国連外交
安倍総理大臣の第68回国連総会出席(概要)
平成25年9月30日
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1. 主要行事の結果概要
(1)一般討論演説(26日(木曜日))
安倍総理は26日(木曜日)に国連総会にて一般討論演説を行い,概要以下のとおり述べた。
ア.冒頭
シリアの化学兵器の破棄に向けた国際社会の努力を支持し、能うる限りの協力を表明。難民支援や周辺国支援として、新たに6000万ドル相当を追加実施。こうした支援を、ジュネーブ2を始めとする政治対話のプロセスと並行する形で進める。
イ.積極的平和主義の考え方
- 日本経済を強く建て直し、日本を世界に対して善をなし頼れる力とする。
- 国際社会との協調を柱としつつ、世界に繁栄と平和をもたらすべく努めてきた日本の実績を土台とし、新たに積極的平和主義の旗を掲げる。
- 世界のパワーバランスが急速に変化し、国境を越えた新たな脅威が生まれている中、今や一国のみでは、自らの平和と安全を守ることはできない。国連が果たすべき役割の重要性は増しており、日本の訴え続けている人間の安全保障の理念も今まで以上に意味合いを増す。
- 人間の安全保障委員会が報告書を提出してから長きにわたる議論の積み重ねを経て、昨年、その共通理解に関する決議が、国連総会で採択された。先人達の英知も借りながら、更なる概念の普及と実践の積み重ねを進める決意。
- 日本は、積極的平和主義の立場から、PKOを始め、国連の集団安全保障措置に対し、より一層積極的な参加ができるよう、国連の活動にふさわしい人材を弛まず育てなくてはならない。
ウ.世界的課題に取り組む日本
- 開かれた海の安定は公共財。海洋秩序の力による変更は許されない。
- 原子爆弾の惨禍を知る日本として、核軍縮・不拡散、ひいては核廃絶にひたすら献身。
- 北朝鮮の核・ミサイル開発は許されない。他の大量破壊兵器にも強い懸念。自分の政権のうちに拉致問題を完全に解決する決意。この問題の解決抜きに日朝国交正常化はあり得ない。
- イランの核問題については、同国新政権が具体的な行動をとることに期待し、その解決に向け、日本は引き続き役割を担う用意。中東和平プロセスについても、日本独自の貢献を継続。
- アフリカ諸国に対しては、日本は、人材育成を主眼とし、オーナーシップにのっとった持続可能な成長を図るべく、自らの経験を踏まえた協力を継続。6月のTICADVは、日本とアフリカが、夢を紡ぐ変わらぬパートナーであることを確かめ合う場となった。
- 安保理の現状がかれこれ70年前のままであることは遺憾。遅滞なく改革されるべきであり、日本は常任理事国となる意欲にいささかも変わりはない。
エ.女性が輝く社会をつくる
- 日本の成長は世界の利得。いかにして日本は成長を図るのか。女性の力の活用にほかならない。
- 女性の社会進出を促すほど、成長率は高くなる(「ウィメノミクス」)。女性の労働機会・活動の場の充実は、日本にとって焦眉の課題。
- 女性が輝く社会をつくる。国内の仕組みを変えようと取り組んでいるが、これは国内の課題に留まらず、日本外交を導く糸ともなる。
- 国際社会を主導する一員となるための貢献を4点紹介。
- UNウィメンの活動を尊重し、有力貢献国の一つとして、誇りある存在となることを目指し、関係国際機関と連携を図る。
- 日本も、女性・平和・安全保障に関する行動計画を、草の根で働く人々との協力により策定。
- 国際刑事裁判所及び紛争下の性的暴力に関する国連事務総長特別代表との密な協力を図る。憤激すべきは、21世紀の今なお紛争下の性的暴力がやまない現実。犯罪を予防し、被害を受けた人たちを支えるため努力を惜しまない。
- 自然災害においてともすれば弱者となる女性に配慮する決議を、次回「国連婦人の地位委員会」に再度提出。
- 女性が輝く社会の実現に向けた日本の開発思想となすべき課題を、3人の女性を例として紹介し、3つの柱として明らかにする。
- 女性の社会進出を進めることとその能力開発が必要。このために、創意に満ちた努力を行う。
- 女性を対象とする保健医療分野の取組に力を加える。日本は、HIV/AIDS、マラリア、結核との戦いを世界的規模で図る「世界基金」を始めるに際し、リード役を務めており、次期第4次増資会合でもふさわしい貢献を行う。ポストMDGsにおいてもフォーカスを広げ、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を推進。
- 平和と安全保障の分野における女性の参画とその保護が重要。紛争の予防と解決、平和構築に至る全段階で、女性の参画を確保し、紛争下で危険にさらされる女性の権利・身体を守る対策に努める。
- これら3つの柱を立て、今後3年間で30億ドルを超すODAの実施を表明。
オ.結語
女性の力を育てることに焦点を合わせる日本の開発思想は、世界に平和と厚生をより多くもたらすもの。日本国内でも、紛争下の地域や貧困に悩む国々でも、女性が輝く社会をもたらしたい。
(2)ハドソン研究所主催行事におけるスピーチ(25日(水曜日))
ハドソン研究所よりハーマン・カーン賞を授与された安倍総理は,日本経済の再建について説明するとともに,積極的平和主義に基づいた安全保障の取組についてスピーチを行った。
(3)ニューヨーク証券取引所でのスピーチ(25日(水曜日))
ニューヨーク証券取引所を訪問した安倍総理は,日本経済の潜在力を具体的に挙げつつ,成長戦略等についてスピーチを行い,クロージング・ベルの鳴鐘を行った。
(4)二国間会談等
ア.オランド仏大統領(24日(火曜日))
両国首脳は,シリア情勢,福島第一原発の廃炉にむけた取組,経済成長戦略等について意見交換を行った。また,安倍総理が,ナイロビのテロ事件でフランス人2名が犠牲になったことに哀悼の意を表したほか,オランド大統領から,フランス訪問の招待があり,安倍総理はこれに感謝しつつ,できるだけ早期に訪問したい旨回答した。
イ.ローハニ・イラン大統領(26日(木曜日))
両国首脳は,二国間関係,核問題,シリア情勢等について意見交換を行った。ローハニ大統領が,高村総理特使派遣に謝意を述べたのに対し、安倍総理は,高村総理特使に対するもてなしに謝意を述べつつ,ローハニ大統領が国際社会との建設的協力を目指すとの立場を示していることを歓迎する旨述べた。また安倍総理から,国際社会は新政権の対応に期待しており,機会の窓を捉えて柔軟性を示すことが鍵であると述べ,日本としても問題の解決に協力したいと述べたところ,ローハニ大統領は核問題を早期に解決したいと述べた。
ウ.シャリフ・パキスタン首相(26日(木曜日))
両国首脳は,二国間関係について意見交換を行い,安倍総理は,シャリフ首相に対し,首相就任に対する祝意を表明するとともに,パキスタンの政治的安定と経済発展は南西アジアの安定と成長に重要であり,日パキスタン間の新たなパートナーシップを構築していきたい旨述べた。シャリフ首相より,貿易・投資をはじめとする二国間関係の更なる強化に対する期待が述べられた。また,両国首脳は,地域情勢(インド,アフガニスタン)についても意見交換を行った。
エ.アッシュ第68回国連総会議長(26日(木曜日))
安倍総理とアッシュ第68回国連総会議長は,安保理改革,ポスト2015年開発目標,女性を巡る課題等について意見交換を行った。また,アッシュ議長が安倍総理に,総理の一般討論演説に感銘を受けたと述べたほか,安倍総理がアッシュ議長に,訪日招待するとしつつ,早期の訪日を要請したのに対し,アッシュ議長より,招待に感謝するとの回答があった。
オ.潘基文国連事務総長(25日(水曜日))
安倍総理と潘基文国連事務総長は,シリア情勢,南スーダンPKO,ミャンマー情勢,朝鮮半島情勢,女性のエンパワーメント,ポスト2015年開発目標について意見交換を行った。また,潘事務総長は安倍総理に対し,2014年秋に予定される気候変動サミットを,できれば国連総会のタイミングと合わせたいので,是非参加してほしいとの要請があった。
カ.ビル・ゲイツ氏及びボノ氏(25日(水曜日))
安倍総理とゲイツ氏及びボノ氏は,国際保健についてそれぞれ意見交換を行った。両氏とも,保健分野に対する日本の支援を高く評価するとともに,世界エイズ・結核・マラリア対策基金の第4次増資会合における日本の積極的な貢献を期待している旨述べた。
キ.日アフリカ地域経済共同体(RECs)議長国首脳会合(26日(木曜日))
安倍総理は,日・アフリカ地域経済共同体(RECs)首脳会合を主催。同会合には,ウワタラ・コートジボワール大統領(西部アフリカ諸国経済共同体議長国),バンダ・マラウイ大統領(南部アフリカ開発共同体議長国),ゼイダーン・リビア首相(アラブ・マグレブ連合議長国)をはじめ,各RECs議長国首脳・閣僚の他,TICAD共催者,各RECs事務局関係者等が参加し,TICAD Vのフォローアップの一環として,アフリカの農業開発をテーマに議論を行った。
(5)多国間会合等
ア.MDGs特別イベント(25日(水曜日))
安倍総理が行った発言のポイントは以下の通り。
- ポスト2015年開発目標においては人間の安全保障を指導理念として極度の貧困の撲滅を目指すべき。
- ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)や防災の主流化を特に重視する。
- 民間資金の活用や,新興国経済の活力の活用も含めて,国際社会の様々なステークホルダーが協力する新たなパートナーシップを目指すことが必要。
イ.核軍縮ハイレベル会合(26日(木曜日))
安倍総理が行った発言のポイントは以下の通り。
- 核軍縮において最も重要なのは,核兵器保有国による核削減努力と核戦力の透明性向上。また,核兵器保有国のみならず,非核兵器国の取組も重要。核兵器国と非核兵器国との相互の信頼の上に,双方が現実的かつ実践的な取組を着実に積み重ねていくことが,「核兵器のない世界」への最も確実な道。
- 次回核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議が開催される2015年は,広島と長崎の惨禍から70年という節目の年。核軍縮を進展させるためには,政治的指導力が必要不可欠。各国の政治指導者には是非広島と長崎を訪れて頂き、被爆の惨禍を直接肌で感じて頂きたい。
- 2020年の東京オリンピック・パラリンピックについても平和を考えるスポーツの祭典としたい。核兵器国,非核兵器国という立場を越えて,今こそ核兵器廃絶に向けて国際社会が総力を結集するとき。
ウ.サイドイベント「ポスト2015年:保健と開発」(25日(水曜日))
日本政府はサイドイベント「ポスト2015年:保健と開発」を主催し,安倍総理大臣は,冒頭の挨拶にて,ポスト2015年開発目標におけるUHCの主流化の重要性を訴えた。
参加したクラーク国連開発計画(UNDP)総裁,キム世界銀行総裁,チャン世界保健機関(WHO)事務局長等は,開発におけるUHCの重要性について指摘するとともに,人間の安全保障と保健分野における日本のリーダーシップに対する高い評価を表明した。
(6)その他
ア.米国有識者との懇談(24日(火曜日))
安倍総理は,米国有識者5名(オルブライト元国務長官,ブレマー・ユーラシア・グループ社長,ハース外交問題評議会(CFR)会長,パトリック・コロンビア大学教授兼日本経済経営研究所所長,サックス・コロンビア大学教授兼地球研究所長)との懇談を実施した。
安倍総理からは,経済政策や安全保障政策での取組をはじめとする安倍政権の優先課題や日米関係,アジア太平洋地域情勢についての考えを説明した。各有識者からは,安倍政権の取組を評価する旨の意見が述べられるとともに,日米関係や地域情勢について,出席者の間で積極的で建設的な議論が行われた。
イ.総理夫妻主催レセプション(25日(水曜日))
安倍総理は,本レセプションのテーマである「日本の再生~女性が輝く社会の実現~」に即した開会の挨拶を行い,日本の飛躍に向けて「日本再興戦略」を打ち出すなど,就任以来日本再生に取り組んできたことに言及しつつ,日本再生のためは,日本国民,とりわけ女性がその能力を最大限に発揮できることが重要である旨指摘したほか,国内においては,女性が輝く社会の実現を後押しする政策を実施するとともに,国際貢献についても積極的に行う決意を表明した。レセプションには,サーリーフ・リベリア大統領をはじめとする7か国の首脳の他,アッシュ第68回国連総会議長等国際機関関係者,日系企業関係者など,200名を越える方々が出席した。
ウ.ニューヨークで活躍する女性との懇談(26日(木曜日))
安倍総理夫妻は,様々な分野で活躍する米国人女性の方々と懇談を行い,総理から,日本の社会を活性化するためには,女性の社会進出を積極的に支援し,女性のエンパワーメントを実現することが極めて重要である旨述べたところ,出席者は,安倍総理の発言を歓迎するとともに,一般討論演説で総理が女性の問題に多くの時間を割いたことへの評価を述べました。また,出席者側から,女性が活躍する社会の実現に向けた様々な提案が行われるなど,活発な意見交換が行行われました。
また,安倍総理夫妻は,文化,芸術等の分野において,米国を中心に世界で活躍する日本人女性の方々と懇談も行い,総理から,成功を収めた出席者のこれまでの努力に敬意を表するとともに,我が国が女性を重視した政策を着実に実施していくために意見交換を行いたい旨述べ,出席者からは自らの経験談が紹介されるなど,なごやかな意見交換が行われた。
エ.国連日本人職員との懇談(26日(木曜日))
安倍総理夫妻は、国連機関で勤務する日本人職員と懇談を行い,国連事務局、国連開発計画(UNDP)、国連児童基金(UNICEF)等諸機関で勤務する75名の邦人職員が出席した。
安倍総理は出席した日本人職員に対し,国際社会の最前線に立って活躍している日本人職員に対して激励の言葉と日本人職員の活躍を政府としても支援していきたいとの考えを述べた。
これに対し,ニューヨーク国連日本人職員会会長の伊東亜紀子氏から,日本再生,そして日本新生のための取り組みが進んでいることがニューヨークでも感じられる,また、安倍総理が同日の国連演説の中で女性の活躍を最重要課題の一つとして取り上げたことは、日本の国際貢献にとって重要な意義があると思う旨の発言があった。
2. 日程
9月24日(火曜日)
午後 オタワ(カナダ)発
ニューヨーク着
日仏首脳会談
米国有識者との懇談
9月25日(水曜日)
午前 ビル・ゲイツ氏との会談
MDGs特別イベント出席
潘基文国連事務総長との会談
ボノ氏との会談
サイドイベント「ポスト2015年:保健と開発」出席
午後 ハドソン研究所主催行事出席
ニューヨーク証券取引所訪問
グラウンド・ゼロ訪問
総理夫妻主催レセプション
9月26日(木曜日)
午前 日イラン首脳会談
核軍縮に関するハイレベル会合出席
日パキスタン首脳会談
午後 一般討論演説
アッシュ第68回国連総会議長との会談
日アフリカ地域経済共同体(RECs)議長国首脳会合
ニューヨークで活躍する女性との懇談
国連日本人職員との懇談
9月27日(金曜日)
午前 内外記者会見
午後 ニューヨーク発(翌日羽田着)