
シンポジウム「平和と安全のための国際協調戦略」(概要)
2008年12月22日
12月1日(月曜日)、外務省主催にて、都内にて、シンポジウム「平和と安全のための国際協調戦略」が開催されました。同シンポジウムは、我が国が明年1月から国連安全保障理事会非常任理事国を務めることを踏まえ、国際の平和と安全に関する諸問題や、国連安保理のあり方、さらに我が国が国連安保理で如何なる役割を果たすべきかなどについて、海外からの有識者を交え議論を行うことを目的に開催しました。
シンポジウムでは、中曽根弘文外務大臣の冒頭挨拶(本文)に続き、緒方貞子国際協力機構(JICA)理事長が基調講演を行った他、ステッドマン・スタンフォード大学教授、ジョーンズ・ニューヨーク大学教授、カパンブウェ・ザンビア国連大使、キワ・アフリカ連合(AU)上級政務官、北岡東京大学教授、星野大阪大学教授等がパネリストとして出席するとともに、約100名の聴衆が参加して活発な議論が行われました。
1.緒方JICA理事長による基調講演(本文(PDF)
)の概要
- 緒方理事長は、21世紀においては、如何なる国家も外部からの影響や脅威と無関係でいることができないことは明白な事実としつつ、共存と国家安全保障という双方のニーズに応えることができる集団安全保障体制の構築が必要と指摘。大統領選挙を契機とする米国のリーダーシップの再構築や、国連安保理、G7/G8、ブレトン・ウッズ機構、地域機構等の既存の国際機関・枠組みの強化や再編が必要とした。
- また、「責任ある主権」、すなわち、国家は、自国民に対するものと同時に、他国及び他国の国民に対しても、その生命を危機にさらしたり不安定化させたりすることのないよう義務を果たさなければならないという考えが重要としつつ、この概念は、人々の保護とエンパワーメント(能力強化)を重視する「人間の安全保障」とも密接に関連しているとした。
- また、地域情勢としては、特に中東、アフガニスタン、イラクに関して緊急の注意と行動が必要とし、現代における「人々の間の戦争(war among the people)」に対処するためには、現地住民の支持を勝ち取ることが不可欠とした。
2.各セッションの概要
(1)第1セッション「現代の国際社会における脅威」
- ステッドマン・スタンフォード大学教授及びジョーンズ・ニューヨーク大学教授は、米国のリーダーシップ、国際協調のための組織の改変、国境を越える脅威への対処、中東地域の問題への取組に関し提言を行った自らのプロジェクトを紹介しつつ、自国民、他国、国際社会に対する各国の「責任ある主権」の重要性を特に強調した。
- 上杉広島大学准教授は、特にアフガニスタンの現状に関連してカルザイ政権の課題につき概説しつつ、警察をはじめとする治安維持能力や政府の統治能力の強化、及び国民和解の促進において、日本が役割を果たすことができるとした。
- 緒方JICA理事長はコメントとして、平和構築のあり方は紛争によって異なること、パキスタンとの国境地域を拠点とするタリバンの掃討のために効果的な軍事力の行使のあり方とは如何なるものかが課題であること、及び地域を対象とした紛争への対処が重要であることを指摘した。
- 質疑応答においては、「責任ある主権」と「保護する責任」との関係、G8を拡大することにより各国における人権問題への取組が弱まる可能性、問題を抱える国に対する支援の透明性の確保、「責任ある主権」の実施状況を判断する主体等について議論がなされた。
(2)第2セッション「国連安全保障理事会の機能とその可能性」
- キワ・アフリカ連合上級政務官は、国連安保理が十分に機能せず、アフリカ統一機構(当時)が大きな役割を果たした、「アフリカによるアフリカの紛争の解決」の例として、エチオピア・エリトリア紛争を概説した。
- 北岡東京大学教授は、元来国家間の問題を扱うことが想定されている国連において安保理が国内問題を如何にして扱うべきか、正義と平和を如何に両立させるべきか、選挙を実施した後に如何なるフォローアップを行うべきかという課題を指摘した上で、それぞれについて日本が果たしうる役割について議論した。
- カパンブウェ・ザンビア国連大使はコメントとして、スーダン・ダルフール問題に関し、国際刑事裁判所(ICC)によるバシール・スーダン大統領への逮捕状発布の可能性につき、アフリカの立場を説明した。
- 質疑応答においては、常任理事国が紛争当事者である場合の安保理の機能、安保理が機能しない場合の総会の役割、ソマリア沖海賊問題への安保理の対応等について議論がなされた。また、会場の大島賢三JICA副理事長(前国連大使)から、日本が前回安保理非常任理事国を務めた際に安保理の作業方法の改善において果たした功績について、明石康元国連事務次長から、スリランカにおける和平の仲介や復興・平和構築活動について、それぞれ報告がなされた。また、緒方JICA理事長より、OAUに代わったAUがアフリカの国内問題において果たしている役割を評価するとのコメントがなされた。
(3)第3セッション「21世紀の国連安保理と日本の役割」
- カパンブウェ・ザンビア国連大使は、日本は安保理において規範形成等について役割を果たすことができるとした上で、安保理改革は、安保理に対して求められている現代のニーズに応えることができる形で行われるべきであるとしつつ、議席数や拒否権についてのアフリカの立場を説明した。
- 高須国連大使は、安保理が近年扱う問題の範囲は拡大しており、地域情勢に加えて文民の保護や平和構築についても取組を進めている旨紹介した上で、安保理改革は、その代表性と実効性の双方を確保する形で実現することが重要としつつ、来年初めから開始される安保理改革に関する政府間交渉への決意を表明した。
- 星野大阪大学教授は、安保理非常任理事国を務める2年間は、「フロントライン」たるニューヨークでは、平和と安全の問題に関する安保理理事国としての責任を果たしつつ、その活動を各国にも伝えて協力を得ること、そして「ホームフロント」たる日本国内においても、安保理の活動に対する関心を高め、バックアップをすることが重要とした。
- 質疑応答においては、安保理改革のあり方や交渉の取り進めについて更に議論がなされた。また、カパンブウェ・ザンビア国連大使は、日本は他の多くの国よりもアフリカの見方をよく理解していると感じており、常任理事国にふさわしいと述べた。
- 最後に高須大使から総括として、日本は安保理理事国として自国の利益を追求することのみならず、規範形成等の国際的な利益を求めるとともに、カネ、モノ、ヒト、そして知恵を出すことが重要としつつ、議論を締めくくった。
3.伊藤信太郎外務副大臣によるレセプション
シンポジウム終了後、伊藤外務副大臣主催で、パネリスト、国会議員、実務者、学識者、在京大使館関係者等を招いたレセプションを開催した。同レセプションでは、伊藤副大臣が主催者である外務省を代表して、ステッドマン・スタンフォード大学教授がパネリストを代表してそれぞれ挨拶(本文)を行い、盛況のうちに執り行われた。
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