サイバー空間に関するブダペスト会議
平成24年10月10日
1.概要
- (1)10月4日から5日,ハンガリーにおいて,「サイバー空間に関するブダペスト会議」が開催された。本件会議は,昨年11月に開催された「サイバー空間に関するロンドン会議」のフォローアップ会合(同会合には山根前外務副大臣が我が国の代表として参加。)としてマルトニ・ハンガリー外相が主催し,60カ国の政府機関他,20の国際機関,民間セクター,学者,NGO代表など約600名が参加した。
- (2)我が国からは,今井外務省サイバー政策担当大使を代表として,内閣官房,警察庁,総務省,外務省,経済産業省及び防衛省から構成される代表団が参加した。各国からは,オルバーン・ハンガリー首相,イルヴェス・エストニア大統領,ヘーグ英外相,ビルト・スウェーデン外相,アダムスNZ環境相兼通信・情報技術担当相,パイロット印通信相などの政府代表のほか,アシュトン欧州連合外務・安全保障政策上級代表などの国際・地域機関代表,民間企業やNGO代表などが会議に参加するとともに,ビデオ映像によりクリントン米国務長官がスピーチを行った。また,小野寺KDDI会長がパラレルセッションでスピーチを行った。
- (3)会議は,「自由と繁栄のために信頼と安全を」というモットーの下で,プレナリーセッション及び5つのパラレルディスカッション等から構成され,サイバー空間における自由と安全保障の両立,開放性や透明性の重要性,マルチステークホルダーの重要性,サイバー空間における国際行動規範作りの促進,サイバー犯罪条約(ブダペスト条約)の有効性と締約国拡大,キャパシティ・ビルディングの必要性,サイバー空間における従来の国際法や国家間関係を規律する伝統的規範の適用,信頼醸成の促進などについて活発な議論が行われた。
2.会議における各国政府主要者の発言
- (1)今井外務省サイバー政策担当大使は,プレナリーセッション1におけるスピーカーとして,最近のサイバー空間における脅威の高度化・多様化や本年9月の我が国に対するサイバー攻撃などについて言及するとともに,サイバー犯罪やサイバー攻撃への対応に関するマルチステークホルダーを含む国際社会及び関係国間の協力の必要性,国家による過度な管理や規制を慎み,官民一体となって「開放性」や「相互運用性」を確保した情報の自由な流通を促進しつつ,安全で信頼できるサイバー空間を確保したバランスのとれたアプローチをとることの重要性について発言した。また,サイバー空間にも従来の国際法が当然適用されるとの基本的立場であるとともに,サイバー空間の安定的利用に資する内容を含んだ法的拘束力のない緩やかな行動規範の作成や「透明性の向上」及び「情報共有の促進」を重視した信頼醸成措置(CBM)の重要性,我が国がアジアにおける唯一の条約締結国であるサイバー犯罪条約(ブダペスト条約)の有効性と締約国の拡大等について述べた。
- (2)会議冒頭,マルトニ・ハンガリー外相は,サイバー空間の社会的・経済的側面の潜在力や自由・繁栄とセキュリティ確保のバランス,市民社会と政府との協調・協力,国際機関・地域機関の関与の重要性,サイバー空間での諸課題に対するグローバルな解決・協力,人材育成の必要性などについて発言した。
- (3)オルバーン・ハンガリー首相は,本会議が昨年開催されたロンドン会議以来の重要なマイルストーンであることを指摘しつつ,サイバー空間が国家の経済成長に欠かせないものであることやサイバー空間の安全を確保するための国際協力の重要性,自由やセキュリティ確保とプライバシー保護の両立の必要性,サイバー犯罪条約(ブダペスト条約)の有効性などについて発言した。
- (4)ヘーグ英外相は,サイバー空間が社会的・経済的成長の原動力になっているとしつつ,サイバー空間の「負」の部分に関する議論を積極的に行う時期になったと指摘し,マルチステークホルダーを対象の範囲としたサイバー空間における国際的な規範の必要性について発言した。また,その理由として,サイバー空間における紛争の可能性が現実性を帯びてきたこと,企業のみならず政府機関をも対象とした組織的なサイバー犯罪がより大きな脅威として現実に発生していること,そして最も大きな理由として,経済的脅威や安全保障上の脅威に対処するだけではなく,サイバー空間での開放性や自由を探求する国と国家管理を強めようとする国との意見・行動の相違が高まっていることを挙げた。また,国連の政府専門家会合等での国際行動規範作りの動きについて歓迎するとともに,キャパシティ・ビルディング・センター設立の発表や国家間のサイバーホットラインの設置の必要性についても言及した。なお,ヘーグ外相のスピーチは,国家がスポンサーとなったサイバー攻撃(State sponsored cyber attack)や犯罪,国家による表現の自由やプライバシーの侵害等,国家管理・規制について強く批判する等,前年のロンドン会議よりも踏む込んだ論調であった。また,アシュトン欧州連合外務・安全保障政策上級代表は,サイバー空間を国家の独裁的な体制により国民を抑圧するために使用することについて警鐘を促した。
- (5)他方,中国やロシアの会議参加者からは,会議全般を通じて,サイバー空間での国家主権の尊重や規制実施の必要性が強調された。また,人権を議論の焦点の一つにすることに疑問を投げかけるとともに,中国,ロシア,ウズベキスタン及びタジキスタンが国連事務総長宛に提出している「情報セキュリティ国際行動規範」を規範作りのたたき台とすべきであるという主張が繰り返し行われた。加えて,中国の会議参加者は,中国を含めた発展途上国では,未だインターネットインフラの普及が不十分であり,これらを普及させるためには国家の役割が大きく重要であり,かつ先進国が発展途上国に対して十分に援助すべきであるとの意見を主張した。
3.議長声明(抜粋)
- (1)クロージング・セッションにおける議長声明としてマルトニ・ハンガリー外相は,まず昨年からの進歩として,国連の専門家会合等におけるサイバー空間に関する行動規範作りの議論を評価するとともに,安全かつ回復可能な信頼できるグローバル・デジタル環境を構築するためのアジェンダを設定することが必要である旨を述べ,サイバー空間の恩恵の享受と基本的人権へのコミットメントを失うことなく,これらとサイバー空間におけるリスクの最小化の努力との適切なバランスをとることが重要であるとした。また,サイバー空間の経済的・社会的便益を認識し,人々の安全性とプライバシーを保護する場合を除き,サイバー空間での開放性が確保されつづけるべきであることを主張した。
- (2)また,本会議において一般的にコンセンサスを得た事項として,サイバー空間におけるマルチステークホルダー構造の重要性,幅広い人々がサイバー空間の潜在的恩恵を受けるためにブロードバンドとキャパシティ・ビルディングの必要性,サイバー空間の更なる発展のためには開放性が鍵であること,国際的な協力の必要性,既存(実空間)の法令や伝統的な規範はサイバー空間でも適用されること,継続的かつより包括的な対話の実施,次世代の議論への参加の必要性などを発表した。
- (3)その他,サイバー空間における表現の自由と結社の自由の重要性,サイバー犯罪条約の加盟国拡大,プライバシーとデータ保護の問題の取り扱いには透明性の確保が必要であること,サイバー犯罪に対処する原則としてのサイバー犯罪条約(ブダペスト条約)の価値及び国際協力の拡大について言及するとともに,声明の最後に,2013年の韓国会議において,より具体的な成果を達成すべく,ブダペスト会議において各課題を詳細に掘り下げることができたとの評価を行った。