外交政策
外務省主催シンポジウム「WTO紛争解決制度の意義と今後の方向性」結果概要
平成25年11月6日

10月29日(火曜日),バレリー・ヒューズWTO事務局法務部長の訪日の機会を捉え,外務省主催,明治大学法学部共催,財務省・農林水産省・経済産業省・日本国際経済法学会後援のもと明治大学にて,シンポジウム「WTO紛争解決制度の意義と今後の方向性」が開催され,企業,研究者,法律事務所,在京大使館,官庁関係者等約70名が参加しました。シンポジウムでは,日本の貢献も含め,WTO紛争処理制度の歴史を振り返り,その現状と将来について,国内外の専門家,会場の出席者から活発に意見交換がなされました。
1.開会の挨拶
開会にあたり,相川外務省経済局参事官から,シンポジウムを通じてWTO紛争解決制度に対する日本各界の理解が深まり,より多くの方々にWTO紛争解決制度に関心を持っていただけることを祈念する旨の挨拶を行いました。続いて,南保明治大学法学部長からシンポジウムでの活発な議論と成功を祈念する旨の挨拶が行われました。
2.基調講演
続いて,バレリー・ヒューズWTO事務局法務部長が「WTO紛争解決制度の過去,現在,そして未来(THE WTO DISPUTE SETTLEMENT: PAST, PRESENT AND FUTURE)」というテーマの下,過去18年間のWTO紛争処理制度(紛争案件数,活用国,争点となった協定等の統計情報,他の国際司法機関との比較,地域貿易協定の拡大の影響等を含む)を日本に焦点を当てつつ振り返った上で,今後の課題について講演されました。紛争解決に係る規則及び手続に関する了解(DSU)改正交渉や各紛争案件での日本の貢献を紹介すると共に,WTOにおけるインターンシップ制度の紹介がなされました。

3.パネルディスカッション及び質疑応答
(1)パネルディスカッション
パネリストである齊藤幸司外務省WTO紛争処理室長から,かつて日本は米国によるゼロイングやバード修正条項等主にアンチ・ダンピング(AD)措置案件で紛争解決制度を活用していましたが,2008年以降,EC-IT製品,カナダ-再生可能エネルギー発電分野に関する措置,中国-レアアース輸出規制等AD以外の案件でも活発に同制度を活用している旨説明がなされました。これらの案件の共通点として,(1)最先端技術産業に係るケース,(2)保護主義への対応,(3)共同申立国としての参加という特徴が見られる旨指摘されました。
続いて,末冨純子弁護士から,紛争解決制度の利点として,(1)紛争当事国は,国内での各省協議,共同申立国との協議などを重ね,第三国の意見も提出されるため孤独ではない点,(2)WTO紛争解決制度ではパワー・ポリティックスから離れて当事国が公平な立場で議論をできる点,(3)他国に影響を及ぼす可能性のある保護主義を最小化する効果が期待できる点を指摘されました。
最後に,清水章雄早稲田大学教授からは,地域貿易協定(RTA)にかかる紛争にDSUにおける仲裁を活用することの可能性について提案がなされました。実現することは非常に難しいであろうが,DSUにおける仲裁を活用できれば,貿易に関する協定の断片化を防ぐことが出来るかも知れない旨発言されました。
(2)質疑応答
会場からは,国内裁判所とWTOの紛争解決制度の違い,国際仲裁裁判などWTO以外の紛争が同じ措置を問題とした場合のWTOの紛争解決プロセスへの影響の有無,他の国際司法プロセスとWTO紛争解決制度の相違点,地域貿易協定における紛争へのWTO紛争解決制度活用の可否,日本人弁護士の紛争処理案件への関与状況,弁護士や民間企業のWTO紛争案件への携わり方,DSBによる勧告の履行状況,第三国参加の権利拡大の可能性等について質問が行われ,パネリストからそれぞれコメントが行われました。
(参考)パネルの構成
モデレーター:荒木一郎・横浜国立大学教授
パネリスト:バレリー・ヒューズWTO事務局法務部長
清水章雄・早稲田大学教授
末冨純子弁護士(ベーカー&マッケンジー法律事務所)
齊藤幸司・外務省WTO紛争処理室長