一方、危険性を含んでおり、3Sの実施を確保することは、原子力エネルギーの持続可能な発展において、国際的な透明性と信頼性を確保する上で不可欠である。国際社会が3Sに対する共通認識を再確認するために協力して取組むことが必要である旨述べた。

(6)全体会議III【東アジアの安全保障と軍備管理】

 辛東益韓国外交通商部国際機構局長は、北東アジア地域における北朝鮮の核問題や六者会合の役割について言及し、朝鮮半島の現状は、我々にとっては、挑戦であるとともに好機でもある。北朝鮮の核問題に見られる挑戦を平和に向けた好機に変えなければならない。この地域においては、各国においてさらなる創造性や忍耐そして柔軟性が必要である旨述べた。

 陳凱中国外交部軍控司第4処処長は、北朝鮮の核問題については、協力の精神と忍耐により、六者会合の枠組みの中で重要な進展が見られたが、非核化のプロセスは容易ではなく、困難と複雑性を含んでいる。とりわけ、六者会合国の戦略的知見や現実的な措置のみならず、東アジア諸国の協力と理解が必要である旨述べた。

 小川伸一防衛省防衛研究所研究部長は、東アジア地域における核の先制不使用レジームに関し言及するとともに、北朝鮮の核問題について、六者会合の成功において必要なのは、米国、韓国、中国、ロシア及び日本が北朝鮮に対し、調和の取れた確固たる政策を実施することである旨述べた。

 趙全勝アメリカン大学アジア研究センター所長は、核軍縮と六者会合について述べ、特に北朝鮮の核問題における歴史的背景等について言及しつつ、今後の本件に対する中国政府のリーダーシップの重要性や六者会合国間の連携の必要性等について述べた。

(7)全体会議IV【市民社会との連携(軍縮・不拡散教育)】

 石栗勉京都外国語大学教授は、アジア太平洋平和軍縮センターの所長として、様々な国際会議の開催、とりわけ、過去19回の開催に携わった国連軍縮会議等の経験を踏まえ、軍縮・不拡散教育の重要性を指摘した。また、軍縮・不拡散教育に関し2002年に専門家により国連事務総長に提出された軍縮・不拡散教育に関する報告書の34の措置に言及し、軍縮・不拡散教育の推進のためには、教育対象を特定し、軍縮を市民に分かりやすく解説することが重要であり、市民社会やマスコミとの連携が重要である旨述べた。

 高橋一生国連大学客員教授は、軍縮・不拡散教育においては、市民社会がビジョンを持つことが重要で、またその推進のためには、まず概念を特定した上で、NGOが政府を巻き込んでリーダーシップを発揮することが重要である。その上で第三のステップとして政府や国連大学が中心的な役割を果たすことが必要である旨述べた。

 ジャックリーン・カバッソ平和市長会議北米コーディネーターは、「ヒロシマ・ナガサキ議定書」が果たす役割について言及するとともに、原爆被害の実相の継承が限定的にしか行われておらず、軍縮・不拡散教育における市民社会との連携も限定的であり、さらなる努力が必要である旨述べた。

(8)総括会議・閉会式

 ハナロア・ホッペ国連軍縮部長兼軍縮担当上級代表次席が、議長を務め、報告者がそれぞれのセッションでの議論を総括した。ハナロア・ホッペ上級代表次席は、今回の会議では、率直でオープンな議論が展開され有意義な会議となった。本年の会議での参加者の様々な意見を来年の会議に反映させたい。会議関係者の尽力に感謝する旨述べた。

 また、樽井澄夫軍縮会議日本政府代表部大使は、最後に日本政府を代表して、参加者、国連軍縮部及びさいたま市の関係者に対し感謝の意を述べた。また他の参加者からも様々な意見が出された。取り分け市民社会との連携について多くの意見が出され、被爆体験継承や、軍縮・不拡散教育における中学・高校レベルでの教育の必要性、また国連軍縮会議への大学生や教育関係者の参加の必要性等や本件会議の成果を共有することの必要性について言及がなされた。

4.サイドイベント

 本件会議に関連し、さいたま市の尽力により、「ヒロシマ・ナガサキ原爆写真展」や野口健氏の記念講演等様々な市民参加型のプログラムが開催された。取り分け、さいたま市立浦和高校が中心となって開催した高校生参加型のワークショップ「平和のためにジュネーブ条約を知ろう」では、25名の高校生が参加し、国連軍縮会議を傍聴するとともに、ワークショップにおいて活発な意見交換がなされた。

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