広報文化外交
海外における日本語の普及促進に関する有識者懇談会(第4回会合の概要)
平成25年6月25日

6月17日,「海外における日本語の普及促進に関する有識者懇談会」(第4回会合)が開催された。概要は以下のとおり。
【概要】
1.基調報告
(1)増田 哲也氏(東京国際ビジネスカレッジ学校長):「日本語普及のための日本型・教員養成の提案」
当校で学ぶ外国人留学生(747人)の7割強が,現地での日本語学習の初期段階で外国人教師から学んでいるが,外国人教師の授業レベルの格差や現地作成の教材・テキストの質の問題があり,日本語学習の妨げとなっている趣。また,当校生徒の約半数が仕事としての日本語教師に肯定的で,内9割近くが日本語教師になる勉強に前向きであるが,こうした日本への滞在経験があり日本文化を深く理解し,日本を愛する「日本ファン」ともいうべき外国人日本語教師の養成が,海外における日本語普及には重要であり,官民を挙げ取り組む必要がある。そのためには,「日本に来たからこそ学べた」象徴的プログラムが必要であり,具体的には(1)外国人が母国語を使い,初級日本語を教えるためのメソッドの開発や(2)外国人日本語教師(指導者)をイメージした資格付与などが検討されるべき。また,当校生徒の中に日本語学校経営にも関心がある者がいることを踏まえれば,塾や学校経営に係る研修プログラムも有用。また,日本の日本語学校が海外の学校との連携を模索する際や,現地の非母語話者教師が使用する教材を作成する際など,民間ではコネクションや資金面で限界があるので,外務省を始め国の支援をいただけるとありがたい。
(2)熊谷 真人氏(国際協力機構青年海外協力隊事務局海外業務調整・アジア大洋州担当次長):「JICAボランティア事業における日本語教育職種の現状と課題について」
全体の応募者が年々減少している中で,日本語教育職種への応募者も減少している。また,経験の少ない応募者が増えているなど,応募者の質も変化している。その一方で,毎年日本語教育職種への要請は途上国から数多く挙げられており,要請に応えきれず,継続案件への協力を優先せざるを得ない。広報強化を通じた応募者増への取り組みは行っているが,日本語教師人材を増やすためには,国内における日本語教師の就労環境の改善や,JICAボランティアへの参加がその後の日本語教師としてのキャリアパスに繋がるという安心感の確保が必要である。このため,国際交流基金との連携策としては,基金の日本語専門家等へのボランティア経験者の積極的採用,また,日本語教育ボランティアの質の向上に向けた連携策として,既存の派遣前研修や現地での広域研修セミナーの実施等に加え,基金の専門家による巡回指導や教材支援など現地における技術的支援の拡充,ITを活用した日本語・日本文化紹介ツールの提供があげられる。
(3)神代 浩氏(文部科学省 初等中等教育局 国際教育課長):「海外子女教育と海外の日本語教育」
海外に長期間滞在する邦人が同伴する義務教育段階の子どもの数は,アジア地域を中心に年々増加している。また,帰国予定の児童生徒のみならず,国際結婚による永住者等の子弟の数も増加している。さらに,現地の政府や住民による「日本型教育」に対する期待もある。特に永住者等の子弟に対する継承語教育は,国語教育や外国語としての日本語教育とは別の観点での対応が必要であるが,教材の不足,教師養成・研修の不足,資金の不足,認識の不足といった課題に加え,文部科学省の海外子女教育政策と外務省による外国人に対する日本語教育政策の間隙になっている。このため,今後の在外教育施設の在り方について,一つの試案であるが,(1)帰国児童生徒への国語教育,(2)永住児童生徒への継承語教育,(3)外国語としての日本語教育を一連のものとして捉えつつ,在外教育施設,特に補習授業校を外国における日本語教育の総合機関として位置付け,そのための体制整備を進めていくことが必要ではないかと考える。
(4)岩佐 敬昭氏(文化庁文化部 国語課長):「文化庁における日本語教育の取組について」文部科学大臣の私的懇話会である「文化芸術立国の実現のための懇話会」が取りまとめた「文化芸術立国中期プラン(案)」において,外国人に対する日本語教育の推進や日本語の魅力の発信といった日本語による文化発信力の強化が挙げられた。また,本年3月より開催されている「クールジャパン推進会議」においては「かわいい」,「かっこいい」といった日本文化に根ざした魅力的な日本語を発掘し,クールジャパン発信力強化のきっかけとするとの提言がなされている。また,文化審議会国語分科会日本語教育小委員会の下に昨年5月設置された,「課題整理に関するワーキンググループ」は,本年2月,日本語教育推進の基本的な考え方と,11の論点を取りまとめた。
続いて,島田文化交流・海外広報課長より,英国においては,最近の初等中等教育のカリキュラムの見直しの中で,初等教育段階における外国語教育について,必修選択外国語から日本語が除外される動きがあり,それにより日本語学習を導入する教育機関が大きく減少することが危惧されることから,外務省では在外公館や文科省とも連携しつつ英国政府に申し入れ等を行っている旨紹介があった。
また,経済産業省より,産学連携による留学生向け実践的教育事業として,平成19年度から24年度にかけ実施された「アジア人財資金構想事業」や,平成24年度補正予算事業である「中小企業・小規模業者海外人材対策事業」について説明があった。日本企業への強い就職希望を持ち,能力・意欲が高いアジアを始めとする世界からの留学生に対する,ビジネス日本語教育,日本ビジネス教育からインターンシップ,就職支援までをパッケージとして提供し,産業界で活躍できる高度外国人材の育成及び同分野における支援の必要性が共有された。
2.討議概要
(1)上記基調報告を受け,会合出席者より,以下の意見がなされた。
日本で日本語や日本文化を学び,日本ファンともいうべき者が,日本語教師として現地で日本語を教えるような体制づくりが必要。この観点から外国人留学生の活用,日本語教師としての養成,母国に帰国後の日本語博士号等の資格取得支援などに官民あげて取り組むべき。また,海外の日本語教育現場の教師の中には,訪日経験のない者が多いため,訪日に係る費用の一部を日本側が支援したり,日本語教育と観光を組み合わせた魅力的な訪日プログラムを企画するなど,日本語教師の訪日を促す試みも重要。
JICAの日本語ボランティアの応募者数が減少傾向にある状況を踏まえ,彼らの帰国後のキャリアパスへの支援に加え,日本における日本語教師の賃金や雇用といった就労環境の改善が必要。
2020年の日本語学習者数500万人を目標に掲げるのであれば,1000人単位で逆JET(現地で日本語を教える日本の若者)を派遣すべき。現地での受け入れ体制の確保といった観点から,海外の日本人学校の活用やJICA海外事務所との連携が検討されるべき。また特に自律的に日本語学習を選択する大学生や一般人の日本語教育へのアクセスという意味では,WEB教材の拡充といったIT活用に真剣に取り組むべき。
海外の既存の日本人学校や補習校を日本語教育の拠点として活用するとの考えは,草の根レベルの日本語普及に資するとの点で有用。特に,永住者等の子弟に,継承日本語教育として,自らのルーツのバックボーンとして日本語を学べる環境を整備することは,現地に日本との接点を持ち続ける貴重な日本ファンを作ることに繋がるので,しっかりフォローすべき。
クールジャパン発信は,日本語の裾野を広げる上で有効。このため,「魅力ある日本」についての発信力の強化が必要。他方,更に深く日本語や日本文化への理解を深めるための施策(たとえば,日本文学を各国言語に翻訳して世界に発信する事業など)の検討も必要。
日本語教育を推進する関係機関同士がより連携を強め,オールジャパンとして事業を効率的かつ有効に進めるべき。そのためには,たとえば内閣府に国内,国外を含めた日本語教育に係る推進室を設立するなどし,情報を整理し法制の整備等を行っていくべき。
(2)懇談会最後に若林大臣政務官より,本懇談会を通じ,必要とされている論点が見えてきたのではないか,各省・関係機関が横断的に連携して,実現可能な政策を提言していきたいと述べた。
【概要】
1.基調報告
(1)増田 哲也氏(東京国際ビジネスカレッジ学校長):「日本語普及のための日本型・教員養成の提案」
当校で学ぶ外国人留学生(747人)の7割強が,現地での日本語学習の初期段階で外国人教師から学んでいるが,外国人教師の授業レベルの格差や現地作成の教材・テキストの質の問題があり,日本語学習の妨げとなっている趣。また,当校生徒の約半数が仕事としての日本語教師に肯定的で,内9割近くが日本語教師になる勉強に前向きであるが,こうした日本への滞在経験があり日本文化を深く理解し,日本を愛する「日本ファン」ともいうべき外国人日本語教師の養成が,海外における日本語普及には重要であり,官民を挙げ取り組む必要がある。そのためには,「日本に来たからこそ学べた」象徴的プログラムが必要であり,具体的には(1)外国人が母国語を使い,初級日本語を教えるためのメソッドの開発や(2)外国人日本語教師(指導者)をイメージした資格付与などが検討されるべき。また,当校生徒の中に日本語学校経営にも関心がある者がいることを踏まえれば,塾や学校経営に係る研修プログラムも有用。また,日本の日本語学校が海外の学校との連携を模索する際や,現地の非母語話者教師が使用する教材を作成する際など,民間ではコネクションや資金面で限界があるので,外務省を始め国の支援をいただけるとありがたい。
(2)熊谷 真人氏(国際協力機構青年海外協力隊事務局海外業務調整・アジア大洋州担当次長):「JICAボランティア事業における日本語教育職種の現状と課題について」
全体の応募者が年々減少している中で,日本語教育職種への応募者も減少している。また,経験の少ない応募者が増えているなど,応募者の質も変化している。その一方で,毎年日本語教育職種への要請は途上国から数多く挙げられており,要請に応えきれず,継続案件への協力を優先せざるを得ない。広報強化を通じた応募者増への取り組みは行っているが,日本語教師人材を増やすためには,国内における日本語教師の就労環境の改善や,JICAボランティアへの参加がその後の日本語教師としてのキャリアパスに繋がるという安心感の確保が必要である。このため,国際交流基金との連携策としては,基金の日本語専門家等へのボランティア経験者の積極的採用,また,日本語教育ボランティアの質の向上に向けた連携策として,既存の派遣前研修や現地での広域研修セミナーの実施等に加え,基金の専門家による巡回指導や教材支援など現地における技術的支援の拡充,ITを活用した日本語・日本文化紹介ツールの提供があげられる。
(3)神代 浩氏(文部科学省 初等中等教育局 国際教育課長):「海外子女教育と海外の日本語教育」
海外に長期間滞在する邦人が同伴する義務教育段階の子どもの数は,アジア地域を中心に年々増加している。また,帰国予定の児童生徒のみならず,国際結婚による永住者等の子弟の数も増加している。さらに,現地の政府や住民による「日本型教育」に対する期待もある。特に永住者等の子弟に対する継承語教育は,国語教育や外国語としての日本語教育とは別の観点での対応が必要であるが,教材の不足,教師養成・研修の不足,資金の不足,認識の不足といった課題に加え,文部科学省の海外子女教育政策と外務省による外国人に対する日本語教育政策の間隙になっている。このため,今後の在外教育施設の在り方について,一つの試案であるが,(1)帰国児童生徒への国語教育,(2)永住児童生徒への継承語教育,(3)外国語としての日本語教育を一連のものとして捉えつつ,在外教育施設,特に補習授業校を外国における日本語教育の総合機関として位置付け,そのための体制整備を進めていくことが必要ではないかと考える。
(4)岩佐 敬昭氏(文化庁文化部 国語課長):「文化庁における日本語教育の取組について」文部科学大臣の私的懇話会である「文化芸術立国の実現のための懇話会」が取りまとめた「文化芸術立国中期プラン(案)」において,外国人に対する日本語教育の推進や日本語の魅力の発信といった日本語による文化発信力の強化が挙げられた。また,本年3月より開催されている「クールジャパン推進会議」においては「かわいい」,「かっこいい」といった日本文化に根ざした魅力的な日本語を発掘し,クールジャパン発信力強化のきっかけとするとの提言がなされている。また,文化審議会国語分科会日本語教育小委員会の下に昨年5月設置された,「課題整理に関するワーキンググループ」は,本年2月,日本語教育推進の基本的な考え方と,11の論点を取りまとめた。
続いて,島田文化交流・海外広報課長より,英国においては,最近の初等中等教育のカリキュラムの見直しの中で,初等教育段階における外国語教育について,必修選択外国語から日本語が除外される動きがあり,それにより日本語学習を導入する教育機関が大きく減少することが危惧されることから,外務省では在外公館や文科省とも連携しつつ英国政府に申し入れ等を行っている旨紹介があった。
また,経済産業省より,産学連携による留学生向け実践的教育事業として,平成19年度から24年度にかけ実施された「アジア人財資金構想事業」や,平成24年度補正予算事業である「中小企業・小規模業者海外人材対策事業」について説明があった。日本企業への強い就職希望を持ち,能力・意欲が高いアジアを始めとする世界からの留学生に対する,ビジネス日本語教育,日本ビジネス教育からインターンシップ,就職支援までをパッケージとして提供し,産業界で活躍できる高度外国人材の育成及び同分野における支援の必要性が共有された。
2.討議概要
(1)上記基調報告を受け,会合出席者より,以下の意見がなされた。
日本で日本語や日本文化を学び,日本ファンともいうべき者が,日本語教師として現地で日本語を教えるような体制づくりが必要。この観点から外国人留学生の活用,日本語教師としての養成,母国に帰国後の日本語博士号等の資格取得支援などに官民あげて取り組むべき。また,海外の日本語教育現場の教師の中には,訪日経験のない者が多いため,訪日に係る費用の一部を日本側が支援したり,日本語教育と観光を組み合わせた魅力的な訪日プログラムを企画するなど,日本語教師の訪日を促す試みも重要。
JICAの日本語ボランティアの応募者数が減少傾向にある状況を踏まえ,彼らの帰国後のキャリアパスへの支援に加え,日本における日本語教師の賃金や雇用といった就労環境の改善が必要。
2020年の日本語学習者数500万人を目標に掲げるのであれば,1000人単位で逆JET(現地で日本語を教える日本の若者)を派遣すべき。現地での受け入れ体制の確保といった観点から,海外の日本人学校の活用やJICA海外事務所との連携が検討されるべき。また特に自律的に日本語学習を選択する大学生や一般人の日本語教育へのアクセスという意味では,WEB教材の拡充といったIT活用に真剣に取り組むべき。
海外の既存の日本人学校や補習校を日本語教育の拠点として活用するとの考えは,草の根レベルの日本語普及に資するとの点で有用。特に,永住者等の子弟に,継承日本語教育として,自らのルーツのバックボーンとして日本語を学べる環境を整備することは,現地に日本との接点を持ち続ける貴重な日本ファンを作ることに繋がるので,しっかりフォローすべき。
クールジャパン発信は,日本語の裾野を広げる上で有効。このため,「魅力ある日本」についての発信力の強化が必要。他方,更に深く日本語や日本文化への理解を深めるための施策(たとえば,日本文学を各国言語に翻訳して世界に発信する事業など)の検討も必要。
日本語教育を推進する関係機関同士がより連携を強め,オールジャパンとして事業を効率的かつ有効に進めるべき。そのためには,たとえば内閣府に国内,国外を含めた日本語教育に係る推進室を設立するなどし,情報を整理し法制の整備等を行っていくべき。
(2)懇談会最後に若林大臣政務官より,本懇談会を通じ,必要とされている論点が見えてきたのではないか,各省・関係機関が横断的に連携して,実現可能な政策を提言していきたいと述べた。