
シンポジウム
「平和構築の課題 ~平和維持と平和構築の有機的連携を目指して~」
(概要)
平成22年12月1日

12月1日(水曜日),国連大学ウ・タント・ホールにて,シンポジウム「平和構築の課題 ~平和維持と平和構築の有機的連携を目指して~」が開催されました。このシンポジウムでは,国際社会において,真の平和を達成するため,平和維持と平和構築を連携させて効果的に取り組む重要性が指摘されている中で,国連で行われている議論や現場で直面している課題を明らかにし,平和維持と平和構築の有機的連携のあり方や我が国の取組について議論することを目的として開催しました。冒頭,前原外務大臣より開会の挨拶が,続いて緒方国際協力機構理事長による基調講演があった後,国内外の学識者やジャーナリスト等のパネリストを迎え,延べ430名程度の聴衆の参加を得て,活発な議論が行われました。
緒方国際協力機構理事長による基調講演
これまでの国連を中心とした平和維持と平和構築の取組,国連難民高等弁務官の経験を踏まえ,人道援助と開発援助との間にあるギャップの存在やこれからの国連に役割等について基調講演がありました。ポイントは以下のとおりです。
- 国連を中心とした平和維持と平和構築の連携について,従来は休戦ラインの監視が主であったが,現在は紛争状況の緩和や平和構築の推進など多様化している。PKOの役割も様々になった。
- カンボジアやモザンビークでは,国連主導により和平合意から復興開発までうまく機能した。他方,その他の国・地域では,関係機関・政府間の調整の問題などにより限定的な成果にとどまっている事例も少なくはない。
- ルワンダ難民の一斉帰還の際には,開発援助機関が迅速に対応できず,UNHCRが住居建設等初期の復興支援にも対応せざるを得なかった。人道援助と開発援助の間にはギャップがあり,それを埋めるためには,双方のマンデートの問題,資金の出所問題への対応が必要と認識した。
- 大規模な平和維持・構築が必要なアフガニスタンでは,米国とNATOの役割が相対的に大きくなっている。同時に,同国政府が2001年のボン合意に基づく和平プロセスを着実に履行しており,復興開発でも主体性を発揮。長期の展開では,治安,開発ともに当事国の主体性がより重要となる。
- これまでの取組を踏まえ,国連の役割を見直す議論が必要。平和維持・構築では状況に即して多様な対応をとることが必要。小規模の国では国連による取組みが機能し易いが,大きな国では周辺地域・国や主要国による貢献も不可欠である。
第1部:平和維持と平和構築の連携~NYで今何が議論されているのか
ルロワ国連事務次長(PKO担当)
- 平和構築の挑戦は複雑である。様々な分野に及び,多くのアクターと異なるツールや国際支援の形態を含んでいる。平和維持は平和構築を支援するための一つの手段であるが,国連がミッションを配置している国において重要な役割を果たしている。国連PKOは,(1)当事国政府が国内関係者や国際社会との間でコンセンサスを確保することや政策を策定,実施する際に支援,(2)平和構築の課題の実施において国内・国際関係者との調整,(3)キャパシティビルディングへの取組を含む紛争直後期の課題を実施することにより平和構築に貢献。
- PKOに含まれる平和構築の任務の多くは安全と治安への支援及び政治プロセスへの支援であるが,任務の増大に伴い,法の支配,警察支援が含まれるようになっている。政治プロセスでは監視や選挙支援という任務に加え,国民対話や和解プロセスへの支援,移行政権や立法プロセスへの支援に拡大している。
- 過去20年間,平和構築は平和維持の不可分の一部であった。選挙,憲法作成,DDR,法の支配といった平和構築に関連した多くの課題に取り組んできた。
- 平和構築は基本的に政治プロセスであり,長期的プロセスでもある。特に制度構築は15年以上にも及ぶ。
- 平和維持から平和構築への移行には強い戦略が必要。特に移行が平和裡に行われるためには国内関係者間でベンチマークに合意することが重要。また,治安や司法を当事国政府に移行させるためには能力開発が重要。
タニン・アフガニスタン国連常駐代表
- アフガニスタンは,国連,NATOという2つの国際アクターが担う平和構築のユニークな事例。
- 同国の平和構築プロセスは,ボン合意の下での時期(2001~06年)とロンドン国際会議で合意された「アフガニスタン・コンパクト」の下での時期という2つの段階を経てある程度の進展が見られた。しかし,(1)タリバーン,アル・カーイダの同国からの一掃に失敗,(2)リソースについては,ISAFに十分な兵力が投入されず,国際社会からの支援額も不十分なレベルに留まった,(3)同国政府及び市民社会の能力,経験,資源が不十分,との重要な課題に直面した。
- 2010年7月のカブール国際会議により2014年までに同国政府に治安責任を移管することとなったが,軍事戦略だけでは和平プロセスは達成されない。成功のためには,(1)元兵士との和解と再統合,(2)敵対勢力にもアウトリーチ活動を行い政治分野への参加を促進,(3)地域協力によりテロリストの聖域をなくす努力,(4)国際社会とのパートナーシップの強化,という総合的なアプローチが必要。
- 同国における平和構築の挑戦は数多く,多面的。平和維持と連携しつつ,和解や治安部門改革の促進,強い機構の設立などにより平和の定着を図りたい。日本からの支援には深く感謝している。
サンク・南ア国連常駐代表
- 平和構築は紛争の根本的原因に取り組む政治的プロセスであり,多くのステークホルダーが関与する複雑なプロセスであり,持続的解決を目指す長期的プロセスである。
- 平和構築委員会(PBC)は2005年の設立後5年が経過したが,当初の期待に応えていない。PBC設立決議に基づき行ったレビューでは,平和構築の複雑さ,国家のオーナーシップ,平和維持から平和構築に時系列的に移行するとの思い違い,資源動員の緊急性,女性の役割の重要性,能力開発,開発の重要性,国連システム内及びNY・現地間の調整の重要性,世銀との関係強化等に焦点を当てた。また,安保理との関係強化の重要性についても指摘した。
- 平和維持と平和構築は分離したプロセスではなく,密接な関係を有する。PKO活動の初期の段階から平和構築が含まれるべき。持続的な平和の確保のためには,統合アプローチが有効。平和構築を成功裡に進めるためには時宜を得た資金拠出が重要。人々が「平和の配当」を享受することにより紛争の再発防止が可能となる。
- 質疑応答においては,安保理の平和構築への取組についての質問に対し,安保理の任務は国際の平和と安全を維持することであり,平和構築は重要である,どのような平和構築活動が必要かについて安保理が責任をもって示すことが重要である,結局はリソースの問題であり安保理が十分なリソースを平和構築に投入する意志があるかどうかであるとの説明があった。また,平和構築の資金面での地域社会支援,当事国の汚職問題への対応について議論がなされた。
第2部:現場の声から探る平和維持と平和構築の課題
シッディーク・スーダン人道問題担当国務大臣
- 現在,スーダンは南北包括和平合意(CPA)の最終段階にある。CPAとの関係で,来年1月に予定されている住民投票前の課題として,アビエを南北何れに帰属させるかという問題と同地域の投票有権者の資格問題を解決する必要がある。また,南北間境界線については現時点で80%に合意しているが,これを進めて確定する必要があり,特に南部にとって機微な問題である。軍の再配備についても解決しておく必要がある。
- 住民投票後の課題としては,先ず市民権の問題がある。南北に分離される場合,二重国籍とするか,或いは南北別々に国籍を付与するのかという問題である。次に国境管理の問題がある。経済交流が円滑に行われることが重要であり,また,乾燥期には北部住民が南部に移動することから人の移動の観点からも緩やかな国境管理が望ましい。他に石油管理の問題もある。
- 最近有権者の登録期間延長という措置がとられたが,1月の住民投票は予定通り実施されるべきである。また,政府は投票結果を尊重すべき。
- ダルフールではAU(アフリカ連合)と国連のハイブリッドのミッションであるUNAMIDが重要な役割を果たしており,治安は安定している。現在ドーハ和平交渉の最終段階にあり,近く最終合意に至ることを期待している。平和の配当を住民に提供することが今後の課題。
- 東部スーダン情勢も安定しており,平和維持から平和構築の段階に移行しつつある。
- 平和構築を成功させるためには包括的アプローチを取るとともに,問題の根源に対処することが重要。国際社会には支援のための資金の約束はするが実際の拠出は少ないという現状を改めてほしい。
- スーダンにはUNAMIDとUNMIS(国連スーダン・ミッション)の2つのPKOが設立されているが,PKOミッションの規模が大きいと活動の効率が悪くなる傾向がある。また,ミッションの要員が特権を悪用するケースも目立つ。現地での国連機関間の調整が不十分であり改善される必要がある。
ウイッ・ボリット・カンボジア外務国際協力省長官
- カンボジアは平和構築の成功例。過去にPKOを受け入れた国の中で,現在,唯一PKOへの要員派遣国である。日本からの寛大な支援には深く感謝している。
- カンボジアの人々が平和を享受できるように至ったプロセスを3期に分けることができる。最初のプロセスは大量の自国民を虐殺したクメール・ルージュ(KR)が敗走した1979年から1991年のパリ和平協定による内戦終結までの平和創造期,次のプロセスは国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)が活動していた平和維持期(1992~93年),最後のプロセスは平和の定着を目指した平和構築期であり,フン・セン現首相はKRを取り込んだwin-win政策を展開している。
- 平和とは,誰もが恐怖することなく暮らすことができることであり,右が実現されるためには,敵対勢力を全滅させるのではなく,相互の妥協によって全員で国造りを進めることが重要。
- 政治的安定が確保されることにより,開発に集中して取り組むことができた結果,紛争経験国の中ではカンボジアを開発面で最も成功した国家と認識している。
- 平和,開発,民主主義は相互に密接に関係。平和と安定が民主主義を促進し,民主的な機構が開発を促進する。
- 上記の3期のプロセスにおける我々の教訓としては,(1)紛争終結直後期において,国連は当該国とともに,国民の基本ニーズに合致し,紛争の原因の排除に繋がる平和の配当が提供可能な支援パッケージを策定する必要がある,(2)平和構築は平和維持と関連しており,和平プロセスにおいてできるだけ早期に開始することが重要,(3)平和構築には調整された国際的努力により支援された国家のオーナーシップと戦略が必要,等を指摘したい。
セルス国連難民高等弁務官(UNHCR)駐日事務所所長
- 紛争の形態が多様化しており,紛争から生ずる難民に対して人道的原則をもって対応することが困難になっている。また,PKOよりもソフトターゲットのUNHCR関係者が攻撃の対象となる等の問題にも直面。
- 近年は本国に帰還できる難民が以前の10分の1程度まで減少しており,避難先で半ば永住に近いような形で長期間暮らさざるを得なくなっている。再定住策が限られている中で,これに如何に対応するかが大きな課題。平和構築のための戦略に盛り込むべき。
- 旧ユーゴー,ルワンダ,コンゴ等でPKOの主要な任務の1つである文民の保護に失敗するケースが見られたが,これはPKOの信頼性にかかわる問題であり,文民の保護が確保されないと平和構築のプロセスに進むことは困難。
- 難民が近隣諸国に流出することに鑑み,平和構築は国単位で考えるのではなく,地域レベルで対応する必要がある。
- 人道機関と開発機関は現場において異なった活動をしている。人道面での活動資金がより早く提供されるメカニズムを検討すべき。本年6月のキルギスでの衝突事件の際,住居が破壊されたため帰還できない難民のために日本政府が住居の再建資金を迅速に拠出したのは一つの良い例。
山下国連広報センター所長(前・国連ネパール政治ミッション(UNMIN)政治部長)
- ネパールは現在壮大な政治的・社会的変革に乗り出している。2006年,ネパールでは,10年続いた紛争を終結させるための包括的和平合意が当事者間で結ばれた。この和平合意には,マオイスト及びネパール軍の民主化,元兵士の社会復帰,被害者への支援,社会経済的復興など平和構築の要素が含まれている。ネパール政府及びマオイストより,PKOではない形でのミッション派遣要請を受け,2007年,国連安保理は,政治ミッションであるUNMINの設立を決定した。
- UNMINは,(1)選挙のための環境作り,(2)停戦合意の監視,(3)戦闘員や武器の監視等を任務とする小規模政治ミッションであり,ネパール自身による平和構築の取組をモニタリングするという点で特異なミッション。(1)(2)は達成され,(3)は引き続き取り組まれている。
- UNMINの主たる成果は,選挙。2008年,制憲議会選挙が行われ,それまで反乱グループと考えられていたマオイストが勝利し,ダハール党首が首相に就いた。しかし,1年で首相が辞任するなど,未だ政治的に安定していない。
- (3)について,全国約30ヶ所にあるマオイストキャンプ内で,マオイスト自身が武器を納めた格納庫の鍵を持つという形で武器の管理を行っており,UNMINはこれをモニタリングしている。同時に,中立的立場から,ネパール軍についてもモニタリングしている。
- UNMINに与えられた任務と,当事者が国連に寄せた期待との間にギャップが存在。政治的停滞により,UNMINのマンデートは7回延長されてきている。現在,国連安保理は更なる延長に消極的であり,UNMINは2011年1月15日付で撤退を迫られている。空白を作らないようスムーズな移行ができるよう備えることが必要。
- ネパールの教訓として,(1)できるだけ早い段階で政治面での国連外交を始め,(2)当事者のニーズに応じた柔軟な対応,(3)平和維持と平和構築は包括的に取り組む必要あることが挙げられる。

- 質疑応答においては,平和構築を阻害する人々への対応策についての質問に対し,全ての利害関係者と話すことが重要であり一部のグループを排除してはいけないとの説明があった。また,個人として平和構築にどのように貢献できるか,について議論がなされた。
第3部:国際社会による平和維持と平和構築支援のあり方
ルロワ国連事務次長
- 今や平和維持は平和構築の不可分の一部と言える。両者は分離したプロセスではなく,時系列的に行うものでもない。
- PKOが平和構築に貢献できる主要な要素として,次の4点が挙げられる。
- (1)安保理による明確で達成可能な任務付与
PKOの任務は長期で広範な平和構築の努力を含めて作成される必要がある。PKOは平和構築の治安や政治的側面を重視しがちであるが,経済活性化や国家機構再建も同様に重要である。この観点から,安保理は平和構築の全てのアクターの役割と責任を明確にする必要がある。
- (2)任務に見合った資源の整備
PKOの任務は必要とされる資源に見合ったものである必要があるが,PKOミッションは目標を達成するための手段を欠いている場合が多い。例えばスーダンのダルフールでは必要なヘリコプターがない。資金面では,信託基金等のメカニズムを通じた資金拠出が有用である。平和構築には文民能力が要求されるが,国連は制度構築分野において文民能力のギャップに直面している。現在ギャップ・リストを作成しており,文民能力の国際レビューが国連の人的資源の強化に繋がることを期待。
- (3)国連内外のパートナーとの協力
持続的な平和にとって重要な経済活性化,基本サービス復興はPKOが主導するというよりは支援する分野である。雇用創出のための国際的支援も弱い。国連パートナー,国際金融機関等との協力,調整なしには一貫した平和構築戦略を策定,実施することは困難であろう。
- (4)平和構築への円滑な移行
PKOの任務は政治的なものであり,定量化は難しい。どの時点でPKOを縮小,撤退するかが問題となるが,何らかのベンチマークの下で評価することとなろう。

- 日本の貢献策として,資金拠出に加え,自衛隊の工兵派遣がインフラ再建にとって効果的。かつてのカンボジア,東ティモール,現在のハイチへの派遣に対して感謝するとともに今後とも継続した派遣を期待。また,法の支配に焦点を当てた広島平和構築人材育成センターにおける文民トレーニングも大きな役割を果たしている。また,日本は主要なODA拠出国としてドナー間の調整の面で貢献できよう。
池田朝日新聞社経営企画室主査
- 平和維持後の取組については,平和構築,平和の定着,平和の支援など様々な表現があり,未だ概念的なゆらぎや混乱がある。
- 平和構築委員会(PBC)設立の際に,調整の段階で困難を伴った。今年PBCレビューが行われ,いくつかの問題を抱えていることが明らかになったが,これらは設立当初の困難を引きずっているといえる。PBCだけで平和構築ができるわけではないが,現在の平和構築アーキテクチャーをどのように活かしていくかが今後の課題であり,日本は,PBC誕生にあたり重要な役割を果たした。協議が夜遅くまでずれ込んだ際には「お寿司」を差し入れるといった細やかな心配りもあって,感謝されていた。引き続き,責任をもって見守っていく必要がある。
- 日本がPBC議長を務めていた際に,国連ファミリーだけでなく世銀やIMFも加えリトリートを行うなどコミュニケーションを重視した取り組みを行っていた。議長が交代し,こうした努力が続けられていないことは残念。
- メディアにとって,国連は重要なテーマ。まだまだ国連や安保理に対する理解が十分ではないことから,メディアに携わる者として,(1)平和構築は国家のレベルだけではなく,人間の安全保障を含めた個々人のレベルで取り組む必要性,(2)単に暴力がないというだけでなく,市民が理不尽な病気や怪我にならない積極的平和(positive peace)の重要性,(3)これらの問題に国連が力を入れて取り組んでいることを伝えることも求められている。
- 安保理は,第二次世界大戦後に設立されたという経緯から,歴史を背負っており,そのことが安保理改革が進まない一因ともなっている。過去において重要であり続けてきた国家間の安全保障だけでなく,これからと未来においては,PBCや人間の安全保障がいかに重要になりうるかを伝えることもメディアの大きな役割だろう。
宮島国連代表部公使
- 安保理非常任理事国になる前,日本はPBC第二代議長として,(1)PBCの認知度を向上させるための活動,(2)世銀や国際金融機関との関係強化や月1回の安保理議長との定例協議の制度化の開始等アウトリーチ活動,(3)若者の雇用など平和構築に係るテーマ別の問題についての戦略的な議論の実施等,付加価値のある活動を行い,国連における平和構築の議論に貢献した。
- PBCだけが平和構築を行っているわけではなく,PKOミッション,人道援助機関,開発援助機関も,それぞれの形で平和構築という広いコンセプトに貢献している。 PBCはニューヨークにおける平和構築の政治的フォーラムであり,資源動員の触媒としての役割を果たしている。PBCに対する期待と現実との間にギャップが存在する等いくつかの問題があるものの,レビューの結果を踏まえ,今のアーキテクチャーを活かす方向である。
- 安保理非常任理事国になってからは,日本らしさ,特に包括性及び透明性を重視して取り組んできた。具体的には,日本が安保理議長を務めた,2009年2月には東ティモールに関する公開討論を,2010年4月には平和構築及び安保理作業方法に関する公開討論を開催し,安保理以外のメンバーが広く参加する機会を設けた。また,PKO作業部会議長として安保理と要員貢献国との関係強化に務め,文書手続作業部会においては,PBC国別議長と安保理との対話を明文化するなど,安保理が開かれた場になるような取組に貢献してきた。
- 日本は,今後とも,平和維持,平和構築に積極的に取り組んでいく考え。国連においては,日本に対し,財政面だけでなく,工兵など人の貢献やヘリコプター等機材面についても期待が寄せられている。日本らしさを発揮できれば世界に貢献できると考えており,そのためにも,日本は安保理常任理事国入りすべき。
- 未来の平和構築の担い手として,文民の役割は重要であり,今日の聴衆の方々,日本の学生,邦人職員の活躍に期待している。
- 質疑応答においては,「人間の安全保障」の理念の国連での定着度についての質問に対し,PKOの任務の中に文言は入っていないがその理念は含まれている,日本だけでなく,各国の同理念への認識は深まっているとの説明があった。また,平和構築における日本らしさについて,受入国のオーナーシップを優先し調和を重んじる伝統的な考えや,「人作り」重視,非核,経済力・技術力などが挙げられる,日本で平和構築というと非軍事的な面が強調されがちだが,PKOを含む平和構築における分野では,軍人,警察官こそが主要かつ不可欠であり,この点を誤解しないことが大切との説明があった。さらに,平和構築への国連ボランティアの関与の可能性,平和構築分野での政府とNGOの対話の必要性等について議論がなされた。
まとめ(第3部モデレーター:星野大阪大学教授)

本日は紛争終結国において如何にダイナミックに平和維持と平和構築とを連携させ,持続的な平和を実現していくかについて多面的に討論した。平和の構築を目指す人々が将来に希望を持てるように互いに連携していくことが大切。
全体を通じて繰り返し指摘された点をまとめると,次の6点への理解を深めることが有益と思う。
- (1)平和維持,平和構築の連携については個々の事業の運用面や制度論・技術論的な側面からの視点で議論されがちだが,前提として平和維持・構築は政治的なプロセスであり,紛争の再発防止には政治決着や妥協を含め,根本原因にまで踏み込んで対応することが必要。
- (2)平和維持,平和構築を一体として実践に移すには,明確な政治的目的に基づく「統合戦略」が必要であり,その際,現地の当事者のオーナーシップと国際社会のパートナーシップに基づき,平和の実現に向けた相互の強いコミットメントを示すことが必要。
- (3)人材・資金・装備等のリソースのギャップ,国連本部と現場等のコミュニケーションギャップ,関心のギャップを乗り越えることが大切。
- (4)市民が平和を実感できるよう早期に「平和の配当」が提供されることが重要。これは,「人間の安全保障」のアプローチの推進とも密接に関わっている。
- (5)包括的,統合的,効率的に平和構築に取り組むための関係主体間の調整のさらなる改善とリーダーシップの重要性。安保理や平和構築委員会等の活動やさらなる改革が期待される。
- (6)日本の役割に対する感謝と期待。