平和維持・平和構築

令和8年6月30日

プロフィール

 大阪大学外国語学部フランス語専攻卒業。在学中、フランスで交換留学を経験。大学卒業後、通信企業にてICTを通じた地方創生や公共・民間セクターとのビジネス連携推進を担当。その後、平和構築・開発分野へのキャリア転向を決意し、東京大学大学院に入学。大学院では、紛争や人権侵害後の真実究明と和解について研究し、国連開発計画(UNDP)駐日事務所及びルワンダ事務所でインターンを経験。その後、国際協力機構(JICA)アフリカ部、ネパール事務所を経て、本事業に参加。派遣先の国際移住機関(IOM)カメルーン事務所では、国内避難民、移民、過激派組織元加入者、ホストコミュニティ等を対象とした緊急支援から開発まで多岐にわたる新規案件形成及び資源調達を担当。本事業での派遣期間満了後、JICAカメルーン事務所で勤務予定。

平和構築・開発におけるグローバル人材育成事業に応募した理由を教えてください。

 国連機関で1年間の実務経験を積むことができる海外研修に惹かれ、応募しました。民間企業からのキャリア転向を決意して以来、紛争や人権侵害を経験した社会における移行期正義、和解、真実究明といった分野に携わりたいという想いがありました。これらの分野に国連機関の立場から関わりたいと考え、国連機関を志望していたものの、国連でのキャリア構築にあたって最初に直面した点が、国連内部に入るエントリーポイントでした。二国間援助を通じた国際協力での業務経験はありましたが、国連での業務経験はなく、組織が異なれば環境も文化も全く異なることから国連で何らかの職務経験を積んだ方がよいというキャリアアドバイスをいただいたこともありました。そこで、国連内部に入り実務経験を積むことが可能な絶好のエントリーポイントとして本事業にぜひ参加したいと思っていました。また、国連で勤務している知人に本事業修了生が多かったこともあり、自然と本事業への応募に至りました。

国内研修に参加した感想は?

 毎日が非常に濃厚で学びが多い、忘れられない5週間でした。国連における多様性のある職場環境が再現された研修環境や、業務で直面する場面への対応についてシミュレーションを通じて学ぶカリキュラムのコンテンツでは、理論だけではなく実際に手を動かし、さらには五感でスピード感や緊迫感までもリアルに感じながら、多様なバックグラウンドをもつメンバーから構成されるチームでの日々の議論や意思決定から、ステークホルダーとの調整、協議、交渉まで、様々な状況を身をもって体験し学ぶことができました。海外研修を経た今思い返すと、多くのシミュレーションが実際に業務で直面したこともあります。例えば、国連はじめ様々な援助機関が集合し、相手国政府への対応や全体支援に係る方針を決定する会合のシミュレーション演習は、全方面のステークホルダーに配慮しつつ戦略的な対応をとる必要があった海外研修でのワンシーンと類似しており、海外研修で同様の場面に直面した際には、国内研修を思い出しながら冷静に取り組むことができました。
 また、演習を通じて、チームメンバーとのアサーティブ・コミュニケーションや流動的かつ不確実性の高い状況においてもイニシアチブをとるリーダーシップ、自信溢れる振る舞い等のインターパーソナルスキルの重要性を痛感したからこそ、それらを意識して海外研修中の業務に取り組むことができた点も、とても有意義でした。
 国内研修中は、否が応でも自身の弱みや課題に向き合わざるを得ない場面もありましたが、海外研修の前に模擬体験し、振り返りを通じて自ら考え事前に気付くという重要な成長の機会でした。また、失敗を恐れずにチャレンジし続けることに寛容な研修の雰囲気にも助けられ、講師の皆様や他参加者の仲間に感謝しています。

自衛隊基地での自己防衛・応急処置に関する演習でのチーム。(一番奥が筆者。)

業務内容について教えてください。

 IOMカメルーン事務所では、緊急支援から開発まで多岐にわたる分野の新規案件形成及び資源調達のリード、渉外交渉の一部を担当しました。あらゆる予算がプロジェクトベースで管理されているIOMでは、こういったファンドレイジングの取組は、支援活動を維持する上で必要不可欠です。このような状況の中での私の役割は、直属の上司である所長と事務所全体の方針・戦略についてコミュニケーションをとりながら、新規案件形成に関する全体状況の把握・フォローアップ・報告、ドナーへ提出するプロジェクトドキュメントの作成からIOM内部承認を経てドナーとの折衝まで新規案件形成に係る全プロセスのリード、これらに関する内外関係者との調整等でした。例えば、ニーズ分析、新規案件の活動・予算案の作成、IOM本部・地域事務所・カメルーン事務所の内部関係部署からの技術的インプットのプロジェクトドキュメントへの反映、カメルーン政府、ドナー、他国連機関のパートナーといった幅広いステークホルダーとの日々の調整・交渉、提案内容の分野や対象地域に応じて形成するプロジェクトドキュメント作成チームのタスク進捗・スケジュールの全体管理等、実に広範囲にわたりました。また、テーマやターゲットとした受益者も多岐にわたっており、コミュニティ間あるいはコミュニティ内部の対立や気候変動の影響により移動を強いられた国内避難民への緊急人道支援、過激派組織元加入者の社会再統合支援、国境管理能力向上、ディアスポラの開発・平和への参画促進、移民・国内避難民を主流化した政策支援、ナイジェリアとの国境画定の影響を受けた人々への経済社会支援、水・衛生(WASH)や保健に関するコミュニティプロジェクトの促進、若者の雇用促進、精神保健・心理社会的支援等、非常に幅広くカバーしていました。
 上記に加えて、新規案件形成の観点から様々な業務に携わる機会を得ることもできました。例えば、国連カントリーチーム(UN Country Team (UNCT))やプログラム・マネジメント・チーム(Programme Management Team (PMT))、ドナーとの会合にIOM代表として参加し、他機関とのパートナーシップの可能性やIOMのポジショニングを戦略的に考えながら、プレゼンテーションや発言・インプットを行うこともありました。特に、チャド湖地域での気候変動や安全保障面に関する情勢やカメルーンへの影響を踏まえ、IOMダカール地域事務所やチャド湖地域の他国事務所、カメルーンの他援助機関との連携を模索しながら、気候変動への緩和策・適応策のための新規案件形成や人道・開発・平和の連携(HDPネクサス)を通じた持続可能な解決(Durable Solution)への取り組みの立ち上げ段階に携わった経験は、昨今のグローバルレベルの議論を現場でどのように実現できるかについて考えさせられ、勉強になりました。
 また、カメルーンではフランス語と英語の両方が公用語とされているため、これらの業務を遂行するにあたって、場面や協議先に応じて言語を使い分けながら勤務しました。

海外派遣での感想は?一番印象に残っていることは?

 海外研修もまた同様に日々学びが多く濃厚な1年間であり、数えきれないほど記憶に残るエピソードが多くあります。国連ボランティアと言っても、他の国際職員と全く同様に質・スピード共に高いレベルでの業務遂行を求められました。プロフェッショナルとして責任ある業務を任せていただき、毎日、様々な貴重な経験を積むことができました。特に、「正解」というものがない中で自立的に考え行動し、キーパーソンを巻き込みながら、恐れずにイニシアチブをとって物事をとにかく前へ進める姿勢とスキルは、海外派遣を通じて得た財産の一つです。また、IOMカメルーンの戦略的なポートフォリオ拡大を目指す全体方針やモメンタムもあり、IOMのマンデートや強みを活かしつつ相手国のニーズに合致する支援を常日頃から意識し、事務所トップの所長の考え方や交渉術を身近で学びながら新規案件形成に取り組んだ経験は、貴重な経験でした。
 特に、国際司法裁判所(ICJ)の判決に基づくカメルーン・ナイジェリア間の国境変更(注:現在も一部協議中)の影響を受けた国境地域の人々に対する保健、WASH、エネルギーに関する支援提供のため、IOM、国連西アフリカ・サヘル事務所(UNOWAS)、カメルーン・ナイジェリア混合委員会、カメルーン代表部との共同イニシアチブの立ち上げからニーズアセスメントの実施完了まで、直属の上司に随所相談しつつも、自立的にマネジメントし実現することができた経験は、自信につながっています。所長代理としてハイレベルの初回立ち上げ会合で司会進行とプレゼンテーションを急遽担うこととなって以来、IOMのフォーカルポイントとして、上記のステークホルダーに加えて5省庁、1国家特別プログラム機関、複数の国連機関含む非常に多くの関係者と協議や合意を進めながら、緊急性が高いニーズを特定し新規案件形成につなげました。国境の性質上政治的・社会的側面に深く関わることから、中央政府から地方政府レベルに至るまでカメルーン政府との密なコミュニケーションが必要不可欠であり常に慎重さが求められ、合意形成の難しさを感じる局面もありましたが、粘り強く一つ一つ丁寧に協議を重ねることを心がけました。このようなパートナーとの協議に対する姿勢について、所長を経由して他機関の代表の方が評価してくださっていたことを知ったときは、やりがいと安堵を深く感じたことを今も覚えています。今では本イニシアチブの新規案件アイデアがナイジェリア側にも拡大しており、カメルーン・ナイジェリア混合委員会の議長を務める国連事務総長特別代表(SRSG)を中心とする地域的取り組みへと発展しつつあります。IOMナイジェリア事務所との連携を始めた際には、ゼロからの立ち上げを牽引した経験を通じ、カメルーン事務所を超えたノウハウに貢献することができたことも、やりがいを感じました。
 最後に、日々の業務を通じて学ぶことも多くありました。例えば、チーム全体のタスク進捗状況やタイムスケジュールを把握して取りまとめる全体管理を担う機会が多くありました。新規案件の提案内容の素案作成やチーム内の役割分担・スケジュール策定など迅速かつ効率的なチームワークのために主導権をもって業務を進めた経験から、多様性のある職場環境でのコミュニケーションについて学びました。さらに、複数のプロポーザルの提出期限が重なり、時間のプレッシャーがある中で、多くの業務を同時進行で進めながらチームともコミュニケーションをとっていかに効率的に前に進めるかを模索しながら業務に取り組んだ経験も、日々鍛錬の時間でした。

極北州出張にて、ニーズアセスメント調査団として、ナイジェリアとの国境に接するMogodé communautéの伝統的首長を表敬。
極北州出張にて、ニーズアセスメント調査団としてMogodé sous-préfet長を表敬。
アダマワ州出張にて、ニーズアセスメント調査団として州知事を表敬。
オフィスを共有する同僚との休憩時間。同僚の存在にいつも救われていました。
離任前の挨拶の際の集合写真

今後のキャリア・プランを教えてください。

 1年間の国連での職務経験を通じて、国連で働くことは知力・体力・気力が高いレベルで求められることを実感しましたが、リーチが難しい地域への支援や戦略的パートナーシップの重要性、多様なバックグラウンドをもつチームでプロジェクトを作り上げることのやりがい等、多くのことを学び、成長意欲が掻き立てられる環境でした。引き続き、関心分野における国連でのキャリアを模索したいと考えています。

事業への参加を考えている方にメッセージをお願いします。

 私がここまで経てきたキャリアパスは一直線ではありませんでした。しかし、民間企業からキャリアを転向し様々な経験を経て国連に入り、どの経験も何ひとつ欠かすことができないものだったと感じています。これまでの経験、得た示唆、スキル、知識全てが今の私をつくる血肉となっており、これらを総動員することで乗り越えることができた場面や自分なりの付加価値に気付く場面が幾度もありました。周囲と比較して焦ることももちろんありますが、貢献したいこと・できることを知るために必要なステップだったように感じているので、これまでやり遂げてきた一歩一歩に自信をもってください。そして、少しでも国連にご関心のある方は本事業への参加をご検討してみていただきたいなと思います。


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