
第47回OECD閣僚理事会(概要と評価)
平成20年6月5日
1.6月4日から5日、第47回OECD閣僚理事会が開催され、我が国を代表して、甘利経産大臣、若林農水大臣、木村内閣府副大臣、及び木村外務副大臣が出席した。
2.今回の閣僚理事会では、「世界経済」、「OECDの活動及び戦略的方向付け」、「気候変動の経済」、「改革の政治経済」、「OECD運営事項」、「多角的貿易体制」、「ソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)」「成長と繁栄のための挑戦」等の議題の下で議論が行われた。会議終了後に、議長総括(仮訳・英文
)が発表された。
3.閣僚理事会の各議題における議論の概要は、次のとおり。
<6月4日>
(1)世界経済
- OECD事務局より、「OECDエコノミック・アウトルック」の説明があった。この中で、経済成長は強い逆風を受けて減速しており、景気減速は広範にわたるが、その度合いは国により異なる、金融市場の混乱リスクには、下方リスクも上方リスクもある、インフレ期待が高まれば景気刺激策が抑制されるであろう、物価政策は経済圏によって異なる、等の見方が示された。
- 閣僚による議論においては、各国経済情勢の報告が行われ、金融市場の混乱、原油や食糧価格の高騰を背景とするインフレの進行に対する懸念が数多く示された。金融市場の混乱の問題については、OECDが再発防止のため、問題の背景分析を行い、原因を追及することへの期待が示された。
- 食料価格高騰の問題については、特に貧困国における食料危機への強い懸念が示された。
- また、世界経済の成長に対し、途上国の貢献が重要な役割を担っていることへの認識が共有された。
- 我が国(木村内閣府副大臣)からは、日本経済の状況、財政健全化、成長促進への努力、対日直接投資推進を含む福田内閣の構造改革への取り組みを説明した。また、木村外務副大臣からは、グローバリゼーションの長所を生かしつつ、その恩恵が全ての人々に均霑されるための政策の重要性を指摘し、我が国の途上国支援策(1億ドルの緊急食糧援助)及び5千万ドルの食糧増産援助を説明した。
(2)OECDの活動及び戦略的方向付け(事務総長報告)
- グリアOECD事務総長より、過去一年間のOECDの活動実績及び今後の活動の方向性について報告があった。
- 我が国(木村外務副大臣)より、今後のOECDの活動は、限られたリソースの中で、他の国際機関との重複を避け、比較優位を有する分野に専念することが不可欠であると指摘した。
(3)気候変動の経済
- 意欲的な温室効果ガス削減を達成するための政策のあり方、及び排出削減のための国内的及び国際的合意形成を促進する政策のあり方について議論された。
- 気候変動は緊急に対策を講じる必要があることや、成長と環境の両立の必要性について認識の一致があった。また、気候変動への取り組みには、排出量取引や炭素税などの価格的手法に加えて、技術開発・普及、制度や基準など様々な政策が必要であるとの認識で一致があり、それぞれの政策の効果・費用の分析、データーの集積などOECDの比較優位のある分野での貢献に期待が表明された。
- 温室効果ガス排出削減やカーボンリーケージ回避のためには、ポスト京都議定書の枠組みには主要排出国の参加が必要。
- 我が国(甘利経産大臣)からは、ポスト京都議定書の枠組みにおいて、すべての主要経済国が責任ある形で参加する衡平な枠組みが必要であること、セクター別アプローチの重要性を主張した。また、木村外務副大臣から、適応の問題も重要であること、温室効果ガス排出削減と経済成長を両立しようとする途上国との間で、100億ドル規模のクールアース・パートナーシップ構築により、途上国の排出削減等の取組を積極的に支援すること、排出抑制取組等を支援する多国間基金を世銀に立ち上げるべく、関係各国と準備を進めていることを紹介し、各国の積極的な参加を呼びかけた。また、先般のDACハイレベル会合における「開発協力における適応の主流化に関するステートメント」(英文(PDF)
)の採択を歓迎する旨述べた。
(4)改革の政治経済
- 議長(ラガルド仏経済相)等から、国内改革への取組みとその困難について、自国における制度の改革を例にとり、自らの経験を発表。各国閣僚間で、今後の取組みの有益な材料として共有した(木村内閣府副大臣出席)。
<6月5日>
(5)OECDの内部管理事項(新規加盟、関与強化、財政改革)
- 新規加盟については、候補国(ロシア、チリ、エストニア、イスラエル、スロベニア)の加盟審査の進捗状況を確認した。
- 関与強化の対象国・地域(ブラジル、中国、インド、インドネシア、南ア、東南アジア)との間で、オブザーバー参加などを進めていくなどの方針を確認。
- 我が国(木村外務副大臣)からは、新規加盟国がOECDの加盟国として責任と義務を果たし、付加価値をもたらすよう、加盟審査は厳正であるべきことを強調した。また、関与強化に関し、新興国が、開発援助の規範や国際投資等における自由化の推進等でOECD諸国と協調的な行動を取ることを求め、東南アジア地域に対する関与強化の進展に対する期待を表明した。
- 更に、財政改革については、我が国が主張する受益者負担原則を反映した財政改革が、最終段階まで厳しい交渉の上、漸く合意に至り、我が国はこの合意を歓迎した。
(6)多角的貿易体制
- ドーハ開発ラウンドの妥結は、世界経済の成長と途上国の開発のために重要であり、早期交渉の妥結を目指し各国が努力すべきとの認識で一致した。
- 我が国(甘利経産大臣)からは、ドーハラウンドの年内妥結の重要性、ラウンド交渉及び中長期的な貿易秩序のためにOECDが果たす役割の重要性を述べ、併せて、ERIA(東アジア・ASEAN経済研究センター)を紹介した。更に、木村外務副大臣から生産、流通、購入において途上国を支援する「開発イニシアティブ」、TICAD IVの成果を紹介するとともに、食料価格の高騰に関し、農産品の輸出規制の自粛及び規律の強化の必要性を訴えた。
(7)ソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)
- 安全保障上の懸念等を理由として、SWFからの投資に対する保護主義的な対応に陥ることを防ぐべく、投資の自由への決意を確認する、閣僚宣言(仮訳・英文(PDF)
)を採択した。
(8)成長と繁栄のための主要な試練
- 関与強化対象となっている非加盟国5カ国(ブラジル、中国、インド、インドネシア、南ア、東南アジア)の代表の出席を得てグローバルな問題について意見交換した。
- 今日、非加盟国の世界経済における影響力が益々高まっており、OECD諸国とこれらの非加盟国がグローバルな問題を話し合い、できる限り協調した対応をしていくことが、問題解決のために必要であるとの認識が共有された。
- 我が国(若林農水大臣)からは、自国での持続可能な農業生産を実現、輸出規制の自粛、途上国の生産力強化のための技術支援、食料生産と競合しない形でのバイオ燃料生産等の重要性を指摘した。また、OECDの貢献として、食糧需給のシナリオ、輸出規制、農地資源の有効活用についての分析を要請した。
4.評価
国際社会において食料価格高騰を含む世界経済の問題及び気候変動への対応に関心が高まるなか、7月の北海道洞爺湖サミットを控えるこのタイミングで、世界の主要国の間で率直かつ建設的な意見交換が行われたことの意義は大きい。また、前年来の懸案であったOECDの財政改革についても、漸く合意に至ったことの意義は非常に大きい。論点ごとの成果は概ね以下のとおり。
(1)世界経済:OECD加盟国及び新興経済諸国の間で、金融市場の混乱、原油や食料の価格高騰を背景とするインフレの進行が世界経済の主要リスクであるとの認識が共有され、各国がこうした問題に対処していくことの重要性について認識の一致をみたことは大きな成果。我が国は、食料価格高騰問題への対処の重要性を訴えるとともに、我が国が実施している途上国支援の活動を各国に紹介した。
(2)気候変動:気候変動の問題に取り組むに当たっては、政策(ポリシー・ミックス)、技術(セクター別アプローチ)、開発の三つが重要であるとの我が国の主張に多くの国の賛同を得ることができた。また、セクター別アプローチについて、グリア事務総長、アイルランド等より支持があり、議長サマリーにおいて気候変動対策の一つとして認められた。
(3)OECDの運営事項:OECD分担金の分担方式は、従来経済規模に応じた「支払能力」原則に基づいていた。今回の財政改革は、新たに分担金の一部について、各国共通に支払う「基礎料」を導入し、これによってまかないきれない部分を「支払能力」原則により分担する方式に修正された。これにより、我が国が主張してきた「受益者負担」の原則が導入され、大国の過重負担が軽減されることとなった。
(4)貿易:ドーハラウンドの早期妥結の重要性が改めて確認され、政治決断が必要との声が相次いだ。我が国からは、食料価格高騰問題に対応すべく、輸出規制に対する規律の必要性を訴えた。
(5)ソブリン・ウェルス・ファンド(SWF):OECDは、従来より自由な投資環境を推進してきた。投資をめぐる保護主義的な傾向が懸念されるこの時期に、SWFに関する閣僚宣言を採択したことは、投資受入国として、OECDが投資の自由へのコミットメントを再確認する意義がある。
(6)今回の閣僚理事会には、加盟候補国(ロシア、チリ、イスラエル、エストニア、スロベニア)及び関与強化対象国(ブラジル、インド、インドネシア、中国、南アフリカ)が初めて、ほぼ全てのセッションについて、まとまった形で招待された。そのことは、新興経済をはじめ途上国の影響力の高まりを改めて示すこととなり、またOECD諸国として、これら非加盟国が世界経済の諸問題解決のために、より大きな責任を果たすよう奨励していくことの重要性も確認されることとなった。
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