平和維持・平和構築

令和8年7月9日

プロフィール

 慶應義塾大学法学部政治学科卒業、東京大学公共政策大学院修了。大学院在学中、パリ政治学院、ザンビア大学への留学、国際移住機関(IOM)東京事務所、IOMソマリア事務所(ナイロビリエゾンオフィス)でのインターンシップを経験。大学院修了後、米系戦略コンサルティング企業に入社し、国内外企業の中長期経営戦略策定、M&A、組織改革、新規事業計画などのプロジェクトに従事。その後、在ウガンダ日本国大使館経済協力調整員として国連・JICA案件(難民支援・緊急支援・インフラ)の管理に携わった後、平和構築人材育成事業に参加。本事業を通じ、UNDPマラウイ事務所にて平和構築・紛争予防プログラムオフィサー(Programme Officer- Peacebuilding and Conflict Prevention)として勤務し、National Peace Architectureの樹立を通じたマラウイにおけるI4P(Infrastructure for Peace)の実現に携わる。任期終了後、同事務所にてProject Coordinator – Conflict Prevention and Peacebuilding (IPSA-10)として契約締結し、2023年3月より勤務開始。

平和構築・開発におけるグローバル人材育成事業に応募した理由を教えてください。

 平和構築・紛争予防分野での経験を国連内部で積むことができる点を魅力に感じ、平和構築人材育成事業に応募しました。
 私が平和構築・紛争予防に関心を持ったきっかけは、幼少期の海外での原体験に遡ります。子どもの頃に初めて訪れた外国でアジア人への差別を目の当たりにした経験から、民族・宗教・言語といった異なるバックグラウンドを持つ人々の存在に関心を持ち、人々が争いなく暮らしていく社会の仕組みづくりに携わりたいという思いを抱くようになりました。その後、大学院でザンビア大学に研究留学し、現地調査の中で、政府の政策によって異なるアイデンティティを持つグループ間の格差を縮小することが持続的な紛争予防に寄与することを学びました。その頃から、途上国政府にガバナンスや政策提言の分野で支援を行っている機関として存在感のある国連機関で働き、紛争予防のガバナンス構築に携わる仕事がしたいと具体的に考えるようになりました。
 学生時代にケニアの国連事務所でインターンを経験し、国連で勤務するためには即戦力が求められることを実感しました。そのため、まずはプロジェクトマネジメントや定量・定性分析といった基礎スキルを身につけようと、新卒では外資系コンサルティング企業に入社しました。社会人2年目を過ぎたころから国連機関への応募は続けていたのですが、関連する分野での経験が求められることから、平和構築での現場経験に乏しい私は採用に至ることがありませんでした。そこで平和構築の現場経験を積むべく、海外研修のある本事業に応募し、UNVとして国連の現地事務所で勤務を始めました。

国内研修に参加した感想は?

 前述のとおり、国外研修としてUNVで勤務できることが私の主な志望動機でしたが、UNVとして勤務を開始した際に最も役立ったのが、国内研修で学んだ内容でした。国内研修ではUN Sustainable Development Cooperation Framework (UNSDCF)のフレームワークや、Theory of Change (ToC)の考え方、アクティビティ予算作成のシミュレーションなど、プロジェクト運営に必要な実践的な内容を学びました。これらの知識は、UNDP(国連開発計画(UN Development Programme))で勤務を開始した際に直接的に役立ちました。
 幸か不幸か、私が着任したときに私が担当するプロジェクトを管轄していたナショナルスタッフがマラウイ事務所を離れることになり、着任して1か月もたたないうちに、予算管理、アクティビティの計画・実行、調達、ドナー・政府関係者・国連機関との調整業務など、プロジェクト運営業務のすべてを担当することになりました。UNDP内部の業務プロセスを一から学びながらプロジェクトを進める必要があり、大きなチャレンジでしたが、国内研修で学んだ知識のおかげで、上司からの最小限の指示で業務を遂行することができました。もし国内研修を経ずに勤務を開始していたとしたら、同じようなスタートダッシュを切ることはできなかっただろうと思います。
 また、国内外の第一線で活躍されている講師の方々や海外研修生、同期の日本人研修生の方と密な時間を過ごせたことも貴重な財産でした。私が研修に参加した際は新型コロナウイルスの影響で入国制限があり、海外研修生はオンライン参加となったのですが、時差もある中で熱心に議論に参加する南スーダン、コンゴ民主共和国、ケニアなどの海外研修生の方々の平和構築への熱意に感銘を受けました。日本人研修生の方々も海外で多くの経験を積まれた方ばかりで、研修内外で世界各国の情勢や前職のお話などを伺え、とても勉強になりました。海外研修生・日本人研修生ともに、皆様とHPC同期の友人として繋がれたことをありがたく思っています。今でも海外研修生・日本人研修生の方々とはWhatsAppやZoomで定期的に連絡を取り合っており、世界各国での活躍する同期の活動内容に刺激をもらっています。

海外実務研修での活動について教えてください。

 UNDPマラウイ事務所は「気候変動」と「ガバナンス」という2つのポートフォリオがあり、私はガバナンスポートフォリオで平和構築・紛争予防プログラムオフィサー(Programme Officer- Peacebuilding and Conflict Prevention)として、Social Cohesion(社会的結束)プロジェクトを担当していました。プロジェクトの中では主に下記のことに取り組みました。

(1)国家平和枠組み(National Peace Architecture)のオペレーション立ち上げ

 マラウイは比較的平和な国として対外的に知られていますが、国内には社会的・経済的な脆弱性を抱えており、政治的暴力、宗教間の対立、コミュニティ内での脆弱な人々に対する暴力、国境付近でのイスラム過激派の活動など、様々な種類の紛争が起こっています。2011年に大規模な政治的暴力が発生したことを契機に、マラウイ政府はNational Peace Architectureの法整備をUNDPの支援のもと進めています。2022年には、Peace and Unity Actとして国家レベル・県レベルでの平和構築委員会の設立が議会承認されました。
 マラウイでは紛争の起こりやすい・またはすでに起こっている6県をホットスポットとして特定し、県レベルでまず当該県にDistrict Peace and Unity Committees(県平和委員会)をパイロットで設立し、国家レベルではMalawi National Peace and Unity Commission(国家平和委員会)の立ち上げ準備を行っています。2022年、私はマラウイ政府と共に6県での平和構築委員会メンバーとのワークショップ、県平和構築委員会のコミュニティレベルでの紛争予防活動の支援を実施しました。

県平和構築委員会メンバーとの写真
県平和構築委員会のチェアパーソンと

(2)国連安保理決議第2250号(UNSCR2250)「青年・平和・安全保障」のナショナルアクションプランの策定

 2015年に採択されたUNSCR2250(Youth, Peace and Security (YPS))では、若者が紛争の予防と解決のために果たす重要な役割と貢献が認められました。マラウイは人口の80%以上が35歳以下の若者であり、若者の平和プロセスへの貢献が持続的な平和のために特に重要視されています。UNDPの支援の下、マラウイ政府はUNSCR2250実行のためのナショナルアクションプランの作成を開始しました。私は複数の省庁とコーディネーション会議を行ったうえでナショナルタスクチームを発足し、現地コンサルタントを採用し、コンサルタントを指揮監督の上、マラウイのすべての地方(北部、中部、南部)で主要な県政府のカウンターパート、県政府のYouth Officer、県平和構築委員会、若者支援を行うCSOなどを招いたワークショップを開催し、ナショナルアクションプランへのインプットを集め、ナショナルアクションプランのドラフトを作成しました。2023年にはNational Validation workshopを通じて、ドラフトを最終化する予定です。

UNSCR2250地方ワークショップのグループワークの様子
UNSCR2250地方ワークショップでの集合写真

UNSCR2250地方ワークショップのグループワーク及び集合写真

(3)国境付近コニュニティへの平和構築・紛争予防トレーニング

 マラウイはモザンビーク、タンザニア、ザンビアと国境を接していますが、特にマラウイ南部のモザンビーク国境では脆弱な国境管理体制の影響で、密入国、密輸、人身売買、過激派の流入など数多くの問題を抱えています。そこで、UNDPはマラウイ政府と他国連機関(UNFPA, UN Women, UNODC)と連携して、マラウイ南部2県の国境コミュニティにおいて平和構築・紛争予防の能力強化のトレーニングを実施しました。私は政府、国連機関、宗教関係者、CSO、平和構築委員会とのコーディネーション会議を主催し、トレーニング内容、日程、トレーナーの選定、トレーニーの選定などを主導しました。2022年11月から2023年3月にかけて、マラウイ南部の2県9地区において、Early warning, Mediation, community policing and counter terrorismに関するトレーニングを1,000名以上に実施し、紛争予防の能力強化をコミュニティレベルで支援しました。

国境付近コニュニティへの平和構築・紛争予防トレーニングについて話し合っている様子
国境付近コニュニティへの平和構築・紛争予防トレーニングの様子

紛争予防・平和構築トレーニングの様子

(4)新規プロジェクトの立ち上げ

 マラウイでは10年近くにわたりUNDPの内部資金のみでSocial Cohesion Projectを通じて平和構築・紛争予防の支援を行っていたのですが、2022年はドナー各国・国連本部から資金をいただき、プロジェクトの規模を拡大することができました。アイルランド・アイスランドからの資金でSDG Accelerator Fund、国連本部からPeacebuilding Fund,そして日本政府からもガバナンス分野で補正予算(JSB)の拠出をいただくことができました。マラウイで紛争予防に従事することの重要性を実感するとともに、各プロジェクトにおいて成果を出すよう精進していかなければならないと気を引き締めています。
 私はプロポーザル策定にあたってのドナーとの会議や、国連Prevention Platformのデータを活用した紛争分析、その内容を反映させたプロポーザルのドラフト作成、プロジェクト承認後のUNDP内部のプロジェクト立ち上げに必要な業務の遂行、プロジェクトの詳細ワークプランの作成、ドナー各国への成果に関するプレゼンテーション、他国連機関やナショナルパートナーとのコーディネーション会議を複数回主催するなどして、プロジェクトの円滑な進行に貢献しました。

 私はこれまでザンビア、ケニア、ウガンダに居住したことがあり、アフリカ生活には慣れている方ではあると思っていたのですが、業務を遂行するにあたって、マラウイの生活環境はやや負荷の高いものでした。マラウイは最貧国のひとつで、2022年初旬のサイクロン直撃の影響で水力発電のダムが壊れ、修復する資金がないことから、毎日8時間以上(時には1日以上)の計画停電がありました。国内のガソリン不足で動きを制限されることもありましたが、マラウイの人々の暖かさや大らかさ、友人や上司、同僚の支援のおかげで、楽しく1年間の活動を終えることができました。
 また、地方では英語が通じないことが多いので、マラウイの現地語であるチェワ語のレッスンを取り、現地の方に少しでも親近感を持ってもらうように挨拶や自己紹介などを覚えて仕事をしていました。

マラウイ事務所の同僚との集合写真
マラウイ事務所の同僚との写真

マラウイ事務所の同僚と

海外実務研修での感想は?一番印象に残っていることは?

 国連の勤務を通じて経験することは初めてのことばかりで、すべての出来事が印象に残っているのですが、マラウイ国内での地方出張が一番心に残っています。私が担当しているプロジェクトで支援している県平和委員会の立ち上げのため、南北に長いマラウイの北から南まで、国境の端から端まで、様々な県を出張させてもらいました。各地域では平和構築に対する共通の課題もあれば、地域特有の課題もあり、異なる地域に行って直接平和構築委員会やコミュニティメンバーの方の話を聞くことで、紛争予防の課題に対する解像度が上がり、プロジェクトの活動をより実情に沿ったものに計画することができました。
 地方では伝統的家長(Traditional Authority: TA)や宗教指導者、地方議会の前でプレゼンを行う機会をいただきました。プレゼンテーション後の質疑応答、コミュニティメンバーの方々との会話を通じて、受益者の方々の国連への期待、プロジェクトへの期待を肌で感じることができ、マラウイの紛争予防を強化するという非常に有意義なプロジェクトの一端を担わせてもらっていることに、感謝の念が高まりました。

伝統的家長へプロジェクト説明を行う様子
マラウイ・モザンビーク国境にて政府関係者と

今後のキャリア・プランを教えてください。

 UNVの契約終了後は、International Personnel Services Agreement (IPSA)という契約形態でUNDPマラウイ事務所にて引き続き勤務できることになりました。(注:UNDPではフィールドオフィスでの正規職員ポジションはインターナショナルスタッフ・ナショナルスタッフともに限られており、プログラムスタッフは一年更新のPSA契約が主流になっています。非正規職員(Non-Staff)ですが、医療保険の補助や年間の人事評価があるなど、コンサルタントと正規職員の中間のような契約形態になっています)
 新しいIPSAでもこれまでUNVとして携わってきた仕事に引き続き携わることになりますが、ポジションが上がり、プロジェクトの規模が大きくなったことから、一人で一つの業務を遂行するのではなく、ナショナルスタッフや現地国連ボランティアを指導し、時には業務を任せながらプロジェクトを進めていくことになります。国際的な環境でマネジメント経験を積むことができる新たなチャレンジに緊張と不安が入り混じった気持ちですが、信頼して任せてくれる上司や周りの同僚に感謝しながら、目の前のことに一つ一つ取り組んでいきたいと思います。
 将来は、現場経験を活かして、平和構築・紛争予防や社会・経済格差是正に関する政策分析・政策提言の分野でキャリアを形成していきたいと思っています。

事業への参加を考えている方にメッセージをお願いします。

 平和構築・開発の分野での現場経験のエントリーポイントを探している方や、将来的に国連で働くことを希望されている方は、ぜひ平和構築人材育成事業へ応募されることをお勧めします。国連内で経験を積むことができ、実務を通じてネットワークが構築できるのみならず、平和構築人材育成事業の講師の方々や卒業生の先輩方、同期の方とのネットワークが形成できることも貴重な財産です。私自身も新しいポジションに応募する際に、HPCの先輩方や同期の皆様に相談に乗ってもらったり、時にはお知り合いに繋いでもらったりと、大変お世話になりました。本事業のネットワーク内にいられることがとてもありがたく、私もこれから還元していけるように精進していきたいと思っております。
 本事業では派遣が決まった後に希望する国際機関とのマッチングが行われます。数多くのポストを用意してくれているので、きっとご自身のキャリアで目指されている方向性に沿うポストが見つかると思います。応募前には、希望するポストを取り巻く環境について事前にしっかりとリサーチされるとよいと思います。デスクトップリサーチだけではわからないこともあるので、できれば現地にいる方や過去勤務された経験のある方に直接お話を伺うことができればベストです。もちろんすべての情報を事前に把握することは難しく、行ってみないとわからないこともたくさんあるのですが、ミスマッチをできるだけ防ぎ、また限られた貴重な1年間でのご自身のバリューを最大限に発揮するためにも、応募前のリサーチは重要になります。本事業のネットワークを通じて様々な方と繋がりお話を伺うことができるので、そういった意味でも本事業でUNVを始めることはとてもお勧めです。


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