平和維持・平和構築
研修員の声
令和5年度研修員 祝麻里子さんの声
プロフィール
国内大学を卒業。在学中に香港への交換留学を経験した。卒業後は国内の海運会社に約7年間勤務し、船舶オペレーションや自動車物流事業に従事。退職後、英国の大学院で修士号を取得したのち、JICAカンボジア事務所で運輸交通分野のプロジェクト形成・管理に携わった。本事業では海外研修として国連プロジェクト・サービス機関(以下、UNOPS)ケニア・マルチカントリー・オフィスにてパートナーシップ・アナリスト(Partnerships Analyst)として勤務した。現在は中国語学習の為、台湾に滞在中。
平和構築・開発におけるグローバル人材育成事業に応募した理由を教えてください。
民間企業で物流や港湾開発に携わる中で、紛争や政治的混乱によって物流網が寸断されたり、順調に進んでいた港湾開発プロジェクトが中止に追い込まれたりする状況を目の当たりにしました。こうした経験を通じて、物流や港湾といったインフラが人々の暮らしにとって欠かせないものであり、また平和構築においても極めて重要な役割を果たすことを強く実感しました。大学院卒業後は、物流やインフラ開発を通じて国際協力の分野に関わりたいという思いから、二国間協力による港湾開発事業に従事してきましたが、さらに多国間の枠組みや平和構築分野における知見を深めたいと考え、本事業へ応募しました。
国内研修に参加した感想は?
実践的で非常に充実したプログラムでした。私は平和構築・開発分野に関する知識や経験が不足していたため、海外派遣に先立って体系的な知識を得ることができた点は大変有意義でした。
研修は週ごとに、「分析」「計画」「調整」「管理」等のテーマに分かれ、週の前半にはそれぞれの分野を専門とする現役の国連職員や国連機関での経験を有する講師の方々から講義を受けました。そして週の後半には、その知識を基にグループワークやケーススタディを通じて実践的なアウトプットを行うという構成でした。特に、平和構築分野における分析手法や国際機関間の調整といった内容は初めて学ぶことばかりで、自分の専門分野がその中でどのように位置づけられるのかを知る貴重な機会となりました。また、自衛隊による自己防衛や応急処置の実習等を通じて、実際にこの分野で働く際の現場環境を具体的に想像することができ、心構えを新たにしました。さらに、研修には多くの先輩方や普段はなかなかお会いできないような立場の方々も講師として参加されており、たくさんの助言をいただきました。中でも、過去に本事業に参加された先輩方からは、キャリア形成やワークライフバランスといった実際的な話も率直にうかがうことができ、平和構築・開発分野で働くことへの具体的なイメージを深めることができました。
また、5週間を共に過ごした日本人・外国人研修員である仲間たちの存在も励みになり、大きな学びへと繋がりました。研修員一人一人が異なる専門性や経験を持ち、日々の議論や生活を通じて大変刺激を受けました。研修終了後も、近況報告やキャリアに関する相談を通じて連絡を取り合っており、志を同じくする仲間ができたことは、この研修で得た何よりの財産だと感じています。
業務内容について教えてください。
海外派遣では、UNOPSケニア・マルチカントリー・オフィス(以下、KEMCO)にて、パートナーシップ・アナリスト(Partnerships Analyst)として勤務しました。当初は自身の経験に関連する物流分野やインフラ事業のプロジェクト管理分野を希望していましたが、該当するポジションがなかったため、UNOPS KEMCOにパートナーシップ・アナリストとして受け入れていただきました。当時の委託事業者である広島平和構築人材育成センター(HPC)の先生には派遣前から何度も相談に乗っていただき、手厚いフォローを受けながら準備を進めることができました。
KEMCOはナイロビを拠点に、ケニア、モザンビーク、ジンバブエ、ザンビア、ウガンダ、タンザニア、マラウイ等東南部アフリカ地域16か国を対象に、インフラ整備、調達、プロジェクト管理、人事、財務等多岐に亘る支援を行っています。私はパートナーシップ開発オフィス(Partnerships Development Office以下、PDO)に所属し、主に水・気候変動分野における(1)戦略的パートナーシップの構築、(2)新規プロジェクト形成、(3)ナレッジマネジメントを担当しました。UNOPSはコア予算を持たずプロジェクトベースで管理されているため、資金調達及びプロジェクト形成は非常に重要な業務でした。
(1)パートナーシップ構築
ドナーマッピングや機会調査、関連分野のワークショップへの参加等を通じて、東南部アフリカ地域における多様なアクターの把握に努めました。また、各国の年間予算の進捗状況を定期的に追跡し、月例の報告会議を主催、各国の担当者と連携し、適切な資金獲得に向けた支援を行いました。
(2)新規プロジェクトの形成
10件以上のプロジェクト提案書作成に携わり、気候変動、水、保健、調達支援等多岐に亘る分野を担当しました。自分の専門外の分野に関しては、関係部署や専門コンサルタントと緊密に連携を図りながら、タイトなスケジュールの中で提案書を完成させました。本業務では、スピードと柔軟性、そして関係者との円滑な調整力が求められました。
(3)ナレッジマネジメント
PDO内部の知識強化を目的とした学習イベントを企画・運営しました。第1回は「気候変動分野での資金」、第2回は「調達」をテーマとし、外部講師や他地域のUNOPS事務所、専門家に協力を仰ぎながら内容を構成しました。スタッフのニーズを事前にヒアリングし、それに基づいた学びの場を提供することで、PDO全体の専門性向上に尽力しました。
海外派遣での感想は?一番印象に残っていることは?
UNOPSでの勤務は学びが非常に多く、大変貴重な経験となりました。特に、パートナーシップ業務の経験がなかった私を快く受け入れ、丁寧に指導・サポートしてくださった上司や同僚には心から感謝しています。UNOPS KEMCOは風通しが良くフレンドリーで、業務上の相談も気軽にできる環境に大変助けられました。派遣先が国連事務局の拠点の一つであるケニア・ナイロビであったことも、非常に恵まれていたと思います。パートナーシップの職務上、UNOPS内部にとどまらず、他の国連機関やドナーとの協働・調整を通じて、多様なアクターの活動や組織文化を間近に見ることができました。シニア職員や他機関の職員と接する機会も多く、特に日本人の若手職員との繋がりも得ることができたことは、大きな励みとなりました。派遣先を決める際、委託事業者の先生から「ナイロビという場所の利点も考慮してみては」との助言をいただきましたが、実際にそのとおりだったと感じています。
一方で、2024年6月にはケニア政府の増税に抗議する大規模なデモが同国全土で行われました。この期間中は在宅勤務となり、時にはインターネットが遮断される状況もありました。街からは時折、銃声が聞こえ、一連のデモでは39人以上が亡くなったと報道されています。私自身は参加していませんが、若者が中心となって声を上げ、社会に働きかける姿を間近で目にしたことは、ナイロビでの生活の中でも特に印象深い経験となりました。
業務面では、東南部アフリカ地域に拠点を置く様々な機関や政府との案件形成に携わることができました。特に、着任当初から担当した水資源管理プロジェクトは、数年に亘る調整を経て最終段階に入っていた案件でしたが、予算やスケジュールについて再協議が必要となり、年末になってようやく署名・開始にこぎつけました。この案件は私の先々任者から引き継がれたプロジェクトであり、署名が完了した際は事務所内で喜びを分かち合えました。
一方、他機関との洪水対応緊急支援プロジェクトでは、わずか2週間ほどで提案から署名、実施に至るというスピード感に驚かされました。同じ国連機関でも、それぞれに異なる特徴や強みがあることを改めて実感するとともに、多様なニーズに対応し、確実なプロジェクト実施を支援するUNOPSの強みを深く理解することができました。
ウォーター・レジリエンスに関するワークショップに参加
チームの同僚たちと送別ディナーキテンゲ(アフリカ布)のベストをもらいました
今後のキャリア・プランを教えてください。
今後は、自身が携わってきた物流・インフラ開発の分野でキャリアを積んでいきたいと考えています。本事業に参加したことで、国連や多国間協力に関する知見を深めることができ、大変貴重な経験となりました。一方で、昨今の政情に伴う国連機関の資金難によって、プロジェクトの打ち切りや職員の解雇、部門や事務所の閉鎖が相次いでいる現状も目の当たりにし、国連機関のみでキャリアを築くことの難しさも実感しました。
国際協力において、物流やインフラ開発の知見を活かし貢献できる場は多く存在するため、今後は視野を広く持ち、柔軟にキャリアを築いていきたいと考えています。その上で、将来的に再び国連で勤務する機会があれば、ぜひ挑戦したいと思います。
現在はJPOの選考をはじめ、就職活動に取り組んでいます。JPOでは国際機関枠にて世界食糧計画(WFP)の物流関連職へ応募しましたが、書類審査を経て外務省が推薦先を決定する段階で、希望とは異なる分野への推薦となりました。一方で、他の国際機関からは希望に合致する内定をいくつかいただいており、今後の進路について納得のいく決断ができるよう、慎重に検討しています。
事業への参加を考えている方にメッセージをお願いします。
平和構築・開発でのキャリアへ挑戦してみたい方には大変お勧めのプログラムです。特に、研修を通じて多くの仲間や先輩方に出会えたことは、本当に大きな財産となるはずです。
1年あまりの研修期間を通じて、「どのようなキャリアを築きたいのか」、「どう社会に貢献できるのか」、「自分の軸はどこにあるのか」を深く見つめ直すことができました。
国際協力の現場では、思いどおりにいかないことも多々ありますが、それ以上に刺激的で楽しい仕事だと感じています。また、国連機関や業界の状況は常に変化しており、柔軟な姿勢が求められる一方で、この分野で働く意義や、自身の核となる価値観を持ち続けることの重要性を強く実感しました。
これからこの業界へ挑戦する皆さんを、心から応援しています。
UNOPS KEMCOの事務所
休暇で訪れたラム島
