経済外交
2013年OECD閣僚理事会(概要と評価)
- 今次閣僚理事会の際に公表されたエコノミック・アウトルックにおいて,日本の実質GDP成長率が,2013暦年は1.6%,2014暦年は1.4%と見込まれ,以前の見通しから上方修正された。また,「3本の矢」からなるアベノミクスについては,各国から評価する声が聞かれた。
- 我が国のOECD加盟50周年の2014年に我が国が閣僚理事会議長国を務めることに期待が寄せられるとともに,議長サマリーにおいても,日本の議長の下2014年5月6日及び7日に行われる閣僚理事会への期待が示された。
- コロンビアとラトビアの加盟手続の開始,及び,2015年にコスタリカとリトアニアの加盟手続の開始の決定を行うことを念頭に今後状況のレビューを行うとの理事会決定が今次閣僚理事会で歓迎された。多くの加盟国から,アジアへの取組の重要性が指摘されるとともに,特に,「東南アジア地域プログラム」立ち上げを評価する旨の発言が多くあった。
- グローバル・バリュー・チェーン(GVC)や付加価値貿易(TiVA)のOECDへの取組について支持が表明され,本年12月のWTO閣僚会合で具体的成果を出すべく各国が協力していく必要性について言及がなされた。
5月29日(水曜日)から30日(木曜日)にかけ,パリのOECD本部でOECD閣僚理事会が開催され,我が国からは,林農林水産大臣,西村内閣府副大臣及び鈴木外務副大臣他が出席した。今次閣僚理事会には,OECD加盟国34か国に加え,ロシア(加盟候補国),キー・パートナー諸国(中国,インド,インドネシア,ブラジル及び南アフリカ)等が参加した。
30日午後,閣僚理事会の最後で「閣僚声明」(英文(PDF),和文仮訳(PDF)
)がコンセンサスで採択された。
1 総論
今次閣僚理事会は,「人がすべて:雇用,格差及び信頼」(It’s all about people: Jobs, Equality and Trust)」をメインテーマとし,「経済的課題に対する新たなアプローチ」,雇用・格差・信頼,ジェンダー平等の促進,OECD技能(スキル)戦略,貿易等就中,雇用及び格差是正の重要性について議論された。
2 各議論の概要
(1)世界経済の見通し(エコノミック・アウトルック)の公表(29日午前)
冒頭,ストルテンベルク・ノルウェー首相から,基調演説があり,雇用の重要性について指摘がなされた。その後,世界経済の見通しについてパネル・ディスカッションが行われ,アベノミクスに対する期待の声が多く聞かれた。一部の参加者から,アベノミクスによる為替の変動への懸念が示された。西村内閣府副大臣から,アベノミクスの各取組について紹介した。
(2)「経済的課題に対する新たなアプローチ及びあまねく広がる成長の優先付け」(29日昼)
冒頭,グリア事務総長より,1年間の活動報告と今後のOECDの戦略的な方向性について報告が行われた。また,2012年の閣僚理事会において,経済危機後の回復の低迷,失業の高止まりや格差の拡大,財政の悪化等に対処するためにOECDの分析フレームワークや政策アドバイスの改善を目指し,取組が開始されたプロジェクトである「経済的課題に対する新たなアプローチ(NAEC)」の中間報告がグリア事務総長から行われた。
多くの加盟国からは,NAECに対する支持表明とともに,来年の閣僚理事会における最終報告への期待,NAECの提言を通じて,各国が改革のための措置を取りいれ信頼を取り戻す必要性,NAECのレビューを行う必要性等につき意見が表明された。
(3)「人々がすべて:雇用,格差及び信頼」(29日午後)
本セッション前半で,「より包摂的な社会に向けた格差への取組(格差)」につき,後半で「雇用,労働市場,技能(スキル)/制度の重要性-信頼と自信の再構築(雇用と信頼)」について意見交換が行われた。
金融危機後に各国が直面する短期的課題(失業増と財政悪化)と長期的課題(経済成長と公正な分配の両立,政府への信頼回復)を明らかにしつつ,雇用創出,技能(スキル)への投資,財政規律と社会保障のバランス,税源浸食と利益移転(BEPS)への取組の重要性等につき,各国から様々な意見が述べられた。特に,若年層の雇用対策のための技能(スキル)向上や,男女(ジェンダー)格差是正の取り組みが,新たな成長の源泉として重要であるとの点が指摘された。
セッション後半冒頭部分で西村内閣府副大臣より,日本の雇用政策について,少子高齢化が進み,若者の非正規雇用も増加する中,若者・女性の雇用促進が成長力強化にとって重要であること,具体的対策として,新卒者を対象とした雇用のマッチング,ジョブカード制度の活用支援,日本人留学生の倍増及び外国人留学生受け入れの増加,女性の労働参加率・管理職の割合増加のための取り組み,個人識別番号法で世界最先端の電子政府を目指していくこと等を説明し,来年日本がOECD閣僚理事会の議長国であることを表明し,来年には日本経済が本格的な成長軌道に乗っていることを確信する旨述べた。
本セッションにおいて,「ジェンダー平等に関する理事会勧告」,「税源浸食と利益移転(BEPS)に関する宣言」,「新たな成長の源泉:知識資産についての統合報告書」,「若年者雇用のためのアクションプラン」が採択された。
(4)「OECDパートナーと開発戦略」(OECD開発戦略,並びにキー・パートナー諸国,その他重要な国・地域との関係)(30日午前)
各国からはOECD開発戦略への支持とともに,ポスト2015年開発目標に向けたOECDへの期待が示された。アウトリーチでは特に,「東南アジア地域プログラム」の立ち上げの評価する発言があった。
セッション冒頭,リード・スピーカーを務めた鈴木外務副大臣より,OECD開発戦略への支持とともに,グリーン・シティ実現に向けた取組,開発戦略における食料安全保障の重要性,加盟国,ロシア,キー・パートナー諸国とともに成長と開発の課題に取り組む重要性について言及した。また,同副大臣から,特に,インドネシアとの間で包括的な協力枠組み合意を締結したことは大きな進展である旨,また,今般,「東南アジア地域プログラム」の立ち上げが合意されたことを歓迎し,同プログラムの着実な実施と東南アジア諸国への理解促進につながることを期待する旨述べた。
(5)「貿易」(30日午後)
グローバル・バリュー・チェーン(GVC)について,付加価値貿易(Trade in Value Added)という観点からの分析の下での貿易政策や市場の変化,民間企業のGVCへの統合における政策的課題等について議論が行われた。各国からは,OECDのGVCの取組への支持と,GVCに途上国を取り組む必要性について言及がなされた。また,保護主義抑止に向けた各国のコミットメントが引き続き重要であるとの意見が出された。さらに,本年12月のWTO閣僚会議で具体的成果を出すべく,各国が協力していく必要があるとの意見が出され,貿易円滑化協定締結への期待が表明された。セッション終了前に,退任が決まっているラミーWTO事務局長のこれまでの貢献への謝意が示された。
鈴木外務副大臣より,スタンド・スティルやロール・バックなど保護主義抑止のコミットメントを再確認し,WTO閣僚会議に向け,具体的成果を上げることの重要性とそのための政治的意思が必要である旨言及し,自由貿易の利点を十分理解するために,客観的なデータ,分析や評価を活用することが有効であり,グローバル・バリュー・チェーン(GVC)と付加価値貿易(TiVA)の分析が先進国のみならず途上国も貿易自由化から大きな利益を得られることを示している旨述べ,世界経済のさらなる成長のために,先進国,新興国,途上国のすべての国々がGVCに参画し,利益を共有することが重要である,特に世界経済における役割と責任が増大している新興国や途上国による取組が重要であり,途上国がGVCから利益を得るための最も効率的な方法は,海外から直接投資を呼び込むものであり,「貿易のための援助」は,途上国の自発的な努力を支援し,投資環境の向上に貢献するものである旨述べた。最後に,同副大臣から,GVCの活動を通じて,すべての国がウィン・ウィンの関係を実現できるよう,引き続きOECDにおける作業に貢献していきたい旨述べた。
(6)「閉会式」(30日午後)
来年2014年が日本のOECD加盟50周年にあたり,同年の閣僚理事会議長国を務める日本の国務大臣として,林芳正農林水産大臣が議長国を務めるにあたっての抱負を述べ,来年に向けて加盟国,パートナー諸国との協力を求めた。
アイデ・ノルウェー外務大臣(本年閣僚理事会議長国)から,日本が来年加盟50周年を迎えることについて祝意が示されるとともに,議長国ノルウェーとしても,日本の2014年閣僚理事会成功に向けた取り組みに期待している旨述べた。