外交政策

平成25年7月9日
 7月1日から5日まで,ウィーンにおいて,国際原子力機関(IAEA)の主催により,「核セキュリティに関する国際会議:グローバルな努力の強化」が開催され,我が国から政府代表として,鈴木俊一外務副大臣が出席した。
 同会議は,IAEAが主催する核セキュリティに関する初めての閣僚級の会議であり,核セキュリティ強化のための国際社会における近年の成果を総括するとともに,2014年以降の中長期の目標及び優先事項について検討することを目的として開催された。125か国及び21国際機関・団体から1300人以上の参加登録があり,我が国を含む34か国から閣僚レベルの出席があった。
鈴木副大臣は,我が国政府代表として演説を行うとともに,天野IAEA事務局長,ティマーマンス・オランダ外務大臣,モニーツ米エネルギー省長官と個別に会談を行った。
 同会議の概要は以下のとおり。
 
1 閣僚会合
 
(1)各国政府代表による演説がおこなわれ,我が国からは鈴木副大臣が7番目に登壇し,概要以下のとおり演説を行った。
核セキュリティにおけるIAEAの役割と我が国のサポート
  • 核セキュリティ強化のためのIAEAの主導的役割を評価。特に,2001年9月11日の米国同時多発テロ発生以降のIAEAの包括的な取組を評価し,IAEAの活動を支持・支援。核セキュリティ基金にも拠出。
  • 2011年3月の福島第一原発事故に関し,得られた知見・教訓をテロ攻撃とそれに伴う事故に対する備えにも活かしていくことが可能。我が国は,引き続き,関連する情報について透明性をもって加盟国と共有し,国際的な核セキュリティの強化にも貢献する考え。
核セキュリティ強化のための国内的取組
  • 核セキュリティ確保には,行政の広範な分野にわたる取組が必要。政治的リーダーシップの下,関係機関による緊密な調整・協力が重要。
  • 我が国は,保障措置,原子力安全に,核セキュリティを入れた「3S」の重要性を一貫して主張。昨年9月,核セキュリティ,原子力安全及び保障措置を独立した組織で一元的に扱う原子力規制委員会を設置。
  • 我が国は,共同実動訓練等の核セキュリティ対策を着実に実施してきており,今後ともこれを継続。
  • 我が国として改正核物質防護条約(注1)の重要性を認識しており,締結に向けた検討を加速。 
  • 我が国は,国際核物質防護諮問サービス(IPPAS)(注2)ミッションの可能な限り速やかな受入れ及びそれに先立つIPPASワークショップの2014年3月までの開催につき前向きに検討中。
核セキュリティ強化のための国際的取組
  • 我が国は,核不拡散・核セキュリティ総合支援センター(ISCN)(注3)による各国の能力構築支援を行ってきており,今後も貢献を継続。また,各国・地域の研究拠点との協力を推進。
  • JAEAとIAEAとの間で協力をさらに進めるべく,プラクティカル・アレンジメント(注4)を結ぶ方向で検討中。
  • ソウル核セキュリティ・サミットにおける輸送セキュリティに関する共同声明を踏まえ,我が国は,先般,第1回作業部会を開催し,今後,机上訓練を開催する予定。ハーグ核セキュリティ・サミットに本分野に関する提言を提出すべく,引き続き主導的役割を果たしていく考え。
(2)閣僚会合初日に,閣僚宣言が発出された。
2 本会合
 
 以下の議題についての6つのメイン・セッションが行われた。

(1)核セキュリティの国際的枠組みの実施と強化
改正核物質防護条約の発効促進やIAEA勧告文書等の国内取入れ等に関するプレゼンテーション及び質疑応答が行われた。
 
(2)核物質と原子力施設の核セキュリティ確保核物質防護制度や情報管理,原子力施設のサイバー・セキュリティ等に関するプレゼンテーション及び質疑応答があり,その後IAEAの「核物質及び原子力施設防護に関する核セキュリティ勧告(INFCIRC/225/Rev.5)」の実施に関するパネル・ディスカッションが行われた(我が国より,内藤香核物質管理センター理事長がスピーカーとして参加。)。
 
(3)放射線源及び関連施設の核セキュリティ
IAEA勧告文書の国内取入れや放射線源の輸送セキュリティ等に関するプレゼンテーション及び質疑応答があり,その後,放射線源のセキュリティのための包括的プログラムの開発に関するパネル・ディスカッションが行われた。
 
(4)国際協力・支援及びIAEAの役割
IAEAをはじめとする各種国際協力枠組みに関するプレゼンテーション及び質疑応答があり,その後,二国間及び地域的な協力・支援に関するパネル・ディスカッションが行われた。
 
(5)核セキュリティ文化(注5)の涵養と維持
原子力研究機関の役割や人材育成,北東アジアにおける研究拠点間の協力等に関するプレゼンテーション及び質疑応答があり,その後,効果的な核セキュリティ文化についてパネル・ディスカッションが行われた(我が国より,千崎雅生日本原子力研究開発機構核不拡散・核セキュリティ総合支援センター長が共同議長を務めた。)。
 
(6)核物質の不法移転の脅威への対応
核物質の不法移転の脅威に対応するためのIAEAの取組や国際的協力枠組等に関するプレゼンテーション及び質疑応答があり,その後,国内及び国際間の調整の強化に関するパネル・ディスカッションが行われた。
 
3 二国間会談等

 1日,鈴木副大臣は,天野IAEA事務局長,ティマーマンス・オランダ外務大臣,モニーツ米エネルギー省長官と個別に会談を行った。

(1)天野IAEA事務局長
 鈴木副大臣から,核セキュリティ分野における天野事務局長のイニシアティブを高く評価する旨述べるとともに,我が国の取組について直接説明した。
 また,福島第一原発事故後の対応に関するIAEAとの協力を引き続き進めていくことを確認するとともに,北朝鮮,イランの核問題をはじめとするIAEAの取組を引き続き最大限支援していく旨述べた。
 天野事務局長からは,本会議への鈴木副大臣の参加及びIAEAに対する日本の支援に対する謝意を述べた上で,IAEAによる福島への支援を継続していく旨述べた。

(2)ティマーマンス・オランダ外務大臣
 両者は,2014年のハーグ核セキュリティ・サミット及び同年の軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI)広島外相会合に向けた協力を確認し,日蘭関係のさらなる強化について意見交換を行った。

(3)モニーツ米エネルギー省長官
鈴木副大臣から,日米両国が資源・エネルギー分野において協力を進めていくことが極めて重要である旨述べ,米国産天然ガスの対日輸出への協力を要請するとともに,両者は,今回の核セキュリティを含む日米間の民生用原子力協力を引き続き進めていくことを確認した。
 

注1:核物質防護条約は,核物質を不法な取得及び使用から守ることを主目的とする条約。改正により,原子力施設も防護の対象とされるなど,強化が図られたが,2013年6月現在,改正は未発効(改正の発効には99か国の締結が必要。現在68か国が締結。)。我が国は1988年10月に現行条約を締結,改正は未締結。

注2:IAEAが各国からの要請に応じて提供するサービス。核物質防護システムを評価するにあたっての支援を行う。

注3:主にアジア諸国の規制当局者等を対象に核不拡散・核セキュリティに関する能力構築支援を行うため,2010年12月に原子力研究開発機構(JAEA)内に設立された研究拠点。

注4:両機関間の協力の具体的枠組みを整理する,法的拘束力を有さない実施取決め。

注5:核セキュリティに責任を有する組織及び各組織に属する個人が核セキュリティの確保において各自に期待される役割とその重要性を認識するなど、核セキュリティを重視する風土である文化を醸成し、その維持向上に努めること。

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